69_恋の予感を感じます!
エルヴィラは目に涙をいっぱいに溜めて、すっかり俯いてしまった。
「すみません、こんなこと言ってもどうしようもないって、一番辛いのはフェリクス様やルシル様だって、分かっているんですけど……」
そう私に向かって謝るエルヴィラ。
うんうん、分かるわ。何もできないけれど、もどかしくて、思わずここまで来てこんな話をしちゃったのよね。私は未来がどうとでもなると分かっているし、いざとなればどうとでもできると思っているから気にしないけれど、そうではないエルヴィラは本気で心を痛めているようだ。きっと、エルヴィラは感受性がとっても豊かで、すごく正義感が強く、真面目な人なのね。
(というか、ひょっとしてエルヴィラって、もうすでにフェリクス様のことが好きなんじゃあないの?)
だから余計に、意に沿わぬ婚約を結ばされた私たちのことが気になるのではないのかしら?
そんなことを考えていると、廊下の方から誰かが来る気配がし始めた。
おや?これは……。
「……ここで、何をしているんだ?」
扉を開けて静かに現れたのは、やっぱりフェリクス様だった。
(まあ、まあまあまあ!うふふ!)
フェリクス様ったら、わざわざエルヴィラを迎えに来たのね!いつも一緒にいるのに、少しいなくなっただけで気になるなんて、これはもはやフェリクス様もエルヴィラに恋に落ちた後なのでは!?
私が視線を向けると、フェリクス様と目が合った。エルヴィラが私と何を話していたのか気になるのよね?
でも大丈夫、分かっていますよ!何も心配いりません。私は予知夢の私とは違って、フェリクス様のことを異性として愛してはいないし、エルヴィラも憎くないし、むしろ二人を応援していますからね!
私はすかさず席を立ち、エルヴィラの元へ一瞬で移動すると、彼女の手を引き流れるような動作で立つように導く。
「えっ?」
気付いたときには立っていたエルヴィラは驚いたように声を上げたけれど、私はそれを気にも留めず、またもや流れるような動作でフェリクス様の元へ彼女をポンッと誘導した。
「エルヴィラ様、さあ元気を出して!フェリクス様がエルヴィラ様をお迎えに来てくださいましたよ!今は色々と気に悩むこともあるでしょうけれど、きっと何もかもうまくいきますから、何も心配はいりませんからね」
「は?ルシル、」
「え、あの……」
何かを言いかけるフェリクス様とエルヴィラ。しかし、ここでフェリクス様が私にどんなフォローをしたとしても、エルヴィラはきっと気にするんじゃあないかしら?だって、私たちは一応とはいえ婚約者同士という立場で、エルヴィラはフェリクス様に(多分)好意を抱いているわけだから、思わぬ方向に誤解をしやすい状況だと言える。
私自身は恋をしたことはないけれど、リリーベルの飼い主だった王女ローゼリアが恋多き女だったから知っているのよ!恋をすると、人は変な方向に思考が飛んでしまいやすいんだって!周りから見れば『どう見てもこうだろう』と分かるような状況でも、恋をしている本人は、どうしてそうなったのかしら?と頭を抱えたくなるような勘違いをし始めるんだもの。特にローゼリアはそういうことが多くて、本当に困ったものだったのよねえ……。
おっといけない、今は思い出に浸っている場合ではなかったわよね。
「ルシル、俺は」
「さあさあ、そろそろマオウルドットがお昼寝の時間なんです。ごめんなさいね。お二人は本邸でゆっくりとお話しした方が良いと思いますわ!」
『え、オレって昼寝なんてしてたっけ?』
エリオスと一緒に別の部屋にいたマオウルドットが、すかさず念話を送ってくるけれど、気にしない気にしない。
小さな体になったマオウルドットはまるで赤ちゃんみたいですからね、こう言ってしまえばきっと信じてもらえるから、ちょっと名前を借りてしまったわ。
「あーあ、ほらね、フェリクスめ。こういう風になると思ったんだよなあ……」
フェリクス様を追ってきていたらしいカイン様は、相変わらずなにやら独り言を呟いている。小さな声で、誰にもバレていないと思っているかもしれないけれど、普通に気づいているけどね?何を言っているかまでは聞こえないから、『また心の声漏れていますよ!』なんて、わざわざ指摘するほどではないけれど。
しかし、私がすでに退室する気満々なことを悟り、空気の読めるカイン様は、フェリクス様とエルヴィラを促し、連れて行ってくれたのだった。
ちなみに、『オレをダシにするなよ!なんだよ昼寝ってさ~!この誇り高きドラゴンであるオレが昼寝なんて、イメージに関わるだろ!』と文句を言ってきたマオウルドットは、その数分後には、子猫たちに囲まれてスヤスヤと寝息を立てていた。
マオウルドット、どんどん可愛くなっていくわよね……残念ながら、誇り高きドラゴンの影は、どこかに潜んでしまっているわよ?
【お知らせ】
少し忙しくなってきていまして、明日からは基本的に夜更新のみになりそうです……!
なるべく毎日更新は続けたいと思っていますので、よろしくお願いします。
それから、もしよければ★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加などで応援いただけるととっても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!
感想や誤字報告もありがとうございます。お返事できていませんが、いただいた感想は全て読ませていただいています。いつも温かいお言葉や嬉しい感想をありがとうございます!




