67_予知夢の未来とその中の運命
『いい?アタシの可愛いリリーベル。予知夢の未来は変えられるけれど、その中の、本当に大事な運命は変えられないものなのさ』
『未来の中の本当に大事な運命ってなあに?』
『それはその予知夢の中で起きる、特に重大な出来事なことが多いわねえ。予知夢は、意味のない未来を見せないからね』
『ふうん……?』
アリス様の話は私には少し難しくて、あまりピンとこなかったのだけれど、それから何度もアリス様と一緒に予知夢を見て、ときには未来を変えていくうちに、未来の中に絶対に変わらない部分があるというのがなんとなく分かるようになっていった。まるで、未来が運命を守っているみたいに、他のどんなことが変わっても、変わらない部分があるのよね。
言語化するには少し難しいのだけれど、なんとなく感覚的に、『この部分だろうな』と感じ取ることはできる。
そして、フェリクス様の呪いが解けること、そしてエルヴィラが聖女として力を覚醒することは、経験上、きっと運命の部分のはずだわ。
だから、予知夢とは違う未来を辿っても……つまり、私が闇魔法を暴走させることがなくっても、エルヴィラは別のタイミングで聖女の力を覚醒させて、フェリクス様の呪いは無事に解けることになるとは思うのだけど。
(でも、それはそれとしてやっぱりちょっと気になっちゃうわよね~)
だって、予知夢の私は闇魔法の暴走でレーウェンフックを丸ごと危機に曝したのよ?それに代わる覚醒のきっかけって、一体どんなに大きな事件が起きることやら!
運命の中心にいるはずのエルヴィラやフェリクス様はきっと大丈夫なはずだし、クラリッサ様の魔法でちょっとやそっとじゃ死なない私は大抵のことはへっちゃらだけど、いざというときにランじいやアリーチェ様やサラ、他の使用人たち、ジャック、マーズ、ミシェルや他の猫ちゃんたちもそうだし、もちろんエリオスやカイン様、マオウルドット……はさすがに私と同じくらい心配ないか?まあ、とにかく、ここにいる私の大事な人達がうっかり巻き込まれて傷ついてしまわないように、気をつけておかなくっちゃ。
アリス様も言っていたわ。
『予知夢の未来を変える時に、気をつけなくちゃいけないのは変わる未来そのものじゃあないよ。変わった未来の先で、運命に守られていない弱い存在をどう守るかさ』
私にはその力があるんだもの、予知夢と同じ時間軸が終わって、運命が現実になるまでは、きちんと見守っていないとね。
(その後はやりたいときにやりたいことをやって、やりたいように生きていくわよ~!)
そう考えて、はたと気付く。
……私、今でもわりとそう生きているわね?うふふ!
きっと、リリーベルの記憶を思い出さなかった世界線の、予知夢の私には、世界が一つしかなかったのよね。だから、その世界の中で自分の居場所を見つけられなくて、否定されてしまって、悲しくて、自分に価値がないような気分になって……。
だけど、きっと予知夢の私にだっていいところはたくさんあったし、いる場所が違えばきっと幸せになれたもの。ただ、世界はそこにしかないと思い込んで、絶望して、自分の幸せを探しに行こうなんて思いつきもしなかっただけ。
(というか、よく見てみれば幸せなんてそこらじゅうに落ちているし隠れているのよね)
それを知っているから、だから私は願ってやまない。皆が皆、『幸せ見つけ上手』になればいいなあ。
そして、幸せになれればいい。
エリオスが俯いていれば声をかけたくなるし、マオウルドットが元気だと平和だなあと思うし、アリーチェ様が会いに来てくれると嬉しいし、フェリクス様の呪いがどうか解けてほしいと思う。
考えていると、なんだかワクワクして来たわ!私はこの溢れるエネルギーを、今一番したいと思っていることに注ぐことにする。
「ランじい!私、トマト以外も育ててみたいわ!」
「おう、ルシーちゃん、やる気だなあ!今度は何を作る?ワシも腕が鳴るわい!」
私は元とんでもグルメ猫リリーベルですからね、実は食に対してなかなか貪欲なのよ。王都では買えないような、なかなか他では育てていないような、珍しい食べ物をランじいのスペシャルな手を借りて一緒に作って、お腹いっぱい食べて、もちろん大好きな皆にも振る舞いたいわよね。うふふ、驚いて食べて、喜んでくれる顔を想像すると、今から楽しみだわ!
畑で育てることができる、珍しい食べ物といえば、やっぱりヒナコが教えてくれた異世界の食べ物じゃないかしら?
私はそう思い、闇魔法で作った空間に何があるかを思い浮かべてみる。この空間、闇魔法による異空間だから、実はリリーベルの頃に入れておいたものも残っていたりするのよね。あーあ、こんな風に生まれ変わっても同じ空間を開くことができると知っていたら、『重くないとはいえ、何が入っているか分からなくなっちゃうわ!』なんて思って急にお掃除モードに入ったときに、あれこれポイッと出したりせずに大事にとっておくんだったのに!
ああ、待って?マシューが見つけてきた異国の野菜も、確かどこかに入れていた気がするわ。
一度この中に何が入っているか、全部確認しなおしたいわねと思いながら、私はランじいと一緒に、次は何を育てるかを楽しく相談したのだった。
「あーあ、なんだか面倒なことになりそうな気がすっごいしてるんだけど、俺知らない!」
カイン様がそんな風に呟いていることも、全く気がつかずに。




