62_特別な猫ちゃんたち
「まあ、エリオス様!どうしてそれを?」
「僕が今もこの見た目で生きているんだもの、リリーベルがいなくなって、色々あったのはなんとなくわかるでしょう?どうやら、リリーベルの予知夢を僕も見られるようになったみたい」
なんと!アリス様と魔力が繋がって、私にも予知夢の力が備わったことと同じことなのだろう。それってつまり、私がリリーベルだったことを思い出した時に見た予知夢を、エリオス様も見たということよね。
「どうかしたのか?」
小さな声で話していた私とエリオス様を、フェリクス様が心配そうに見つめる。
エリオス様は、にっこり笑って振り向いた。
「僕じゃあ、あなたの呪いは解けないけど、もうすぐその呪いを解く力を持つ人が現れるよ、って話をしていたんだ」
「なに……?」
突然の話に、フェリクス様はとても驚いている。そりゃあそうよね。今まで解くことはできないと思っていた呪いが解けるかもしれないなんて、きっと簡単には信じられないに違いない。
それにしても、一瞬エリオス様の発言に私も驚いてしまったけれど、運命は変わってきてしまっているだろうから、エルヴィラのことをそれとなく教えておくことは、意外と悪い案ではない気がするわね。
そう思い、便乗することにする。
「うんうん、私にも、そんな予感がしていますわ!というか、とんでもない力を秘めた人を、先日の王宮で見かけました!まあ、詳しいことは全く?全然?ちっとも分からないのが残念でもあり、心苦しいのですけど」
もちろん、これはエルヴィラのことである。事前にエルヴィラのことを印象付けておくことで、実際に彼女が現れた時、フェリクス様がエルヴィラのことを警戒心なく受け入れられるようにする作戦だ!
だけど、確信的なことは言えないので、こうして話を濁してみる。だって、『その子はエルヴィラという可愛い女性で、なんとあなたの運命のヒロインです!』なんて、絶対に言えないでしょう?恋に落ちるとか、そういうことは、他人の口から事前に聞くものじゃあないもの。そんなのロマンがないじゃない?
「ルシル?何を言って……」
「なー!そろそろ帰ろうぜ!オレ飽きた!……くふふ、帰る、だって!オレも一緒に帰るんだもんな!」
「そうね、お腹も空いてきたし、そろそろ帰りましょうか」
「ねえ、フェリクス?これで、僕も一緒に離れに住んでもいいんだよね?」
「あ、ああ……」
まあ!これで、あの離れもずいぶん賑やかになるわね。帰ったらまず、ジャック、マーズ、ミシェルにマオウルドットとエリオス様を紹介しなくちゃね!
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レーウェンフックに戻り、まだどこか呆然とした様子のフェリクス様と別れて離れに入ると、マオウルドットは猫たちを見て、なぜか少し不機嫌になっていた。
「なんだよ、猫まみれじゃん……ルシルには絶対オレ以外に友達はいないんだって、そう思ってたのに……」
「あら!そんな失礼なことを思っていたの!?私はこう見えてもモテモテなんですからね!」
リリーベルの時だってみんなに愛されて可愛がられていたのを知っているはずなのに、どうして私に友達がいないなんて思ったのかしら!失礼しちゃうわよね。
そんなマオウルドットは、抱き上げていた私が下ろすと、すぐにミシェル率いる子猫たちに囲まれていた。
「みーみー!」
「うわっ!な、なんだよ!オレは誇り高きドラゴンだぞ!おい、ちょ、やめろって〜〜〜!」
まあ!マオウルドットったら、あっという間に猫ちゃんたちにもみくちゃにされているわ!猫ちゃんたちのはしゃぐ声を聞いてみると、どうやら一瞬で友達認定されたらしい。
そんな光景を眺めながら、エリオス様が不思議そうに首を傾げる。
「ねえ、リリーベル?どうしてあのたくさんの猫たちのうち、3匹だけ特別なの?」
「えっ、特別?ひょっとして、正式なうちの子であるジャックとマーズとミシェルのことかしら?」
私が自分の名前を口にしたことに反応して、3匹がそれぞれこちらに振り向く。うふふ!動きも揃っていてとっても可愛い!
3匹だけを特別だと思っているわけではないけれど、他の子はどうやら帰る場所があるみたいだったから、ひょっとして他の場所で名前をもらっているかもしれないと思って、3匹だけに名前をつけてあげる形になったのよね。
他の猫ちゃんたちもそのことに不満もなさそうだったから、その後は特に気にもしていなかったのだけれど。どうしてエリオス様にそれが分かったのかしら?
すると、エリオス様はとっても気になることを言い出した。
「3匹だけ、もう猫じゃあないよね?」
「ええっ?」
猫じゃない?どこからどう見ても猫でしょう?
「まさか、リリーベル、気づいていないの?昔から、自分が規格外すぎて、妙なところで鈍かったよね……。あの3匹だけ、もう猫じゃなくて、半分精霊になっているよ?」
「えっ、ちょっと待って?そんなまさか」
私はとっても戸惑ってしまったのだけれど、マオウルドットまで驚いたように声を上げる。
「は?気づいてなかった?嘘だろ?森で久しぶりに会った時から、なんでそんな精霊なんて連れてくるんだよ!って、オレは思ってたけどな」
「ええっ!?だって、どこからどう見ても猫ちゃんじゃあないの!精霊ってどういうこと!?」
「リリーベル、その子たちに名前をつけたでしょう?名前は特別だって、僕に教えてくれたのはリリーベルだよ?」
たしかに名前はつけたけれど、それで精霊……?
「で、でも、私だってリリーベルの時にはアリス様に名前をつけてもらったけれど、ただ特別可愛いだけの普通の白猫だったわ」
私が名前をつけて猫ちゃんが精霊になるくらいなら、私よりもずっとずっと特別な存在だったアリス様に名付けられた私が猫のままだったのは、おかしいじゃないの!
「ええっと、僕が初めて出会った時にはもう、リリーベルは、厳密には猫じゃなくて、聖獣だったよね?」
そんなことを言い出したエリオス様が信じられなくて、思わず目を丸くしてしまう。けれど、エリオス様だけではなく、視界の隅に映るマオウルドットさえ、「そうだそうだ!」と言わんばかりに力強く何度も頷いている。
嘘でしょう?「運命の英雄」のことを書いた文献で、私のことを聖獣だなんて書いてあって、面白いわねと思っていたけれど。まさか、私ってば本当の本当に聖獣だったの……!?




