閑話_カリスマ猫リリーベル②
「にゃーん!」
「ふふふ、ごめんね、今日はお客様をうんと歓迎したいから、あなたの抱っこはまた今度!え?また皆で埋め立てるぞって何それ脅しているつもりなの?はああ、いとかわゆし!望むところよ!」
わたしを抱っこしたまま歩いていく人間に向かって、にゃおにゃお、ズルいズルい、私も抱っこ!撫でて撫でて~と、猫たちが甘えながらアピールしている。けれど人間はそれにめろめろになってサッと撫でてやりながらも、今日はわたしが優先だからと断りを入れるではないか。
ふ、ふん!わたしをはっきりしっかり優先するその心がけは、なかなか悪くないわよ!
元々裏庭にいたのだけど、もう少し奥の方へ進むと、なんだかとっても気持ちのいい場所に出た。なるほど、ここはとってもよく日が当たるのね。日向ぼっこにすごくぴったりな場所だわ!
「ついたわ!ここでゆっくりしましょうね~」
そう言った人間は、その場に腰を下ろし、お尻をつけて座り始めた。ええっと、ここって結構広い屋敷だし、なんか人間も身ぎれいにしているし、あんたって貴族のオジョウサマってやつなんじゃないの?こんなとこに座り込んでいいの?
「大丈夫よ!だってこんな天気のいい日は、こうして芝に直接座り込むだけでも暖かくってとっても気持ちがいいじゃない?」
まあ、確かに。あんたがそれでいいなら、わたしはいいけど……。
すると、その人間はにこにこと笑顔を浮かべたまま、わたしの顔をじいっと見つめると、何気なく言った。
「瞳は青じゃなくて、緑なのねえ」
それは、決してわたしを蔑んでいる雰囲気だったわけではなかった。けれど、猛烈にカチンときて、怒りが湧いてくる。
「みゃあーん!!!」
なによ、青じゃなくて緑だからなんだっていうわけ!?緑じゃ悪い!?あっ、あんた、よく見たら瞳の色が青なのね!だから馬鹿にしているの!?!?
怒りを隠しもしないわたしに、その人間は満面の笑みで、というか、なんだか蕩けるような顔で笑み崩れ、甘い声を出した。
「ううーん、緑色の瞳も、とっても可愛いでちゅね~!宝石みたいにキラキラしてて、すっごく高貴でかわゆいわ!エメラルドみたい!でもでも、食べちゃいたくなるようなスイートさもあって、どうしよう、もう私は瀕死寸前ですよ」
…………な、なによ。……分かってるんじゃないの。
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ヒナコが『萌え死ぬ』とか『キュン死に』って言ってた時は、表現が独特でやっぱり変な人よねって内心思っていたけれど、ルシルになってからはその感覚がよくわかってしまうのよね。
……本当に、なんって可愛いのかしら!?いとかわゆし!
『可愛すぎるものに触れると馬鹿になる』って言ってた意味も、レーウェンフックに来てからすぐに分かった。胸がときめきすぎて、簡単な単語以外なかなか出てこなくなるのよね。ヒナコごめん、あなたが言ってたことは全部正しかったわ!そうだわ。今度、ヒナコを世界で一番変人と称していたマオウルドットにも、この事実を教えてあげよう。
「にゃーん!(それでね、リリーベルは、世界で一番かわいいから、ドラゴンだってひれ伏すのよ!)」
「うんうん、そう思うわ!」
確かに、マオウルドットは私に頭が上がらない。ひれ伏すわけじゃないけれど……まあ似たようなことよね?というか、このリリーベルちゃんもドラゴンのお友達がいるのかしら?なんて偶然!本当にリリーベルだった頃の私に境遇が似ているわ!
「にゃおーん!(リリーベルは英雄たちにも唯一として可愛がられてたんだから!)」
「えっ、それはすごい!」
私の飼い主たちも皆英雄だったわ!(これは最近知ったんだけどね)まさか、そこまで一致するとは!
というかこの子、自分のことをリリーベルって名前で呼ぶの、すっごく可愛いわね。
そんな風に、あまりにも共通点が多い上に、この子がずっと「リリーベルは」という話し出し方をするから、私はなんだか聞いてるうちに、いつの間にか自分の話をされているような錯覚を起こしていたのだ。
「にゃあーーん!(だから、リリーベルは誰よりも尊重されるべきだし、だれもリリーベルには逆らえないの!だからみんなリリーベルの言うことを聞かなくちゃいけないのよ!)」
「えっと、それは違うと思うわ」
「う、うにゃん?」
だからつい、リリーベルちゃんの話を否定するようなことを言ってしまった。
「たしかに、リリーベルは誰よりも尊重されたし、私は愛されに愛されたから、無下にされるようなこともほとんどなかったけれど。でもそれは愛されていたからで、みんなが言うことを聞かなくちゃいけないなんてこと、全然ないのよ」
実際、飼い主たちはとっても我が強く個性的で自由だったから、「仕方ないわねえ」なんて言いながら、私がみんなに合わせてあげることも多かった。そして、それは愛ゆえに嬉しいことでもあったのよ。好きな人にふりまわされるって、幸せなことじゃない?「もう、いい加減にしてよね〜」なんて言いながらも、ダメな時に頼られるのは嬉しくて特別なことじゃない?
そこまで言って、ハッとした。あらやだ、私、いつのまにか自分の話のように思っちゃってたわ!
リリーベルちゃん、気分を害しちゃったかしら?
「リリーベルちゃん、ごめんなさ……」
「にゃにゃにゃ、にゃあおーん!?(リ、リ、リ、リリーベルッ!?)」
「えっ?」
すぐに謝ろうとしたのだけど、リリーベルちゃんはなぜか自分の名前を叫び、目を見開いて、全身を震わせていた。
なんだかとっても驚いているみたいだわ。
【つづく】
まさかのまだまだおわらなかった続きはまた夜に!




