閑話_カリスマ猫リリーベル①
あごをつんと上げて、一歩一歩優雅に歩く。しゃなりしゃなりと、まるで鈴の音でもしそうなように。ツヤツヤの毛並み、ふわふわでたっぷり長い尻尾、ちょこんと小さなお口に、ちょっぴり湿ったキュートなお鼻。
わたしが歩けば、誰もが振り向く。だって、わたしはこの世で一番美しくて麗しくて高貴で可愛い、カリスマ猫なんだもの!
え?わたしの名前を聞きたいって?そうね、それなら、あなたにわたしをこの世で一番特別で尊い名前で呼ぶことを許してあげる!
「みゃーん!!!」
わたしの名前は、リリーベル!カリスマ白猫リリーベルよ!
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「えっ?カリスマ白猫リリーベルと名乗る、見たこともない猫ちゃんが遊びに来ているって?」
私は、厨房でお料理の仕込みをしている途中で私を呼びに来たジャックの話に思わず聞き返した。
ジャックによると、突然やってきたそのリリーベルなる猫ちゃんは自分を歓迎しろと騒いでいるらしく、困り果てた猫ちゃんたちを代表して、ジャックがこうして私を呼びに来たんだとか。
(歓迎しろと言っているのなら、うんと歓迎してあげなくちゃいけないわよね!)
猫ちゃんによっては、構われることを嫌がる子もいますからね。そうやって希望を言ってくれるのはありがたいことだわ。それに、私、猫ちゃんを歓迎するのは大得意よ!
それにしても、カリスマで、白猫で、名前までリリーベルなんて、まるで前世の私みたいだわ!
ひょっとして瞳の色も青だったりして???
私はこっそり試作してテーブルの上に置いておいた『秘密兵器』を隠し持ち、厨房を出てリリーベルちゃんとやらが待つ裏庭に向かうことにした。この『秘密兵器』、作って置いてよかったわよね!今こそ試すときだわ!きっと、カリスマ白猫ちゃんにも気に入ってもらえるはずよ。うふふ!
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もう、ここの猫たちったら、なんって気の利かない子ばっかりなの!?
このリリーベルが遊びに来てあげたのよ?歓迎させてあげるって言っているのよ?それなのに、ちょっとボスに聞いてくるとかなんとか言って、ずうっと放置じゃないの!一体どうなっているのよっ!
わたしがそうやってイライラし始めていると。猫たちが一斉に興奮し始めた。な、なによ……?
「みゃあーん!」
「にゃあおんっ」
「うみゃあ~ん」
う、うわっ……。
そのあまりのはしゃぎっぷりに少しだけ引いてしまう。い、いいえ、元気なのは、いいことよね……?
まあともかく、やっとボスとやらが来たのかしら?
ふふん!こんなに大猫数の頂点に立つボス猫だもの。きっと大きくて、凛々しくて、かっこよくて頼もしい魅力的なオス猫に決まっているわ!まあ、実際に顔を見てからでないと何とも言えないけれど、もしもわたしのお眼鏡に適う様なら、つがいにしてあげてもよくってよ!
え?つがいを知らない?ダメねえ、本当に、猫って無知で。どうせあんた、わたしのことも知らないんでしょう?カリスマ白猫リリーベルを知らないなんて、場所が場所なら猫コミュニティで総スカンくらうほど愚かなことよ?
ハア、仕方ないから凡猫のあなたにも分かりやすいように教えてあげるわ。つがいって言うのはね、一生でこの猫だけ!っていう特別な相手のことなのよ。運命の相手と言い換えてもいいわ。もちろん、お互いにお互いが一番で唯一だと思っていないとだめよ?
え?どうして『つがい』って言うんだって?そんなことまでは知らないわよ。伝説の存在と言われるドラゴンなんかは、普段は同種と群れないけれど、つがいとなる相手と出会ったら、絶対にその側を離れたがらないって話よ。うふふ、そう、ロマンチックでしょ!ああ、これであなたも少しだけ賢くなったわね。
さてさて、そんな話をしている間に、何やら見知らぬ魔力が近づいてきているわね。
近づいて……え?ちかづい、て……ちょっと待ってなにこの魔力。こわっ!怖いんだけど?なんだか天災をぎゅぎゅっと濃縮したみたいな莫大な魔力が近づいてきていない?ええっと、待って。本当に待って?これ、わたしどうすればいいの?ねえ、どうしてあんたたち、そんなに平気な顔をしているのよ!?
い、いや、こ、こわいー!!!!!
「うみゃううううん!」
思わず顔を前足の間に隠した瞬間、ひょいっと体が抱き上げられた。
「にゃーん?あらあら、何をそんなに怯えているの?ひょっとしてこの子たちに意地悪されちゃった?うふふ、それにしても本当に可愛い猫ちゃんねえ」
……って、人間じゃないの!
ええっ!?何よ?まさかこの人間がここのボスなの!?え?「さっきから言ってるけど、ボスじゃなくてルシルだよ」って?名前なんて聞いていないから!なんで人間なのよ!おまけにメスだわ!信じられないっ!
「みゃおーん!ぶみゃあっ!」
はあああ!?待って待って、天災みたいな異常な魔力、この人間からしているじゃあないの!
なにこいつ?人間のくせに尊き猫ちゃんのボスで、天災で、それなのに、……ええっと、なんだかとってもマヌケな顔をしているわね?
すごい魔力なのは間違いないけれど、とりあえずこの人間がわたしを害すことはなさそうだと理解したわ。そ、そりゃそうよね、わたしはカリスマ白猫リリーベル、英雄たちだって愛さずにはいられない、美しき聖獣なんだもの!
わたしの可愛さには、きっとドラゴンだってひれ伏しちゃうほどなんだから!
「にゃーん!」
「はいはい、興奮しているとなんて言っているか分からないから、ちょっと落ち着きましょうね~。たくさん、歓迎してあげますからね!」
「みゃん」
ふん!ならば、見せてもらおうじゃあないの!人間ごときがこのリリーベルをどうやって歓迎してくれるのかをね!!!
【つづく】
ちょっと長くなりそうなので分けますね!つづきはまた明日!




