51_バーナード殿下とカネリオン子爵の罪
またもや更新とっても遅くなってしまってすみません……!
病の件で、バーナード殿下とカネリオン子爵の処分が決まった……?
ということは、つまりあの病の流行に二人がなんらかの形でか関わっているということよね?話の全貌が全く見えないので、大人しく場の成り行きを見守ることにする。
「あ、兄上?何を……病の件で、俺の処分とは?一体どういうことですか?」
あらら?エドガー殿下にそうたずねているバーナード殿下は、どうも本気で困惑しているように見えるけれど。王族にはあるまじきことだけれど、バーナード殿下はいささか直情的で、自分の立場が悪くなるのを回避するために演技ができるような器用なタイプではない。つまり、本当に寝耳に水といったところなのじゃないかしら?
ちなみに、カネリオン子爵はポカンと口を開けたまま固まっている。事態が飲み込めていないのかもしれない。
「お前は、きっと、本当になんのことか分かっていないのだろうね。自分がどれほど重大な罪を犯したのか」
エドガー殿下はこれ見よがしにため息をつきながら言い放つと、視線をいっそう鋭くした。
「バーナード。お前、ミーナ・ノレイト男爵令嬢を禁書庫に入れたな?」
(ええっ!そうなの?)
私はエドガー殿下のその言葉に驚いた。
禁書庫といえば、その名の通り一般には公にすることができない禁書や、特別な許可を得た人しか閲覧することができない特殊な書物が保管されている書庫で、もちろん、王族であるバーナード殿下には一応立ち入る権利がある。しかし、だからと言って簡単に立ち入れる場所ではなかったはず。
(それに、ずるいわ!私だって禁書庫にある書物には興味があるのに!)
思わず私もエドガー殿下と同じくバーナード殿下を睨みつける。けれど、それでもバーナード殿下はいまいち事の重大性を理解できないようで、困惑を深めているようだった。
「た、確かに、勝手に禁書庫にミーナを入れたのは申し訳ありませんでした。しかし、ミーナが慣れない王城の空気に気疲れし、人目のない場所で少しだけ休みたいというから、その時にたまたま近くにあった禁書庫にほんの少し立ち入っただけで!それがなぜ病がどうのという話になるのですか?」
簡単には立ち入れないとはいえ、禁書庫の鍵は王族の魔力に反応するようになっているのよね。普通、バーナード殿下がこれだけ好き勝手にしていたら魔力に制限の一つや二つ、かけるんじゃないのかしら?
ああ、きっと、バーナード殿下に甘い陛下が、彼の魔力を制限することを怠ったんでしょうね……。
まあ、それなりの量の魔力を注がなくては開かないから、読書嫌いのバーナード殿下が、わざわざそこまでして禁書庫に入ろうとするとは思わなかったんだろうけれど、それにしても管理が杜撰すぎる!
だけど、一番はやはり、王族の自覚もなくミーナ様をそんな場所に招き入れたバーナード殿下よね。
エドガー殿下は、なおも冷たい目でバーナード殿下を見つめながら続ける。
「今回、突然発生し広まった病について、私は内密にある人物の協力を得て詳細を調べた。病はどうして発生したのだと思う?なぜ、あれほど目立つことが好きだったミーナ・ノレイト男爵令嬢は、社交の場に一切その姿を見せなくなったと思う?」
確かに、ミーナ様は夜会などの場が大好きだったわよね。美しく女性としての魅力に溢れる彼女は、どのような場でも男性に囲まれて華やかに笑っていたように思う。私はレーウェンフックにいたから、最近の彼女の様子は知らないのだけれど。あれほど好きだった夜会などに参加しなくなったのだとしたら、確かに不自然かもしれないわ。
「それは、ミーナは俺に別れを告げ、別の男と歩むことを選んだのだから、一度は愛した相手である俺に気を遣って、しばらくその身を潜めているのだと……」
「あの女がそのような慎ましさを持っているわけがないだろう。もしもそうならば、ルシル嬢に冤罪などかぶせようなどと、考えつきもしなかっただろうね」
待って、病の件ももちろん気になるけれど、ミーナ様はバーナード殿下を捨てて、別の男性を選んだの!?その話もとっても気になるんですけど!
だけど、我慢我慢。今はとてもじゃないけれどそんなことを聞ける雰囲気ではないわ。
「ミーナ・ノレイト男爵令嬢が姿をくらましたのは、呪いの影響でとても人前に出られる状態じゃなくなってしまったからだよ。呪いには代償が必要だ。軽いものならば魔力を注ぐだけで使えるが、ノレイト男爵令嬢は魔力が多くないからね。だから、代償を払えず、溢れた呪いの力が人の害になって溢れてしまった。今回の病は、ノレイト男爵令嬢が安易に呪いに手を出した影響で生まれたものだ」
「呪い……?ミーナが、まさか……」
隣に座るフェリクス様の体がぐっと強張るのを感じて、私は彼の手にそっと自分の手を添えた。
思わぬところで呪いなんて話が出てきたわね……。
「バーナード、お前が禁書庫にあの女を入れたことで呪いについての書物を読み、知識もなく安易に手を出した結果が、国を窮地に追い込む病の流行だよ。結果無事だったからよかったなんて道理は通らない」
それが病流行の経緯ならば、確かにバーナード殿下の罪は重い。王族として軽はずみな行動が、民を危機に曝したのだから。死人が出ていれば死刑もありえたというのも無理はないことかもしれないわね。
「お、お待ちください!それではどうして私までっ!?」
突き付けられた事実を受け入れられない様子のバーナード殿下をよそに、カネリオン子爵がそう叫ぶ。
「カネリオン子爵、あなたは随分健康なようだな」
「はっ……?」
「恐らく、病に最初に罹ったのは、バーナードが寵愛していたノレイト男爵令嬢にもいいように扱われていたあなただ。その病をまき散らしながらレーウェンフックに立ち入ったのはあなたなのだよ。レーウェンフックは国防の要でもある。これはノレイト男爵令嬢とともに、国を故意に危機に陥れようとしたということに他ならない」
「そんなっ!そのような証拠も何もない話、こじつけにすぎないではありませんか!」
実際、今エドガー殿下が言ったのはこじつけの部分も大きい。だってミーナ様は、そもそも呪いに手を出したことそのものが罪に当たるとはいえ、病を広めようとしたわけではないのだろうし、カネリオン子爵にいたっては本当になにも知らなかったのだろうから。
けれど、きっとそういう問題ではないのだ。カネリオン子爵も、バーナード殿下も、エドガー殿下の治世には厄介者でしかない。
きっと、そういうことなのだ。
(確かに、為政者としてはその判断になるのも無理はないわよね……。今回はたまたまでも、少しでも権力を持たせていれば、いつか本気で厄介事を引き起こしそうだもの)
「確かに目に見える証拠はないが、真実はもう分かっている。私には権力があるからね、証拠などなくとも、それで充分なんだ」
殿下!暴君みたいなこと言ってますよ!
けれど、そう言ったエドガー殿下は、たしかに自分が述べた結論に確信があるようだった。
恐らく、さっき殿下が言っていた、病の詳細を調べるのに協力してもらったという人物の能力で、すでに真実は明らかになっているのだろう。一体どんな人にどんな協力をしてもらったのかが気になるわよね。
そんなことを思いながらも、私はカネリオン子爵がレーウェンフックに現れた時のことを思い出してみた。
『カネリオン子爵。いい加減その口を閉じた方がいい』
『ひっ……!?』
私をルシル・グステラノラだと気付かないままに散々私の悪口を言った後、フェリクス様に威圧されて──。
『と、とにかく、このことはバーナード殿下にもお知らせしておこう。ルシル・グステラノラはどうやらこの呪われた地でもずいぶん惨めな扱いを受けているようだと!!』
そんな、よく分からない捨て台詞を吐いて、私が勘違いを正そうとすると、ものすごいスピードで逃げていったのよね──。
『いえ、あの、そもそもルシルは私で……』
『ゴ、ゴホッゴホッ!わ、私はなんだか体調が優れない。しっ、失礼する!』
──あ、ああっ!?していたわ!確かにあの時、ゴホゴホっと咳をしていた!その場の空気を誤魔化すために体調が優れないふりをしたのかと思っていたのだけれど、まさかあれは今回の病の症状だった!?
そ、そう。確かにあの病は、呪いのせいで症状が重かったレーウェンフックは例外だったものの、症状が出てから重症化するまで時間がかかるようだったものね。
そう、あの時にはもう、そうだったの……。
ということは、途中の街で男の子の友達の猫ちゃんが言っていた、『あの子苦しいのに、あのやなヤツが病気おいていった!』というのも、カネリオン子爵のことだったのかもしれないわね……。
もしよければ★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加などで応援いただけるととっても嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!
お返事なかなかできていませんが、感想もすぐに嬉しく読ませてもらってます。いつもありがとうございます!




