43_すっきりしたから、全然問題ないです
フェリクス様がすぐに前に出て、私を背に庇ってくれる。
私を厳しく睨みつけていた騎士達が僅かに怯んだのが分かった。
(ふわあああ!こうしているとよりフェリクス様の魅力が分かるわね!)
リリーベルの記憶がよみがえったことで僅かに取り戻した野生の本能が、『強いオスは魅力的である』とびしびし訴えかけてくるのだ。
初めて実物と対面したときも思ったけれど、フェリクス様って王都の騎士様達よりもずっと体が大きくて、威圧感たっぷりで、強そうだし実際強いし人も殺せそうなほど鋭く冷たい眼差しもクールだしそんなクールな眼差しが緩んで笑うところは意外とかわいいし意外と繊細なのもかわいいし生物としてキラキラと輝いているわよね??あと呪われているのにとっても健康そうなのも私的には高ポイント。
──ハッ、ついつい脳内で盛り上がってしまったわ!最近は見慣れていたと思ったのだけど、まあ要するに、私はやっぱりフェリクス様のことが結構タイプだから、こういうふとした時にその魅力を再認識する感じなのよ。
だからこそ、予知夢の私がエルヴィラに嫉妬して怒っていた気持ちも、別にそんなに理解できなくないのよね。そして、思うのだ。そりゃあエルヴィラも好きになるわよねって。
(だけど、この状況で盛り上がっている場合ではなかったわ)
気を取り直して、私は騎士達を威圧しているフェリクス様の背中にポンと触れ、大丈夫だということをアピールする。そんな私をチラっと見ると、フェリクス様は大きく頷いてくれた。
やだ、このアイコンタクトで会話できる感じ、とっても仲良しって感じじゃないかしら?もうそろそろ私とフェリクス様も友達から親友に格上げされる日もそう遠くないのでは???
フェリクス様は、もう一度騎士達に向き直ると言い放つ。
「お前たち、ルシル・グステラノラを連れて行きたいと言うのなら、俺に殺される覚悟はできているんだろうな?」
あ、あれ~~~!?全然会話できていなかった!とってもすれ違いだわ!
騎士達が目に見えて怯えている。私は慌てて今にも剣を抜きそうなフェリクス様を止める。
「フェ、フェリクス様!とりあえず大丈夫なので、一度落ち着きましょう。どう、どう……!」
「グ、グステラノラ嬢……!」
ほら!さっきまで私を睨みつけていた騎士達が、今度は私を縋る様に見つめているから!声も少し震えている気がするから!
私が止めると、フェリクス様は殺気を抑え、すぐに引き下がってくれた。なんだかちょっとしょんぼりしているようにも見える。もしかして、馬車の旅で体が疲れて、騎士達相手に少し運動したかったのかしら?
「ぷっ、ふふ、ふ……フェリクス、ルシルちゃんにいいとこ見せたかったんだな……くくくっ」
「カイン様?ぶつぶつ独り言言って笑っていないで、少しはフェリクス様を止めてください!」
「アハハ、ごめんごめん」
しかし、騎士達の態度は軟化したものの、あちらもお仕事。結局私は連れて行かれることになってしまった。
フェリクス様は「行かなくていい」と言ってくれたけれど、ひとまず私に危害を加える気はなさそうに見えるし、もしもここで私が同行を拒否して、なにかしら問題になる方が面倒だものね。
私一人なら、そのまま逃げだしてどこか遠くで楽しく生きていくことも出来るけれど、今はフェリクス様達がいるわけで。彼らのせいだ!と責められるようなことがあっては申し訳ないし。
それに、そう簡単に私を傷つけることはできないから、正直全然問題ないです。心も体もね!
そもそも私には目的があるのだから、ここで問題を起こすのは得策ではないのだ。
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連れて行かれたのは王城だった。騎士達は、とりあえずフェリクス様たちが同行することも許してくれた。どうやら、出された指示は「ルシル・グステラノラ侯爵令嬢が王都に現れ次第、王城に連れてくること」だったらしい。
私の悪評を知る騎士たちが、勝手に指示の意味を歪曲してしまった可能性が高いわね。
「そ、その、申し訳ありませんでした、グステラノラ?嬢……」
「私たち、その、グステラノラ?嬢のことを誤解していたようで……」
連れていかれる間、あまりにピリピリしているのも居心地が悪くて、努めて普通に話しかけていると、騎士たちがそう切り出してきた。
「いいんですいいんです!あなたたち、バーナード殿下のお側によくいた騎士様たちでしょう?私の悪口なんて、夢に出てくるほど聞かされていたでしょうから、悪いイメージを持っていたって仕方ないですよ。ふふふ!」
私は、騎士達がすっかり穏やかに話してくれるようになったことが嬉しくて、思わずニコニコしてしまう。最初はまた冤罪なの?と少しうんざりする気持ちもあったけれど、フェリクス様が庇ってくれたから、なんだか気がすんだし!
「グ、グステラノラ?嬢……ッ!」
騎士はなにやら口元を押さえて顔を赤くしてしまった。
ねえ、ところで私を呼ぶ時になんとなく疑問形になっているように聞こえるのだけど、気のせいかしら?
騎士たちは慌てたように私から少し距離を取ると、ヒソヒソと何やら相談し始めた。
「な、なあ、この人は本当にグステラノラ嬢なんだよな?あまりに雰囲気が違って、自信を持ってグステラノラ嬢とお呼びできないんだが」
「たしかに、検問で身分を証明してもらっていなければ、似ているだけの別人だと思ってしまっただろうな……」
「いや、しかし俺たちのことも知っているのだから、本人だろう。……むしろ、俺達のこと覚えてくれていたなんてちょっと感動しちゃったんだけど」
「なんか俺の知ってるのより小さいし、優しいし、ニコニコしてるし、……可愛い」
「シッ!やめろ!気持ちはわかるが、万が一俺らがグステラノラ嬢に好印象を持ったと知られたら、バーナード殿下が絶対に不機嫌になるぞ」
「いや、その前に、『呪われ辺境伯』に殺される……ひいっ!」
あら?いつの間にかフェリクス様が騎士達と一緒に歩いているわね。フェリクス様、お顔は怖いし威圧感もすごいから、令嬢だけじゃなくて騎士にも怖がられているみたいだったけど、意外と打ち解けるのが早いのね!
そうして王城に連れて行かれると、すぐに中に案内される。途中で、なにやらどこかの部屋から大声が聞こえ、使用人たちが慌ただしく動き回っている様子が見られた。
(あれ、この声がしている方って確か……)
色々と気になるものの、すぐにとある応接室に案内され、考えることを一旦やめる。
応接室に入ると、そこで待っていたのは、……まさかの国王陛下だった。
「グステラノラ嬢、君にこんなことを言うのは調子のいい事と分かっている。だが、もしも件の病に対する対処法を持っているのなら……どうか、どうか助けてくれ!」
「……ええっと」
さっきからずっと、思わぬ事態の繰り返しで正直困惑しているのだけど、とりあえず、詳しく説明してもらってもいいですか?




