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36_万能薬はばっちり万能でした

 


 私は急いで一度離れの中に戻ると、作って置いていたありったけの万能薬を闇魔法で作った空間に放り込み、すぐに本邸の方へ向かった。


 どうやら、少しでも症状があり今回広まってしまった病に罹っている可能性がある人、症状が進み確実に罹患してしまっていると分かる人、一気に重症化してしまった人で部屋を分けて隔離しているらしい。


「本当に、気付くのが遅くなってしまい皆にも申し訳ない」


 フェリクス様、すごく悔しそうだわ。きっと責任を感じているのよね。だけど、私もついさっきまで離れの方で呑気にのんびりしていたんだもの。

 初めての病ならよほど分かりやすくない限りその兆候なんてわからないはずだし、まして今回は初期症状が風邪のようなものだったというから、討伐で屋敷をあけることも多いフェリクス様がすぐに察知するのは難しかったのではないかしら。


「フェリクス様、大丈夫ですよ!それに、こうしてすぐに対処できているんですもの。すごいです!そのおかげで病に罹らず、元気に動けている人も多いみたいですし」


 私は屋敷の廊下に立ち、慌ただしく働いている、病に罹患していない使用人たちを見渡す。

 しかし、ふと気がつくといつのまにやら足元にマーズがちょこんと座っていた。


「あら?マーズ、あなたもついてきたの?」

「うにゃあ~ん」


 マーズは私を見上げてひと鳴きすると、視線をずらし、ある一人の使用人をじっと見つめる。

 その意味深な視線に、私はピンとくる。


「……もしかしてあなた、病に罹っている人が分かるの?」

「なおーん」

「そう、分かるのね、すごいわマーズ!じゃあ、お手伝いしてくれる?」

「にゃあー!」


 マーズは「任せといて!」と言わんばかりに、ふさふさふわふわの尻尾をタシッ!と一振りした。


 猫は感覚が人より鋭敏で、魔力を感じたり見たりすることに長けている。そして、どういった魔力をより感知できるかは個人差……個猫差があるのだ。きっとマーズが感じ取れる魔力の波長が、病にかかることで乱れるような類のものなのね。

 私もリリーベルの記憶を取り戻して、人にしては随分他の魔力を感じられるようになっているけれど、猫たちのそれぞれの得意な魔力を感じる力には劣っているから、とっても頼りになる助手さんだわ!


 マーズには、病の気配がする人の元へ行ってもらい、その人にはすぐに隔離用の部屋に移ってもらうように手配する。



 そんな私たちのやり取りを側で見ていたフェリクス様は、少し呆然としたように呟いた。


「本当に、どこまで、規格外なんだ……」

「うふふ!そうでしょうそうでしょう!猫ちゃんたちは本当にとっても可愛くて魅力的なうえに、人の身から見れば規格外の能力を持っていますからね!」


 私はマーズが褒められて嬉しくなり、ふふん!と胸を張り大げさに自慢する。


「いや、猫もそうだが、むしろそれについては信じられない気持ちの方が強くて……それより俺は、あなたのことを──いや、今はいい。それで、俺はどうしたらいい?」


 私の可愛い猫ちゃんの可愛さと素晴らしさに驚きつつも、今すべきことをしようと切り替えるフェリクス様。猫ちゃんの可愛さにどんどんダメになっていってしまっても仕方ないくらいなのに、フェリクス様のこういうところが、真面目でお仕事のできる人って感じで好感が持てるわよね。


「とりあえず、この万能薬が害になることはないはずですが、効果の確認もしたいですし、念のため症状が軽く体力のある人に、少しだけ試させてもらいたいのですが……」


 フェリクス様にそう言うと、すぐに部屋に案内される。

 そこで私の作った万能薬を誰かに試してほしいとお願いしてみると、なんと、その部屋にいる全ての使用人や騎士が手をあげてくれた。


(まあ!ここの人たちは本当に優しくていい人達ばかりよね!)


 万能薬はコンラッドの作り上げたレシピだから、私としてはその効果にある程度自信はあるものの、それを証明することはできないし、私自身は薬師でも錬金術師でもないただの素人だ。

 そんな素人の作った薬なんて、怪しくて飲めない!と、誰にも協力してもらえないかもしれないと心配していたのだけど。


 皆の厚意に感謝して、手を上げてくれた中でも一番体が大きくて、普段はほとんど風邪もひかないという体力のありそうな騎士に協力をお願いすることにした。

 すると、騎士は本当に病に罹っているのか疑ってしまうほど元気溢れる雄たけびを上げた。


「うおおおお!ルシル様の、まだ誰も使ったことがない薬を一番最初に飲ませてもらえるなんてっ!きたきたきた~!」


 えっと、これは、明らかに喜んでいるわよね……?

 私はそのあまりの喜びように思わず戸惑ってしまう。すると、今度は室内にいた他の人たちが口々に悔しがり始めた。


「最初に薬を試せるなんて、信頼関係あるって感じで、絶対俺がやりたかったのに……!」

「ううっ、悔しいっ!私がこの筋肉騎士よりも見るからに体の丈夫そうな、2メートル越えの体を持っていれば勝てたの……?」

「おい、お前、そんだけ叫べるなら元気だろ!お前じゃ薬の効果の確認にならないんじゃないのかよ!?」

「うるさい!羨ましいからって勝手なことを言うな!普段風邪も引かない分、こうしてるだけでも辛いくらいだわ!」


 なんだかよくわからない争いが巻き起こってるのだけど。


「ええっと……」


(私の薬っていうか、私が作ったものを使うのが初めてなだけで、コンラッドのレシピなんだけど……)


 戸惑う私の肩を誰かがポン、と叩く。振り向くと、カイン様が立っていた。


「ルシルちゃん、相変わらずモテモテだね〜!こいつら待ってたらいつまでたっても終わらないから、さっさと薬を試しちゃお!」


 確かにそうかもしれないわね。

 納得した私は薬を試し、無事に効果があることを確認すると、屋敷中の罹患者に万能薬を飲ませて回った。


「フェリクス様、それでは私はこれから追加でラズ草を使った万能薬を作っていきますので、フェリクス様はカイン様たちと一緒に、それを街の人たちに配ってください!」

「わかった。しかし、病はかなり広まっている。領民全員に薬を配るとなると、ラズ草は足りるのか?」

「ふふん!近くにもたくさん生えていたので、暇な時にいつもランじいと一緒に摘みにいっていたんです!ほら!」


 そう言って、私は得意げに闇魔法で作った空間に詰め込んでいたラズ草を出してみせる。


「……そうか。俺はもうこれくらいでは驚かないぞ……。ルシル、本当にありがとう、感謝する」

「いえいえ、それではもう少し頑張りましょうね〜!」



 こうして、レーウェンフックに広まった原因不明の病は、なんとか速やかに収めることができたのだった。

 後日、それについての報告を聞いていると、なぜだかフェリクス様がなんとも言えない顔で私を見つめて言った。


「ルシル、あなたの万能薬を飲んで、ずっと患っていた持病がすっかり治ってしまったという者が何人もいるのだが……」

「まあ!それはよかったですね!健康第一ですもの!」

「………………そうだな」


 やっぱり、コンラッドのレシピは完璧だわ!

 私は改めて、愛すべき飼い主たちとの思い出に感謝して、そして彼らを誇らしく思ったのだった。


 余談だけど、病騒動が落ち着いた頃、「お手伝いしたんだから、これくらいのご褒美はもちろんくれるわよね」とばかりにマーズが私を独占したがったので、他の猫ちゃんたちがやきもちを焼きに焼くことになった。そのせいで、後日しばらくは「猫ちゃんたちで埋め立ての刑!」に処されてしまったのだけど、どちらかというとご褒美だったわね!



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パワー型つよつよ聖女の新連載もよろしくお願いします(*^▽^*)!

【異世界から勇者召喚するくらいなら、私(ダメ聖女)が世界を救います!】
― 新着の感想 ―
[良い点] >「猫ちゃんたちで埋め立ての刑!」に処されてしまったのだけど、どちらかというとご褒美だったわね! これは……紛うことなくご褒美
[良い点] 猫好きにはたまらない話です!癒される〜私も猫に埋まりたい! [一言] 昔の記憶を取り戻してから本当に猫みたいな思考と行動になっていてひとり悶絶しながら読んでます。ルシルがさっぱりしている性…
[良い点] >「猫ちゃんたちで埋め立ての刑!」 この世の極楽……。
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