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31_闇魔法の応用はとっても便利です

 


 ラズ草を両手いっぱいに抱えた私は満足してフェリクス様に向き直る。


「フェリクス様、お願いがあります!」

「なんだ?」

「私の趣味の一つは薬を作ることでして。レーウェンフックの離れでも薬を作りたいのですが、もしよければ道具を買いに行ってもよろしいでしょうか?」


 離れにはとっても快適に過ごせるほどふんだんに高価な魔道具が使われているとはいえ、さすがに薬を作るような道具はなかったと記憶している。きっと、本邸にもないんじゃないのかしら。薬を作る道具なんて、使う人でなくちゃ持っていないものね。

 私は身ひとつでやってきたうえに、実際に薬作りが趣味だったことはまだないので、もちろん道具を持参しているなんてこともない。だけど、前世で商人であり錬金術師でもあったコンラッドが薬を作るのを見ていて、「面白そう!いつかやってみたいわ!」と思っていたのよ!

 本当は、きっと専用の道具じゃなくても代用できるものがほとんどだと思うのだけど、初めて薬を作るんだから、最初はきちんとした道具と手順でやってみる方がいいに決まっている。


 フェリクス様は「あなたは料理だけではなく、薬も作るのか」と少し驚きに目を丸くしていたけれど、すぐに頷いてくれた。


「まだ日は高いし、それならこれから街の方に行ってみるか?」

「いいんですか?是非!」

「それなら、一度その、あなたが抱えている大量の草を──」


 フェリクス様の言葉を聞きながら納得する。

 ああ、確かに、このラズ草を手に持ったままじゃあ街には行けないわよね。


 そう思って、私は得意の闇魔法の応用で、空間を開いて場所を作り、そこにぽいっとラズ草を放り込んだ。


「は……?」

「これでよし!フェリクス様、さっそく行きましょう!」

「いやいや、待て待て待て……」

「どうかしましたか?」


 なぜかフェリクス様は頭を抱えて唸っている。さっきも顔色が悪かったし、やっぱり体調が良くないんじゃないのかしら?そう心配していると、フェリクス様は大きく深呼吸をした。息苦しいのかもしれない。


「今のは、なんだったんだ?あなたは今何をして、どこにさっきまで持っていた大量の草を隠した?」


 隠したんじゃなくて、収納しただけなんだけど……。

 でも、初めて見たんだったらびっくりするのも無理はないのかしら?そう思って、私はもう一度空間を開いて見せる。


「闇魔法の応用です!ここにこうして空間を作って、物を収納したりできるんですよ!とっても便利で気に入ってます」

「…………」


 あら?反応がないわ。なじみがなくて分かりにくかったかしら?


「マジックバッグなんかは、そういう魔法をバッグの中に入れ込んだ魔法道具ですよね。レーウェンフックの離れにもそれらしいものがありましたけど……」


 そういえば、マジックバッグもコンラッドが開発したものだったりするのよね。

 あの人、私が猫でありながら多少の闇魔法を使えたものだから、『リリーベルに頼めば、怖い闇魔法使いに会いに行かなくてもすむじゃないか!』と目を輝かせて喜んでいたっけ。

 コンラッドは商人のくせに怖がりで、下手すれば商談相手にも怯える弱虫だったものね……。まあ、そんな彼も人前ではきちんと取繕っていたから、生ぬるい目で見守ってあげていたわけだけど。


 ちなみに、今では稀有な存在だと言われる闇魔法使いと光魔法使いだけど、昔はもっと人数がいたように思う。


 そんなことを思い出していると、フェリクス様がなんだか脱力したような様子で教えてくれた。


「……あれは、特別な物だ。空間魔法など使える者のほとんどいない高度な魔法で、マジックバッグも現存している物が全ての、高級品だぞ」

「えっ!そうなんですか?」


 確かに、今世でマジックバッグの話を聞いたことはない。

 だけど、見た目は普通のカバンだから言わなければ分からないし、言えば盗難の恐れがあるから普通はよほど親しい間柄でなければ、そうだとは言わないだろうし。

 王子の婚約者であり、実家のグステラノラ侯爵家に住んでいた頃は、常に付き人もついていて、自分で荷物を持つこともなかったので、そういう物があったとしても使う機会はなかったこともあり、そのことに疑問を持つこともなかったのだ。

 リリーベルの記憶を思い出すまでマジックバッグのことを知らなかったのは、それまでのルシルが閉鎖的な環境で生きてきた、かなりの世間知らずだったせいだと思い込んでいたわ!


「俺は、一度屋敷に戻るかと言おうと思っていたのに、あなたは本当に……いや、もう今更だな。それじゃあ、このまま行けるな?」

「はい!」


 よく考えたら、レーウェンフックに来て、屋敷の敷地内とマオウルドットのいる森以外に行くのは初めてよね!

 さらに言えば王子の婚約者だった頃も気軽に出かけるなんてできなかったものだから、もちろん王都の街にもほとんど行ったことはない。

 リリーベルだった頃、私は人がたくさんいる街中を歩くのがとっても好きだった。


 だって、みんなリリーベルを「可愛い!可愛い!」とたくさん褒めてくれたから!



 私は前世ぶりに街に出かけられることが嬉しくて、ワクワクしながらフェリクス様とともに馬に乗ったのだった。




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