27_それ全部とっても知ってる気がするんですけど
私は違和感を抱きつつも、気になったその文献の中身をパラパラと確認していく。
それは歴代の運命の英雄のことを紹介した、ちょっとした人物図鑑のようなもので。簡単な絵姿や数枚の挿絵とともに、どんな人物だったかがほんの数行書かれている、簡素であまり厚みのない書物だった。
最初のページには大魔女が描かれていた。
『魔族と人間のハーフで、あらゆる魔法を高いレベルで扱うことで知られていた。特に闇魔法において彼女の右に出るものは後にも先にも存在しない。自身の出生を理由に人にも魔族にもなじめず、長い時間を孤独に生きたが、聖獣様との出会いで愛を知り、のちに大魔女として多くの人々をその類まれなる魔法の能力で救った英雄──』
……ふうん?
なんとなく、適当に数ページ進んでみる。
そのページに書かれていたのは錬金術師の男性。
『彼が他の運命の英雄と大きく違うのは、彼が平民であり、商人であったことだ。華々しい錬金術の才能に今では忘れ去られているが、その商才と人心掌握の力は人並み外れていた。本当に欲しいものがないのならば、自身が生み出すまでとして現存する魔道具や魔法薬の多くの開発を行ったことで知られていて──』
……なんだか、どこかで聞いたことがあるような話ね?
次のページには美しい大国の王女の姿が載っている。
『美貌の王女、傾国の姫として歴史上広く名を知られている王女。彼女は知る人ぞ知る歌姫だった一面を持つ。声に魔力を乗せる稀有な才能の持ち主で、その唇は時として繁栄の歌を、時として破滅の歌を紡いだという。彼女が傾国と言われるようになった所以には実はその能力が関係しているのではないかと言われていて──』
(あら?あらあらら???)
なんだか落ち着かなくて、パラパラとページを進める。
とあるページには勇者だった運命の英雄のことが紹介されていて、そのページの少し先に挿絵が載っていた。
聖なる剣を掲げ、大きく威圧的な黒いドラゴンと対峙しているイラストだ。勇者の最初のページに戻って紹介文を見てみる。『彼の一番の功績は何と言っても世界に暗雲をもたらせていた魔王の封印と──』
ちょっと待って。
私は思わず首をひねる。この書物を読んでいると、なんだかとんでもなく既視感を抱く気がするのだけれど、はて……?
他のページも見てみるけれど、どれも興味深くて面白いものの、真新しい驚きなどはないわね……。だってどれも、なんだか妙におぼえがあるような気がすることばかりなんだもの。
難しい顔をして書物の内容と睨み合っていると、アリーチェ様がそんな私に気がついた。
「あら!ルシルお姉様、それとっても面白いでしょう?短くて薄い文献だけれど、主に運命の英雄のことやその功績なんかを思わせぶりに紹介する文章が気に入っているのよね。こっちと合わせて読むともっと面白いわ!」
にこにことそう言いながらアリーチェ様が差し出してきたのは、運命の英雄のイラスト集のようなものだろうか。たくさんのイラストと共に、飾り文字で華やかにしている英雄たちの名前が記載されている。
うーんと、なになに……
大魔女アリス、大聖女クラリッサ、料理するS級冒険者マシュー、世紀の錬金術師コンラッド、歌う王女ローゼリア、異世界人ヒナコ、選ばれし勇者エフレン────
……って、ちょっと待ってーーー!!
私、これ、みんなみんなとってもよく知っているわ!?!?
だって全員、私のことを溺れる程愛してくれていた愛すべきリリーベルの飼い主たちじゃあないの!!
彼らがみんな、運命の英雄様だった?そ、そんなことあるう???
ふと気がついて、最初の文献のエフレンの紹介ページを開いてみる。
(……この内容、挿絵。魔王って、マオウルドットのことじゃないのっ!!)
どうやら書物の中では魔王とドラゴン別物としてそれぞれのことが書かれているみたいだけど、魔王について触れている内容は完全にマオウルドットのことだわ……。
(ええっと、あの子、魔王だったの???)
さらにハッとして、最初の方のページに戻る。
(待って。運命の英雄が私の愛する飼い主たちで、魔王がマオウルドットで、私はこの登場人物全員をとってもよく知っていて……だけど、そうすると、もしや)
運命の英雄のことを書いている文献にはその最初の方のページに必ず同じような内容が書かれていた。
『運命の英雄の傍には、必ず白く尊き聖獣様が寄り添っていた』って……。
アリーチェ様に初めて運命の英雄の話を聞いたときのことが頭をよぎる。
『運命の英雄には必ず聖獣様がおそばに寄り添っていらしたの!なんでも、艶やかな真っ白の美しい毛並みに海の一番深い色のようなブルーの瞳を持ったとっても麗しい聖獣様だったそうよ!』
ひょ、ひょっとして、この運命の英雄の側に寄り添っていたって言う聖獣様って…………
リリーベルのことなのでは…………???????




