21_私が助けて差し上げます!
夜更新がとっても遅くなってしまいました!日付変わるまでに間に合わなくてごめんなさい……!!
運ばれているフェリクス様はどうも意識もないようで、ぐったりと引きずられるようにしていて。
私はびっくりして、思わず本邸に向かう彼らの方に駆け寄った。
「カイン様!何があったんですか?」
「ルシルちゃん……」
いつもへらっと軽い雰囲気を纏っているカイン様の、まるで迷子になってしまったかのような途方に暮れた顔に、これはただごとではないのだわと理解する。
「魔物討伐で、怪我を?」
「分からない……分からないんだ。いつもより魔物が活発化していて、それでも問題なくフェリクスがそいつを討伐して。だけど、魔物を切ってしばらくすると、だんだんフェリクスの様子がおかしくなって、気を失った」
聞きながら、私はカイン様に担がれているフェリクス様の様子を、自分の目でもさっと観察する。見たところ、ひどい出血をしているわけでもないようだし、大きな怪我を負っているようにも見えない。
ただ、顔色がとても悪く、なんだか澱んだ魔力がフェリクス様からじわじわと溢れているのが気になる。
ルシルになってからは初めてだけれど、リリーベルの頃によく似た状況に陥った人を見たことがある。
「魔力枯渇の状態によく似ていますね。普通ならゆっくり休めば魔力が戻るとともに回復するはずですけど、今のフェリクス様は魔力と一緒に生命力が抜けていっているみたいに見えます。とにかく、すぐに魔力を分けてあげないと、命に関わるかもしれません」
私がそう言うと、カイン様はまるで今にも泣きだしそうな子供のように、くしゃりと顔を歪めた。
「でも、フェリクスの魔力量はかなり多いから、普通の人間が渡したって足りないかもしれない。それに呪いのせいで、フェリクスに魔力譲渡をしようとすると一気に持っていかれるんだ!やばいと思っても、吸われる力が強くて魔力がなくなるまで自分からは離れられなくなる」
ああ~!もーう!私!どうしてさっさと「フェリクス様の呪いってどういうものなんですか?」って聞いておかなかったのかしら?
だって、こんなことになるとは思わなかったんだもの!
ううむ。呪いの作用がどんなものなのかはっきり分からないままだけれど、このまま考えていたってフェリクス様がどんどん危険な状態になっていくばかりだわ。
生きていればなんとかなるし、難しいことはあとでゆっくり考えましょう!
「カイン様、フェリクス様を部屋まで運んで、寝かせてあげてください。魔力は私が渡します!」
「ダメだって!フェリクスに魔力を搾り取られて、ルシルちゃんがミイラになっちゃう!」
私はリリーベルの頃に、私を溺愛する飼い主たちに本当にたくさん魔力を分け与えられたのよ。だって、初っ端からアリス様とずっと生きられるように長い寿命をもらったくらいだもの。
そして、そんな風に私に魔力を分けた飼い主たちが、どんな顔ぶれだったかを思い浮かべる。大好きで、どこか変で、とってもすごい、自慢の飼い主たち。
つまり何が言いたいかと言うと、実のところ今の私はとんでもない量の魔力を持っているのだ。
それに、アリス様やクラリッサ様、エフレンなんかが特にそうだったけれど、困っている人間を助けて喜ばれている飼い主たちはいつもとっても輝いていた。実を言うと、ちょっとだけ「いいなあ、私もあんな風にかっこつけてみたい!」と思ったこともあるのだ。
ひょっとして、今がその時なのではないかしら?
私はカイン様に向かって笑いかけた。ちょっとニヤッとしてしまった気もするけれど、混乱気味のカイン様には気づかれないだろうからまあいいだろう。
「ふふん!カイン様、私を誰だと思っているの?王子の恋人に呪いをかけたとして婚約破棄された、闇の力を持つ悪女なのよ!……まあ、冤罪なんですけど」
それに、リリーベルの記憶を思い出してからは闇属性以外にもたくさん使えるようになっているけど。
「フェリクス様なんて、魔力枯渇でミイラになるどころか、元気になったあとにダイエットに苦しむくらいに魔力でパンパンのまるっまるにしてやるわ!」
「ルシルちゃん……!!」
まあ実際に、魔力で溢れて太るなんて、そんなことが起きるのかどうか知らないけれど。やったことないし。だけど周りにこんなに心配かけたフェリクス様相手に、本当に魔力でいっぱいにするとまるまるになるのか、実験台になってもらうのも悪くないわね。
「分かった。ありがとう……だけど、本当に無理しないように。俺も側についているから、危ないと思ったら力ずくで引き離すようにする」
カイン様はまだまだ心配そうだけれど、少しだけ落ち着きを取り戻したみたいだった。
ふと気づくと、ドヤッとかっこつけた私の周りに、いつのまにかいつも仲良くしている猫ちゃんたちが集まってきていて、にゃーごにゃーごと囃し立ててくる。
「みんな、応援ありがとう!ますますやる気に満ちてきたわ!さあ、いくわよ!」
「うにゃあ~ん!」
そういえば、レーウェンフックに来てすぐに離れに案内されたから、こうして本邸に入るのは実は初めてなのでは?
そんな今更なことを思いつつ、私は猫ちゃんたちを引き連れて、本邸の中へと向かったのだった。




