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17_呪いはきっと辛いものよね?

 


 来た時と同様、フェリクス様の馬に乗せてもらって森の出口に向かう。ちなみにアリーチェ様は近くで待機していたカイン様の馬に乗っている。


「にゃあ~ん」

「ええ、本当にあなたのおかげよ!ありがとうジャック」

「うみゃ」


 私達を連れて行ってくれる時には勇ましくも馬よりよほど速く走ったジャックは、自分の役目は終わったとばかりに私の腕の中で丸くなり、「僕頑張ったでしょ?役に立ったでしょ?」と可愛い声で甘えている。いとかわゆし。


 ちなみに当然だけれどマオウルドットはそのままあの場所にいる。だって彼は封印されていてあの場所からほとんど動けないからね。


 ふとフェリクス様の手袋の、手綱を握る手のひらの方が傷ついて少し破れていることに気がついた。ひょっとすると私が彼の剣に魔力を流す際に、ついでに手袋に傷をつけてしまったのかもしれない。そういえばフェリクス様は私が見る限り、いつもこの手袋をはめているわね?もしかしてとってもお気に入りなのかしら?それならば悪いことをしてしまったかも……。おまけにその破れているところから覗く部分に小さく傷を負っているではないか。


 そんなことを考えていると、思わずその傷の部分に手が伸びていた。

 しかし手を伸ばした私の指先がその手の傷に触れる前に、勢いよく振り払われてしまう。


「あ、ごめんなさい」


 しまった。これくらいの傷ならすぐに治せそうだなと思ったら、無意識に触りそうになってしまったわ。そりゃあ突然傷に触れられそうになったらびっくりしてしまうわよね。


「いや、俺の方こそすまない」


 思わず振り払ってしまったことが気まずいのか、フェリクス様はどこか辛そうな顔をした。……これ以上は余計なことをしたり言ったりしないように、大人しくして黙っていよう。


(そういえば、今更だけどフェリクス様の呪いってどんなものなんだろう?)


 我ながら本当に気にするのが今更よね……あら!?よく考えたら私ってものすごく薄情ものじゃない!?

 だけど、元々はフェリクス様とこんなに関わるようになるとは思っていなかったし、予知夢のおかげで、少なくともいずれエルヴィラの力によって呪いが解けることを知っていたから、あまり気にしていなかったんだもの。


 私はこっそりフェリクス様の様子をうかがってみる。


(やっぱり辛そう。というか顔が真っ青だわ!)


 黙っていようと決めたばかりだったけれど、さすがに心配になった私はおそるおそる口を開いた。


「フェリクス様、ひょっとして体調が悪いですか?顔色が良くありません。大丈夫ですか?」


「いや……いや、大丈夫だ」


 うーん、全く大丈夫ではなさそうに見えるわね!


 もしや、まさに今なんらかの呪いの作用が出ているなんてことはないかしら?そう思い当たるほど尋常じゃなく顔色が悪い。

 とはいえ何の脈絡もなく「そういえばフェリクス様とこのレーウェンフック領って呪いにかかってるんですよね?どんな呪いなんですか?」と聞いてしまうのはさすがに無神経すぎるし……。


 チラリと周りを見渡すと、フェリクス様を心配そうに見つめていたカイン様と目が合った。

 さすが側近であり幼馴染、彼の様子がおかしいことに気づいていたらしい。カイン様は当然呪いの詳細も知っているだろうし、普通以上に心配に違いない。

 そういえばカイン様は予知夢でも、エルヴィラと仲を深めるフェリクス様のことをどこか心配そうに見守っていたわ。


 そこまで考えて、またまた今更、あることに思い至った。


(エルヴィラが現れるまではまだまだ時間があるわけだけど……当然ながらその間はずっと、フェリクス様は呪いに苦しみ続けるのよね……)


 それってとっても辛くて可哀想なことなんじゃないのかしら?と。

 予知夢では嫉妬と憎悪に燃えた私が闇属性魔法を暴走させたことがきっかけで、エルヴィラは力を強めて覚醒し、フェリクス様とこの地にかかった呪いを解いた。しかし予知夢を見た上にリリーベルの記憶を取り戻した今の私は、フェリクス様とエルヴィラの邪魔をするつもりはないし、当然エルヴィラを害そうだなんて思ってもいない。

 私が闇属性魔法を暴走させるというきっかけが起きないということは、つまりエルヴィラの覚醒が予知夢の時よりも遅くなる可能性が大いにあり、そうなった場合、必然的にフェリクス様が呪いに苦しむ時間も長くなるわけで。


 ──予知夢で引き寄せた運命は、変えることができる。けれど、運命の中にはよほどのことがない限り変わらない部分ももちろん存在しているのだ。運命の鍵になっている部分が。

 今回の場合、おそらく「エルヴィラが大きな力を得て聖女になること」と、「エルヴィラがフェリクス様の運命のヒロインであること」がその変わらない部分ではないかと思うのよね。そう思うにももちろん理由があるわけだけれど、ちょっと考えることがいっぱいだから、今は置いておこう。


(……だから遅くなったとしても、いつかはエルヴィラの力で呪いを解くことができるとは思うけど。私が行動を変えたことで、フェリクス様の苦しむ時間が長くなるのはちょっと心苦しいわね)


 というか──フェリクス様の呪いを解くのって、やっぱりエルヴィラじゃないといけないかしら?


 そりゃあ、運命のヒロインに解いてもらうのがドラマチックだし、運命的にも一番いいのでしょうけど。でも別に、「呪いを解く」ということだけを考えるならば、その手段はどうでもいいような気もする。

 フェリクス様のその呪い、予知夢で見た運命で「嫌われ悪女」のポジションである私が解いちゃダメなのかしら???



 リリーベル時代の歴代飼い主たちが、誰かにかけられた何かしらの呪いを解いたことが何度かあった。私はそれを側で見てきているわけだから、その経験がヒントになるのではないかと思っているのよね。


 まあ当然、呪いによっては、そもそもエルヴィラの力でなくては解けない可能性もあるのだけれど。とはいえもっと早く解いてあげられる可能性があるのならば、なにも試さずに放っておくのは少し薄情すぎるのでは?と思わなくもないのだ。


 それにフェリクス様の呪いを私が解き、エルヴィラが現れた時にすぐに私が身を引けば、二人はなんの試練もなく幸せになれるはずだし、いいこと尽くめではないかしら?


 こういう時って普通、試練がなければ盛り上がらないのでは?と不安になるところだけれど、予知夢のことを思い出す限り二人は出会ってすぐに親密な空気を醸し出していたから、なにかハプニングがなければ距離が近づかない、なんてこともないと思うのよね。



(まあ何はともあれ、呪いの詳細が分かってからの話なんだけれど)


 それに今はアリーチェ様とフェリクス様のなんだか微妙な雰囲気のこともどうにかしてあげたいし。マオウルドットのせいでなんとなくうやむやになっているけれど、そもそもアリーチェ様はフェリクス様の冷たい態度に傷ついて飛び出していってしまったんだもの。


 けれど、いずれフェリクス様はエルヴィラと出会い、結ばれることを考えれば、どちらかというとアリーチェ様のフェリクス様の想いに対して、背中を押すのではなく整理をつけるお手伝いができた方がいいかもしれない。


(やる気はあるんだけれど、私、ずうっと猫だったし、くっついて回った黒猫エリオットはアイドルみたいなものだったし、人間になってからもバーナード殿下には相手にされなかったし、恋愛についてはあまり経験がないのよね……)


 うーんと心の中で悩んでいたものの、それは杞憂に終わることになる。



「ルシルお姉様!離れの方に行きましょ?うふふ、この私がエスコートしてあげる!」


 レーウェンフックの敷地内に戻り、馬から降りた瞬間、まだ馬の上にいた私の元へ風のようにやってきたアリーチェ様は、フェリクス様そっちのけで私にべったりだったのだ。

 おかげでマナーとして私のエスコートをしてくれようとしたらしいフェリクス様の差し出した手は行き場を失っていた。



「いいの。私、目が覚めたわ。フェリクスのことをずっと好きだと思っていたけれど、本当は心のどこかで気づいていたの。好きだと言いながら、フェリクスに自分の理想を押し付けていたってこと。だから、フェリクスも私のことを相手にしてくれなくなったのよね。今まで嫌な思いをさせてごめんなさい」


 そしてアリーチェ様は、離れの応接室で一息ついたところで、そんな風に言ったのだった。


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パワー型つよつよ聖女の新連載もよろしくお願いします(*^▽^*)!

【異世界から勇者召喚するくらいなら、私(ダメ聖女)が世界を救います!】
― 新着の感想 ―
[一言] 予知夢の内容って読み違えている可能性があるんじゃないかなと今の所思っているので変わらない二つの事の根拠が気になります。ちなみに読み違えているんじゃないかなと思うのは2点。まず、主人公の呪いが…
[良い点] ルシルちゃんがポジティブすぎて、読んでる自分も元気になれます! ありがとうございます!
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