101_スラン王国は妖精たちと生きる国
「やはりあれは予知夢ということで間違いないんだな?」
やっと朝食の席について、腹ごしらえも進んだ頃、フェリクス様が切り出した。
「そうですね、間違いなく予知夢です」
鮮明な夢や、現実に起こり得そうな夢もよく見るけれど、予知夢はちゃんとそうと分かるようになっているのだ。
どうして?と聞かれると上手く答えられないけれど。
予知夢は元々アリス様の持っていた力で、アリス様の魔力をもらって私も同じように見ることが出来るようになった。そして、フェリクス様も魔力枯渇に陥った際に、私の魔力で全身を満たしてから予知夢を見られるようになったのよね。
予知夢を見る力の源はきっと魔力だ。だから、感覚で分かるようになっているのだと思う。
魔力だって基本的には目には見えないけれど、ちゃんと自分の魔力の流れは分かる。それと同じと思ってもいいかもしれない。
それから魔力というのは、血や肉体、筋肉とかよりも、魂のエネルギーに近い。
だから、名前を与えることでも魔力への影響が起こることがあるのよね。
ミシェルやジャック、マーズが名づけによって私の魔力を取り込んで、半精霊化したり、変換した悪魔の膨大な魔力を取り込んで、人化できるようになったのも同じような原理だし。
そんな風に考えを巡らせていると、何やら思案に暮れていたフェリクス様が呟いた。
「予知夢の中で俺はスラン王国が滅亡する直前まであの国に滞在していた。どうしてか、以前の予知夢のように予知夢での体験をはっきりと全て記憶しているわけではない上に、今回俺が見た予知夢はスランでの滞在の途中から始まっていたが……時期的に恐らく、俺がスランへ赴いたのはスラン王国の次期女王披露目のパーティーに、エドガー殿下の共として参加するためだ」
以前の予知夢ほどはっきりと記憶できていないのは、きっと今回の予知夢の真ん中にいるのがフェリクス様じゃあないからだ。
それにしても。
「次期女王披露目のパーティー、ですか」
スラン王国は、代々女王が統治する国。
数百年前に後のスランとなる国の王女が妖精女王と親交を深め、その絆を繋ぎ続けるための『約束』をもって妖精女王や妖精たちの加護を頂いているのだとか……。
だからスラン王国は魔物の被害にもあわず、平和な国としても知られている。
しかし妖精女王は男嫌いで、代々スラン王家の血を引いた女性としか絆を結ばないらしい。
そのため、彼の王国を女王と絆を結んだ者が女王として統治することは自然なことだった。
『約束』……そういえば、予知夢で毛玉妖精が絶望の中で、スランの第一王女オレリア殿下が約束を果たせなかったことに思いを巡らせていたわね。
うーん。
「つまり、オレリア殿下が『約束』を果たせるように手助けすることができれば、スランの滅亡を防げるということよね」
考えを整理するように結論を口に出して呟くと、テーブルの隅に転がっていた毛玉妖精がぷるぷると体を震わせながら、何度も灯りを点滅させた。
ふむふむ。その通り!というアピールかしら。
話せないことは不便だけれど、なかなか可愛い意思表示をするじゃあないの!
光る毛玉、いとかわゆし!
指先で毛玉妖精をつついていると、フェリクス様が首を傾げた。
「その、『約束』とは、スランの女王が代々妖精女王と絆を結ぶために果たさなければならない約束のことだろうか」
「そうです!『約束』の内容、フェリクス様は知っていますか?」
私の問いに、フェリクス様は頷き、教えてくれた。
「予知夢でエドガー殿下に聞いたが、歌を捧げるらしい」
「歌、ですか?」
予知夢は、見る人によって体験する視点が変わるから、同じ内容でも違う印象を受けたり、別の事実を見たりすることもある。私とアリス様もそうだったし、フェリクス様がエルヴィラとの出来事を予知夢で見たときもそうだった。私は知らないけれど、フェリクス様は知っている内容も多いかもしれないわね。
……そういえば、スラン王国は妖精の加護を受けて特別な魔法を使い、歌を愛する国だとも知られている。
なるほど、歌か……。
私は思わず、遠い遠い昔のことを思い出していた。
ローゼリアと過ごしていた頃のこと。
ローゼリアは歌が大好きで、妖精たちにもとても好かれていた。
私がコンラッドの作った竪琴で音楽を奏でてローゼリアが歌っていると、よく妖精たちが集まって来ては歌に合わせて踊っていたわよね。
妖精たちは楽しいことが大好きだから。
ふふふ、とっても楽しかったなあ。
小さな子達に交じって、妖精の中でも力の強い大きな子もいたっけなあ。まるで人間のように大きいものだからリリーベルだった私もつい甘えちゃって、よく撫でてもらっていた。
……予知夢の中で、スラン王国が滅びる時、妖精たちが次々と消えてしまった光景を思い出す。
そんなこと、絶対に黙って許すわけにはいかないわ。この国にも危険が及ぶし、そうではなかったとしても、スランの人たちや妖精たちを見捨てることなんてできるわけがないもの。
それに、妖精も長い長い時間の中を生きているから、スラン王国の滅亡を防げればまたあの頃一緒に遊んでいた優しい妖精さんにも会うことができるかもしれないわね!




