97_せっかくなので満喫します!
「ルシーちゃん!この作物も随分よく育ったもんだなあ」
「そうね、まさかこんなにも立派になるとは、育て始めた時には想像もしなかったものね」
私はランじいと並んで、すっかり様変わりした裏庭を眺めていた。
悪魔の魔力をマオウルドットから取り出して放出したことによって、驚くほどに植物が急成長したのは、何も屋敷の外ばかりではなくて、この裏庭もだった。
花は瑞々しく綺麗に咲き誇り、木の葉っぱも青々としてとても元気だ。さらに言えば、ランじいにお願いして一緒にお世話をしていた家庭菜園が、もはや「家庭菜園」というレベルに収まらない程になっていた。
これは……もう本業の畑ね!
私がリリーベルの時から持っていた、この辺ではあまり見ない作物も、これでもかと育っている。これは……ヒナコやマシューがいる頃によく食べていた料理をレーウェンフックの皆に振る舞える日も近いわね!
私が育てた作物で、私が作った料理で喜ぶ皆の顔を想像して、ついニマニマしてしまう。
「ルシル、楽しそうだね」
「ええ、とっても楽しいわ!」
そんな私を見て、エリオスがニッコリ笑って声をかけてくるので、私は素直に頷いた。だって本当に楽しくて仕方がないんだもの!
思い返してみれば、レーウェンフックに来てからは、ずっといいことばかりだわ。
フェリクス様は思っていたより素敵で優しかったし、ランじいやサラ、アリーチェ様という素敵なお友達もできた。リリーベルの時の経験を活かして万能薬でいろんな人を助けることもできたし、バーナード殿下のいいところを見つけられたのも、ここに来なければどうだったかはわからない。マオウルドットも一緒に暮らせるようになったし、レーウェンフックの呪いは解けたし、猫ちゃんたちはジャック・マーズ・ミシェルを含めみんな相変わらず可愛いし、これからはエリオスもずっと一緒にいられる。
予知夢で見た未来の、辛い部分だけが、現実にならなかった。
(結局、運命を変えられたのかどうかはよく分からないけど)
アリス様が言っていた予知夢の理を覆して、私が運命を変えたのかもしれない。だけど、私が運命だと思っていた部分が、そうじゃなかっただけの話かもしれない。
(だけど、そんなのどっちだっていいわよね!)
だって、こうして大満足の今を迎えているんだから。
──エルヴィラも、この結果に納得してくれているといいんだけど……。
そう思っていたある日、予知夢から大きく未来の変わったエルヴィラは、なんとこの国を出ることにしたと伝えに来た。
「私はルシル様の選択に納得がいきませんでした。フェリクス様に苦痛を強いて、呪いの元凶とも言えるエリオス様を優先させたこと……あれでよかったって言えるのは、結果的にみんな助かったからです。フェリクス様の身に何があってもおかしくなかったと思います」
「まあ、絶対になかったとは言えないわね。あれが私のわがままだったことは間違いないもの」
本当ならば、全てエルヴィラの力で解決できるはずだった。フェリクス様は苦しまず、二人は愛し合い、エルヴィラは今のこの現実よりも、予知夢の通りの方が幸せだったかもしれない。
だから、エルヴィラには私を責める権利がある。そう思って、受け止める覚悟で、その声に耳を傾けていたのだけれど。
「……だけど、今、みんな、とても幸せそうです。……フェリクス様も」
エルヴィラはとても穏やかな、だけどどこか少し切なげな顔でレーウェンフックを見渡す。
「私以外、みんなルシル様の決断に納得していました。いいえ、信頼しかなかった。その結果がどうなろうと、みんな満足だったんだろうなって思ったんです。……私は、今でも自分の考えが間違っていたとは思っていません。だけど、私が正しいわけでもなかったんだって、気付きました」
そして私を見つめ、微笑んだ。
「正解なんて、ないんですよね。私の考えは間違っていないから正しいんだなんて、そんな愚かで傲慢な自分に気がつきました。とっても恥ずかしいです。私、そんな自分を見つめ直して、身も心も強い聖女になるために、国を出ます」
「エルヴィラ様……」
エルヴィラはもうとっくに身も心も正しくて強い聖女様だわ!そう思ったけれど、きっとエルヴィラはそんな言葉を望んでいない。上を見ている人に、もう十分素晴らしいだなんて言うのは野暮なことよね。
そう思い、私は彼女の手を握った。
「エルヴィラ様、応援しています!」
「ありがとうございます。ルシル様!きっとしばらく戻ることはできなくなります。だから、落ち着いたら、会いに来てくださいませんか?……もしもご迷惑じゃなかったら、お友達として」
「っ!!もちろんです!」
予知夢を見たあの時、こんな風にエルヴィラと笑い合える日が来るなんて想像もしていなかった。まさか、友達になれるだなんて!
私は嬉しくて満面の笑みでエルヴィラを応援した。
呪いを消し飛ばすと言う実績は作れなくとも、エルヴィラが覚醒したことは事実であり、その力がとても強いことも間違いない。
実は光魔法がうまく使えない時から、聖女として研鑽を積まないかとお誘いを受けたらしいエルヴィラは、その話を受けることにしたんだとか。
おそらく予知夢のエルヴィラにも声はかかっていて、フェリクス様のそばにいるためにお断りしていたんじゃないだろうか。
エルヴィラが向かうのは他国とあまり繋がりを持たないとされている聖国。
世界でも数の多くない光魔法の使い手を集め、その力を育てる機関である聖神殿がある場所だ。
なんでも聖神殿は高くそびえたち、特別な力を帯びて地上からは入ることができないようになっていて、天馬という翼を持つ馬に乗って空から入るのだとか……。
えっ!なにそれとっても楽しそう!行ってみたい!!
天馬は私がリリーベルだった大昔から存在しているけれど、今は国で管理しているなんてびっくりだわ!どうりでルシルになってからは見たことがないわけよね!
私の知ってる世界から、ずいぶん変わっているし、私の知らないこともきっとまだまだたくさんある。
(大賢者ってどうなのかしら?って思ったりもしたけど、呪いを解くって名目で他国にも行けるのよね?)
前世の愛すべき飼い主たちがしていたように、世界のあちこちに行って、ついでにいろんな人の呪いを解いて、それから好きなことをして楽しく生きるの!
ああ、生きてるって、とっても楽しいわ!!
「ルシル、俺も一緒にやりたいんだが、教えてくれないか……?」
「まあ、フェリクス様も!?ぜひ一緒にやりましょう!楽しいですよ!」
うふふ、フェリクス様ってば、汚れてもいい服にスコップを持っていても素敵だなんてなかなかよね!
とりあえず、この場所の居心地もとってもいいし、エルヴィラは運命のヒロインではなくなってしまったわけだから、フェリクス様に本当に愛する人ができるまで、私はここにいてもいいわよね?
せっかくなので、もうしばらくは暫定婚約者を満喫します!
✳︎ ✳︎ ✳︎
私はまだ知らなかったのよね。
私の飼い主たちを指す、『運命の英雄』が、本当のところ一体なんなのか。どういう意味を持つ存在なのか。
私自身が、どういう存在なのか。
アリス様の言葉を思い出す。
『アタシの可愛いリリーベル。いいかい、覚えておいて。お前が願えば、きっとなんでも叶えることができる。どんな困難に直面しても、無理だなんて諦めてはいけないよ。愛するリリーベル、アタシの希望…………』
うふふ、アリス様ったら、本当に私のことが大好きなんだから!!
私はそんな風に思って、嬉しくて喉をゴロゴロ鳴らした。アリス様も、その後の飼い主たちも、いつだって私に溺れるほどの愛を注いでくれていたから、その時の言葉も、いつもの愛情だと思って。
そして、ついでに言うと、大慌てで飛び起きる朝がすぐにやってくることも知らなかった。
「──っ!ハアッ、はあ、今のって……新しい予知夢だわ!!」
この部分で第二部完結になります!
書籍作業にも入りますので、この後は閑話を入れつつ少しお休みをもらって、しっかり構想を練ってから第三部に入りたいと思ってます。
マオウルドットはルシルと飛べていないし、フェリクスはこれからなんととか頑張りたいし、まだまだ書きたいことがたくさんなので、どうか今後もお付き合いくだされば嬉しいです~!
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