01_馬鹿みたいな断罪されたら予知夢を見た
新連載ラブコメ始めます!よろしくお願いします~!
「ルシル・グステラノラ侯爵令嬢!お前がその忌まわしい闇の力で俺の愛するミーナに呪いをかけたことはわかっている!この俺の婚約者でありながら残虐非道な行い到底許せるものではない!」
「は?」
王宮で開かれた王子の誕生パーティーで、主役であるバーナード第二王子殿下に大声で言われた言葉に、思わず淑女らしからぬ間の抜けた声が出た。
「可哀想なミーナはお前の呪いに体を蝕まれて辛い治療に耐えることになったのだ!そんな所業がこの俺にバレないとでも思ったのか」
ツッコミどころがありすぎて何を言えばいいのかわからない。
そもそもバレるバレない以前に全く身に覚えがない。
バーナード殿下に縋り付くようにして立つミーナ様は男爵家のご令嬢で、最近彼とところかまわず人目も気にせずイチャイチャイチャイチャしているとの噂が私の耳にも入っている。
金髪に紫の色の瞳を持つ華やかな人。金髪で青い瞳の私と色合いはそこそこ近いのに溢れる色気が全然違う……。ついでにいうと泣きボクロがエロい。
うん、見るからにバーナード殿下の好みのタイプね。
殿下の好みは華やかで派手でセクシーなお姉さん系魔性の美女だ。対して私は小柄でどちらかと言うと童顔なタイプ。
「殿下のお心をつかめ」というお父様の命令で普通の人間は立つのも難しいのでは?というレベルの高い厚底ヒールを履き、なるべく体格が良く見える姿勢を心がけ、派手なドレスを着て、化粧が得意な侍女にいつも疲れるほど長い時間をかけてセクシー美女に見えるように厚塗りメイクをしてもらっていた。もはやお絵描きレベルだ。
つまりものすごく、ものすごく努力した。私も侍女も。
それなのに、結局好みの美女に掻っ攫われるんかい!
というかいつも人前で元気にイチャイチャしていたのに、辛い治療とは一体……?
「本当ならば罪人のお前を処刑してしまいたいところだが、優しいミーナの願いで命をとることまではせん。女神のようなミーナに感謝することだな」
「はあ」
処刑だなんて物騒な。
話がぶっ飛びすぎていて全くついていけず、また間抜けな相槌を打ってしまった。
なんというか、バーナード殿下ってこんな人だっけ??
「しかし、罪に対してなんの罰も与えないわけにはいかない!よって、この俺との婚約を破棄し、さらにお前には『呪われ辺境伯』との婚姻を命ずる!」
高らかに宣言されたそれに周りの貴族たちがざわついた。
『呪われ辺境伯』
それは我がエルダール王国の国防の要、レーウェンフック辺境伯をさしている。
いやいや、いくら呪われてるともっぱらの噂とはいえ、国にとっても大事な存在である辺境伯との婚姻を罰のように扱っていいの?
なんて思った次の瞬間、突然猛烈な頭痛と眩暈に襲われた!
(あ、やばい、今倒れたらまるで婚約破棄されたことや罪が暴かれたことがショックみたいじゃない──)
別に私に罪なんて、ないのに!
そう思ったのを最後にぐらりと視界が揺れ、プツリと意識が遠のいた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「あなたは本当に、私のことを微塵も見てはくれないのね……!」
自分の声とは思えないほど、恐ろしく低い声が漏れ出る。
ありえない冤罪の罰としてレーウェンフック辺境伯と婚姻する羽目になり……それでも、見目麗しい彼ならばと妻であることを受け入れたのに!
あろうことかあの男は婚姻後も私を顧みることはなかったのだ。
『俺は君のような心の醜い愚かな女が一番嫌いだ』
夫婦となってすぐに言われたその言葉に怒りが湧き上がり、手当たり次第に物を投げ部屋をメチャクチャにしてやった。
それでも共に時間を過ごせば気が変わるかと思っていたのに、レーウェンフック辺境伯……フェリクスは私をことごとく避けた。
苛立ちまぎれに使用人に鬱憤をぶつければそんな時ばかり私の前に現れる。
『陛下に押し付けられた婚姻でなければすぐにでも離縁してやるのに』
そう言ったフェリクスの氷のように冷め切った蔑んだ目!
アレは女嫌いだから。アレは人間嫌いだから。
フェリクスの気持ちも考えてやろうと、そう自分を納得させて時間をかけて私に許しを乞うのを待ってやろうと妥協していたのに……。
あろうことか、婚姻から1年経った頃。
忌々しいあの女が現れたのだ。
美しいストロベリーブロンドに、エメラルドのような輝く瞳。私の闇属性魔法と同じくらい希少な光属性魔法を持ち、鼻持ちならない綺麗事ばかり言う嫌みたらしい女。
エルヴィラ・ララーシュ!
フェリクスは……フェリクスはあろうことかあんな女を愛した。
そしてあの女も──。
2人はいつも一緒にいた。寄り添うように歩き、愛を囁き、甘く見つめ合う。
『ルシルさん……愛されないのに妻の座に縋り付いて、フェリクスを苦しめるのは虚しくないですか』
私が妻だと詰ればあの女は忌々しくもそう吐き捨てる。
罰で命じられたはずの婚姻は、いつのまにか私が彼にしがみついていると言われるようになった。
私は憎しみを募らせ、怒りを燃やし、嫉妬に駆られ、ついにエルヴィラを排除することに決め……失敗した。
憎悪で膨れ上がった闇魔法は制御できずに暴走して、エルヴィラどころか辺境全体を襲ってしまったのだ。
それをあろうことかエルヴィラの光魔法が退け、彼女は聖女と崇められるようになった。
皮肉なことに私のお陰であの女はその力をさらに強大なものにして、『呪われ辺境伯』と揶揄されていたフェリクスの呪いさえも解いた。
私は今度こそ大罪人として処刑されることが決まり、晴れて私と縁を切ることができたフェリクスはエルヴィラを正式な妻に迎えることになる。
そのことを牢で聞いた私はもはや涙も出なかった。
物語はハッピーエンド。
悲劇の呪われ辺境伯は聖女に救われ悪女を倒し、2人は永遠に幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。
……じゃあ、私は?
バーナード殿下にも、フェリクス・レーウェンフックにも最後まで見てもらえず、蔑ろにされた可哀想な私は?
私だけが、悪かったと言うの──?
私だけが──。
ハッと目が覚めた。汗と涙が滲んでいる。
どうやら夢を見ていたらしい。悪夢だ。
おまけにただの夢じゃないと本能的にわかった。
今のは、予知夢だ。
夢を見ただけじゃなくて、ついでに思い出していた。
予知夢をよく見ていた頃の記憶を。
前世の記憶を……。
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