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初夜のバタバタ

Act.5


Side キャシオー


やっと、結婚式を挙げることができた。自分の隣で眠る妻となったビアンカ。彼女は婚前であったが、妻同然に俺を支え続けてくれた。俺の家族の所為で、彼女は多くの人からの祝福を与えられないままだった。


「ねえ、キャシオー」


ゆっくりと目を開いた。まだ、屋敷では祝宴が続いている。新郎新婦は早めに部屋に戻され、本来なら両親や妹、我が家の家族が祝宴を盛り上げる。その代わりに、叔父夫婦や、ビアンカの両親がその代わりを務めてくれている。本当に感謝しかなかった。


こんな気分ではどうしようもなく、俺もビアンカも寝転んでいるだけだった。


「どうした?」


「やっぱりね、ヴェール持ち、デスにしてもらいたかったわ。」


ツーと流れる涙。出来るなら、俺もそうしたかった。しかし、妹は思ったよりも早く、あちらに逝ってしまった。


「……そのために、お揃いの衣装も用意したのにな。」


ビアンカの衣装に似せて、妹にもドレスを作った。それは、今回ヴェール持ちをした従妹に着せる気にはなれず、ビアンカのドレスの隣に置いたままになってしまった。


「でもね、なんだか、デスが見ていてくれたような気がするの。」


その言葉に思わず彼女を抱きしめた。互いの鼓動を感じながら、緩やかに眠りに落ちていった。


……はずだった。


何故か、俺とビアンカは水浸しになっていた。驚きながら視線を上に向ける。ぷかぷかと宙に浮くのは水差しで、その中身の水が俺たちに掛けられたのだと分かった。


「な、水差し?」


何とか放った言葉に水差しは揺れた。その水差しの水が宙に浮いた。不思議と水が文字を作っていく。


『お兄様』


その文字を見た瞬間、鳥肌が立った。浮かび上がる文字はどう見ても妹、デスデモーナの筆跡だった。


『オセロ様が危ない』


続く文字には焦りがあるのか、揺れている。その言葉の意味を理解すれば、今の社会情勢が一挙に頭を巡った。


「デス、オセロ殿下はどこに!?」


『図書室、隠し通路』


「ロックは!?」


『かけた。剣を持った使用人、一人』


その瞬間、枕元に置いてある剣を取り、すぐに立ち上がった。同じように身体を起こしたビアンカは直ぐにショールを纏い、靴を履いた。


「ビアンカ、義父上と叔父上を呼んできてくれ!!」


「分かりました!キャシオー、気を付けて、すぐに応援を呼びます!!」


ビアンカと俺は直ぐに部屋を出て、互いに反対側に走り出した。図書室に最短ルートで向かえば、乱雑に散らばる本。そして、壁に向かって剣を振り回し続ける男の姿。


「なんで!!なんで開かねえんだよ!!」


焦る声が響き、俺が来たことに気が付いていないようだった。

剣を抜こうとした瞬間、とんとん、と本が肩を叩いた。そしてその本のページがめくられて、何故か『拷問全書』の脛打ち拷問のページが開かれた。それと合わせるように本が五冊浮かび上がった。


「つまり、『脛狙うから捕えろ』ってことでいいか?」


見えない妹に尋ねれば、本が同意するように揺れた。本来、この拷問は肉体派の騎士が棍棒だったり剣の鞘だったり硬いものでやるが、本でも充分効果は望めるだろうと思った。ついでに妹よ、なぜそんなに重そうで、硬そうな高価な本ばかり選ぶのだ、とはこの場で言えなかった。殺傷能力は高そうな本だもんな。


「分かった。本投げ出したら近く行って捕らえる。デス、頼むぞ。」


そう言った瞬間、本が次々に男を襲う。


「な!?なんなんだ!!また来やがった!!」


男の視線が、俺のいる方向と反対側の本の飛んでくる方に向いた。その瞬間、走り出して鞘で男の後頭部を力いっぱい殴った。一応言っておくが、気絶させるための場所だ。


男は力を無くしたように床に倒れ込んだ。ホッと息を抜いたら、ぷかぷかと浮かんで飛んできたのは縄だった。その縄が男をぐるぐる巻きにしていくが、縛りが甘そうなので、結び目を奪い取った。


「デス、縛り上げておくから大丈夫だよ。」


俺が言葉を掛けた時には、妹は居ないように感じた。中でロックが掛かっているなら、中から鍵が開かないと、この扉を開けることは不可能に近い。


どうするべきかと、悩んでいれば、ガチャン、と大きな音が響いた。そしてゆっくりと扉が開いた。慌てるように扉を押して、中を確認すれば、オセロ殿下がゆっくりと出てきた。そして、俺の顔を確認した瞬間、飛びついて泣き出した。


「キャシオー……。」


小さく、弱々しく放たれた俺の名前。小さな体は振動が伝わるほど震えていた。大丈夫だと言い聞かせるようにその身体を抱きしめた。


俺はこの時初めて気が付いた。


このお方は、我が家(ここ)にきてから、一度も泣いていなかったのだ。大人である自分が気付かねばならなかったこの事実を叩きつけられた気がした。すうっと、安心したのか、身体から力は抜けていく。


バタバタと多くの足音、多くの声が響きだす。ビアンカの焦るような声。オセロ殿下の小さな身体を抱き上げて、そして皆の方に向かった。俺の姿にビアンカが飛びついてきた。


今回の失態、若いから仕方ない、周りはそう言うだろう。

だが、俺が一番、自分を許せなかった。


この日から俺は変わった。と、義父上と酒を飲むたびに言われるようになるのは、まだ先の話。



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