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私の生徒は賢いですわ!


Act.3


五か月、あっという間に時間と言うものは過ぎていく。


タッタッタッタと子供らしい足音が響き、ゆっくりと図書室の扉。最近は扉の真上で本を読むようにしている。入った瞬間は見えないから、と思いついたのはオセロ様だったけど。


「『デー、今日も教えて!』」


これが私たちの決めた合図であった。まず、オセロ様に兄から図書室の使用許可を貰うことをさせて、その後、いろんな本を厳選して、まんべんなく読ませた。『分からないことがあれば質問をしてくるように』と言えば、オセロ様は一冊当たり何百もの質問をしてくるようになった。時々、冒険譚を混ぜてみたり、弟君の事を知って欲しいと双黒の物語も読ませた。

ちなみに、大号泣だった。


『メイドたちの話では国王陛下は、王太子殿下はレイア第一王子殿下から揺らぐことはないと、高らかに宣言されました。でも、革新派の貴族は第三王子殿下を推したい。』


「だから僕が居ると、弟が継承権第三位になっちゃって、スペアのスペアになっちゃうから、僕を殺したかったんだね?」


三歳、もとい二歳八か月の子供に何教えているんじゃボケ!!というツッコミをしてくれる人などいらっしゃらなかったがために、私はどんどんとオセロ様に知識を付けさせていった。


『その通りです!でも、国王陛下はこれを機に、国の腐敗を一気に片づけてしまおうとお考えのようです!でも、その間、どうしてもオセロ様の身が危険になってしまいます。本来であるならレイア殿下も避難させたいところでしょうが、これを耐えられないようでは、王太子は務まりません。』


「兄上は強い人だ。大丈夫。」


『信じておられるのですね!』


「兄上は、父上たちと国を正しくするから、待っていてと言って僕をここに連れて来てくれたから、僕の安全を思ってだって、『デー』が教えてくれたから知っている。」


『ええ、愛しておいでだから、遠ざけているのです。寂しいでしょうが、今は私で我慢してください。』


「我慢じゃないよ。『デー』がいるから色々知れるし、勉強になる。『知識は武器』って本当だと思う。」


そう言いながらオセロ様はまた新しい本に集中しだした。叶うなら、こんな頑張っている彼の頭を撫でってあげたいが、残念ながらそれはできない。試しに本で撫で撫でしようとしたが、残念ながら上手くいかなかった。というか、痛そうだった。でもちょっと嬉しそうだから他の手を考えたが、どうにもコントロールが悪い。


コンコン、とリズミカルなノックが聞こえた。気が付いたオセロ様は視線を私に向けたので、私は念の為に扉の上に浮いた。


「オセロ殿下、入っても宜しいですか?」


聞こえた声は男のもので、それは間違いなく、お兄様のものだった。


「いいよ。」


オセロ様の声とほぼ同時に扉は開いて、そしてそこに立っていたのは、ちょっとだけ疲れ気味のお兄様だった。お兄様は椅子に座って本を読むオセロ様に向かって片膝をつき左胸を差し出す『臣下の礼』をした。


「オセロ殿下、朗報です。王宮内の整備が終わりまして、オセロ殿下におかれましては、近日中に王宮にお帰り頂けることとなります。」


「キャシオー、具体的にはどのぐらいで帰るの?」


どうやら兄は礼儀を尽くした後に、オセロ様に分かりやすく説明するつもりであったが、礼儀の言葉でオセロ様が理解されたのを驚いたようでした。


「ああ、通じましたか。申し訳ございません、驚きまして。オセロ殿下は一月後に王宮に帰る予定でおります。」


「あ、よかった。なら、キャシオーとビアンカの結婚式は見てから帰れるね。」


お兄様、さらに驚いた顔になる。分かる、二歳八か月の子供が、そんなことを直ぐに考えられるなんて思ってないよね!?凄いでしょう、私の生徒!!と兄には見えないだろうが、ドヤ顔しておいた。


「殿下……我々の結婚式に参加してくださるのですか?」


「ん?した方がよいだろう?ビアンカにも、キャシオーにもお世話になったし、新婚生活が始まる前には帰りたかったし、ちょうどよいタイミングで安心したよ。」


子供っぽくないよね!!分かる!!お兄様の顔がどんどん困惑している!!でもごめんなさいお兄様、面白すぎて笑いだしてしまいました!


「……殿下は本当に聡明でありますね。」


「本を読んだだけだ。でも、危なくなくなったのなら、今度は自分の目で色々見てみたいな。」


そう言って、オセロ様は私の方を向いて笑った。私が教えられるのは『本の知識』だけで、実体験はほとんどない。だからオセロ様には安全になったら今度は自分の目で見て、確かめて欲しいと伝えた。


「私が、お連れしましょう。」


お兄様の言葉に驚いていれば、それはオセロ様も一緒だったらしい。だけど、お兄様の目は本気であった。


「私が外を教えます。殿下は、色々見られるとよいと感じましたので。」


そう言いながらお兄様は小指を差し出した。オセロ様は恐る恐る小指を絡めて、そして約束を交わしました。


この時、お兄様の胸の中では、オセロ様と私が重なって見えるなど思ってもいなかった。


お兄様の結婚式まで、あと一か月。


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