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死神と小説家  作者: おとなり かな
9/22

8話 嘘じゃない。でも、言えない。

○宿泊先のホテルにて○


 玲は母に電話をかけていた。

 滞在する日にちを変えることを

 まだ伝えていないからだ。


「もしもし、玲だけど。」


「あら、何かあった?」


「うん。ちょっとね。まだ起きてた?」


「うん、まだ平気よ。それで、どうしたの?」


「あのね、ちょっと急なんだけどね、

 私、やりたいことが出来て。

 それで、やっぱり一人暮らししようかなって

 思うの。」


 思い切って伝える。言葉に嘘はない。

 家族に下手な嘘はつきたくなかった。


「あら、そうだったの。体の方は大丈夫なの?」


「うん。大丈夫。だいぶ前から迷っては

 いたんだけど、中々言い出せなくて………

 ギリギリになって、ごめんなさい。」


「いいのよ。体の為に休んだ方が良いんじゃない

 かって言ったのは、私達なんだし、

 学校にいる間に元気になったなら何よりね。」


 実家に帰ってくるかと言われたのは三ヶ月ほど前。

 以前から体を心配してくれた家族は、

 もし辛いならうちに戻っておいでと話してくれた。

 ちょうど発作の頻度が増えてきたころだったから、

 帰ることに決めていた。


 そんな娘がいきなりやりたいことがあると

 言い出したのは、少し不自然かもしれない。

 それでも、何も言わずにいなくなるよりは

 ずっとましだ。

 そして、きっと何か隠していることくらいは

 伝わってしまう。

 だからと言って、本当のことを伝えられない。


「それでね、結構色々なところを旅して

 まわる仕事になるから、帰ってこれるのは

 年に一回くらいかもしれないの。」


 嘘じゃない。


「あら、忙しいのね。

 あんまり無理しないようにね?」


 きっと母は何か隠してることに気づいてる。

 聞かずにいてくれる優しさが、胸に沁みて、

 痛くて、苦しくて、悲しくて、有り難かった。


「うん。ありがとう。

 大変そうだけど、今から楽しみ。」


 これも本当のことだ。

 自分がこの世界に居られなくなることは

 悲しいけれど、死神の仕事は尊いものだと思う。


「そう。それならきっと素敵な仕事ね。」


「ええ。とても。」


「それでね、そっちへの引っ越しはなくなるんだけ

 ど、代わりに、ちょっと遊びに行きたくて。

 四月の七日に行ってもいいかな?」


「あ、そうね。

 一人暮らしってことは引っ越しは、しないのね。」


「うん。そうなの。」


 本当は、一緒に暮らしたい。

 まだ、もっと生きていられたなら。

 または、人間として死ぬことのみを選ぶなら、

 本当に短い数日だけでも、共に居られる。


「分かったわ。お父さんには伝えておくから。

 気を付けていらっしゃい。」


 それでも、少女は選ぶのだ。

 死んでなお、自分のままで神に成り代わり

 魂を送り出す道を。


「ありがとう。じゃあ、………また。」


 名残惜しくて、そっと通話を切る。


 きっと、真っ当な生者からしたら

 私の選択はズルくて、醜いだけかもしれない。


 まだ死にたくないからって

 駄々を捏ねてるようなものだ。


 だから、この気持ちは真っ当な死を

 選ばなかった悪あがきのツケなんだろう。


 それでもいい。

 それでも、私はこの道を進もう。


 そう、少女は決めた。

 

 そのままベッドに身を投げると、

 ちょうど北斗からメールが届いた。

 『今着いた。』とだけ。

 玲は短い一文を見て飛び起き、

 急いで北斗のもとへと向かう。




○最上階スイートルーム○


「北斗さん!」


 玲が息を切らせながら駆け込んでくる。


「嗚呼。ただいま。」


「おかえり、なさい……っていうか、

 どこに行っていたんですか?」


「ちょっとな。」


「ちょっとって……。」


 玲の声色から、諦めの色が見える。


(また、私は何も知らないまま………。)


「そうですか……。そう言えば北斗さんって

 ユウトのお兄さんだったんですね。

 気づかなかったです。」


「そういえば、会ったんだってな。

 ユウトに聞いたよ。どうだった?生ユウト。」


「そりゃ、素敵でしたよ。

 心臓が一瞬止まる程でした。」


「そうか。良かったな。

 俺もあいつが歌ってる姿を見たのは

 今日が初めてだった。こんなデカいことできる

 奴なんだなって思ったよ。

 凄いやつだね、我が弟ながら。」


 北斗は嬉しそうに、眩しそうにつぶやいた。


「ちなみにチケットはユウトに都合して

 もらったんだ。

 お前と一緒に会場に入れるようにな。」


 もともと玲の隣席だったお客様には、

 よりライブを見やすい関係者席を案内した

 とのことだった。ファンへの配慮も申し分ない。


「ユウトさんも信頼してましたよ。北斗さんのこと。

『北斗が帰ってくるって言うなら心配いらないから』

 って言ってました。仲良しなんですね。」


「まあ、不仲ではないかな。楽しいやつだよ。」


(兄弟がいたらこんな感じなのかなぁ)


 一人っ子の玲には、

 彼らの関係が少し羨ましかった。


「あの北斗さん。お願いがあって。」


 そっと玲が切り出した。


「どうした?」


「荷物もまとめ終わってますし、

 明日、一日はどうしても、一人で行動したくて。

 その、今まで私が生まれてから毎日守ってもらって

 いたわけなので、一日くらいお休みがあっても

 いいのではないかなーと

 思ったりするのですが………っ。」


 言葉の選び方が不自然になっている。

 ユウトに北斗の秘密を聞きに行くからとは、

 口が裂けても言えない。


「休暇ね。どうしても俺がいたら困るのか?」


「はい。困ります。」


 潔く答える。ここだけは譲ってはいけない。

 少し食い気味になってしまったが、

 それも仕方のないことだと心の中で言い聞かせる。


「そうか。………二十四時間丸ごと一日は無理だが。

 十二時間だけなら、代わりの守護役がいれば

 大丈夫だ。

 きちんと届け出を出せば認められる。」


「それじゃあ。」


 北斗の返事に玲の表情がパッと明るくなった。


「嗚呼、手配しておく。」


「ありがとうございます!」


 これで北斗のことを

 もう少し知れると思うと、声が弾んだ。


「妙に嬉しそうだな。ずっと守護してる側としては、

 結構傷つくんだが?」


「あ、いえ。北斗さんが嫌だとか、

 何か問題がある訳ではなくて……。」


 思わず言い淀んでしまう。


「えっと、えーっと………そう!さっきも言ったよう

 に、たまには、ゆっくり休んでもらおうかなって

 思ったんです。ユウトさんに聞きました。

 送り出すまでの最期の七日間、

 こっちの世界で人の姿をしているのは結構辛い

 らしいって。

 だから、一日くらいお休みしてほしくて。」


 これは本当の話だった。ここに来る前に

 ユウトから来たメールに書いてあったのだ。


「あいつはまた余計なことを。」


「余計な事なんかじゃありません。

 ユウトさんは北斗さんのことを

 心配してるんです。」


 母親みたいに玲が言う。


「北斗さん私に言ったじゃないですか。

 自分のことを大事にしろって。

 北斗さんもちゃんと自分のことを

 大事にしてください。」


 玲は一生懸命だ。


「嗚呼、ありがとう。そうさせてもらうよ。」


 必死に伝えようと頑張る玲に根負けした。

 明日はゆっくり休むとしよう。


 そしてまた夜が更けていく。

 少女の運命の日まであと六日。

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