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死神と小説家  作者: おとなり かな
8/22

7話 君との約束

「―――っ。」


 一瞬のことだった。

 まだ寿命まで六日あるはずなのに、

 心臓と呼吸が止まった気がした。

 なぜ彼がこんな所に居るのだろう。

 見つかったら大騒ぎになってしまう。


  グルグルとまとまらない思考の中、

 やっとの事で口を開く。


「あ、あの、さっきのライブとても素敵でした。

 いつもあなたの歌に励まされてここまで、

 生きてこれました。ありがとうございます。」


 緊張で体がこわばっている。

 正直、まだ思考も追いついていない。

 それでも、言いたかったことは。

 ずっと彼に伝えたかった『ありがとう』は

 ちゃんと伝えることが出来た。

 気を抜いたら泣いてしまいそうになる。


 そして、やっと思考が追いついて疑問が生まれた。


「なんで、私の名前………?」


 そう。彼は玲をフルネームで呼んだのだ。


「知ってるのかって?そりゃあ勿論、

 僕は君のお連れさんと同業だからね☆」


「お連れさんって、

 もしかして北斗さんのことですか?」


 彼以外に思いつかない。


「その通り。」


「じゃあ、もしかして………。」


「そう。僕も死神なんだよ☆」


 そう言って彼はサングラスを少し下へずらした。

 そこから覗く目は確かに北斗と、そして勿論、

 自分と同じもの。

 同じものだと認識できる。

 それが何よりも証拠だった。


「ついでに言うと北斗は僕の兄だ。」


「北斗さんと、兄弟、なんですか………?」


 驚きすぎて、うまく言葉が出てこない。


「うん。ほら、ちょっと似てない?」


 そう言いながらユウトが微笑む。


「確かに、北斗さん、誰かに似てるなって

 思ったことはありましたけど。」


「そうでしょ?よく言われるよ。」


 こうしてみると、顔のパーツが

 少し似ている気がする。

 気づかなかったのが不思議に思うくらいだ。


「もしかして……だから、いつも

 失礼にアイツ呼びだったんでしょうか?」


 兄弟なら、あり得ることだ。

 それでも失礼なことに変わりはないけれど。


「あっははははっ。まあ、北斗にとっては

 身近な存在だからね。」


 ユウトが笑う。北斗が国民的スーパーアイドルを

 アイツ呼ばわりする理由がようやく分かった。


「あ、そうだ。北斗はどんな感じ?」


「え?えっと、凄く良い人です。

 でも、北斗さんは私のこと小さい時から見てるから

 何でも知ってるのに、私は北斗さんのこと

 何も知らなくて。

 ちょっと、ずるい気がしてしまいます。」


「北斗は秘密が多いからねぇ………。

 それはそれで大変なんだろうけど」


 ユウトが呆れたようにため息をつく。


「今日も、ライブの途中で

 いなくなっちゃったんです。

 ユウトさんはどこに行ったか

 分かったりしないでしょうか?」


「あれ?行き先教えないで行っちゃったの?」


「はい。

 『すぐ戻るから先にホテルに戻ってるように』って

 だけ、メールで。」


「そっか、うん。じゃあ、僕からは伝えないけど、

 代わりに良いものをあげようかな。」


「良いもの、ですか?」


「そう。これだよ。」


 渡されたのはとあるマンションの住所だった。


「これは?」


「北斗から聞いた?人間界に住んでる

 死神が集まってる場所のこと。」


「あ、はい。」


「その場所がこの住所。

 この建物に皆住んでるんだ。」


「全員ですか?」


「そう。何千人もいるわけじゃないからね。

 マンション一つで十分だよ。時間のある時に

 興味があったら遊びにおいで。

 北斗のこと、僕がたくさん教えてあげるから。」


 ユウトがちょっと悪戯っぽく言う。


「遊びにって………良いんですかっ?」


 スーパーアイドルの家に遊びに行けるなんて、

 やっぱり夢のように思ってしまう。

 これは、もしかしたらライブで気絶した

 自分が見ている夢なのではないかと

 思わずにはいられない。


「勿論。大歓迎。これは僕の連絡先ね。」 


「連絡先!?」


 夢のような時間はまだ終わらなかった。


「こっちに来るとき、連絡取れないと困るでしょ?

 こっちにいる残り時間は?」


 おそらく寿命のことだろう。


「あ、えっと、今日を入れてあと六日です。」


「そっか。昨日宣告があったってことね。

 明日以降の予定は?」


「明日は一度寮に戻ってゆっくりしてから、

 明後日に天界に見学に行って

 全部荷物を運んでもらって二日過ごしてから

 実家に帰って一日泊まります。

 最後の日にお墓参りにいって旅立ちます。」


 今後、最終日までの予定は

 北斗と一緒に決めてあった。


「ご実家はこの辺り?」


「いえ、関東圏ですけど、少し遠いです。」


「そっか。それなら、ご実家に帰るのは

 天界を見学した翌日にすると良い。

 自分の好きなところに降ろしてもらえるから、

 移動が楽だよ。

 そうすると明日くらいしかないけど、

 どうする?無理はしなくても良いけど。」


「え、えっと………本当に伺って良いのなら、

 お邪魔したいです。

 私のことずっと見守ってくれた北斗さんのこと、

 少しでも知りたいから。」


「そう。じゃあ、明日、北斗はお仕事お休みだね。

 時間決めたら教えてね。明日から一週間オフだから

 時間は開けられる。」


「はい。ありがとうございます。」


 とても一言では語れないような思いを胸に

 頭を下げる。

 憧れの人を目の前に、

 言い表せない喜びと

 北斗について少しだけでも知れるかもという

 期待感でいっぱいだった。


「それから、北斗がすぐ戻るって言ってるなら

 大丈夫。

 ちゃんと帰ってくるよ。

 だから心配しないで戻りな。」


「本当ですか?」


 心配するなと言われても心配になるものである。


「スーパーアイドル黒崎ユウトは嘘をつかない。

 安心していい。僕を信じて、ね?」


 ユウトは優しく玲を宥める。


「はい、信じます。」


「それでいい。またね、玲ちゃん。」


「はい!」


 彼の言葉は玲をとても落ち着かせたようだった。

 流石は国民的スーパーアイドル黒崎ユウトである。


「さて、じゃあ僕はお兄ちゃんを助けに

 行きますかね。」


 玲を見送ってからユウトは会場の裏手へと消えた。




○ライブ終了三十分前○

 

 ユウトのライブをまじかで見たのは

 今日が初めてだった。

 北斗と同じく死神であるユウトは、

 人間たちの負の感情を歌を通して浄化することが

 仕事だ。


 実際、歌で勇気をもらって

 救われている人間は多い。

 何より玲もそのひとりである。


 ユウトの曲を聴いているとき、

 悪霊たちに襲われないのは、

 彼の歌が周りと玲の心の不安を

 浄化しているからだ。


 であれば、ユウトのライブの時に悪霊たちが

 出てこないのかというと、それは違う。

  例えば、会場に来られなかった人々の中には、

 思いが強すぎるがゆえに、

 深く悲しむ人もいるのだ。

 そういった思いがたくさん集まって

 会場に独り歩きしてくると、

 悪霊が出てくる原因になる。


 だから、彼のライブがあるときは、

 玲がそのライブに参加する時だけ、

 北斗が始末を請け負うことがたまにあった。


 中ではユウトが自分で歌っているから

 問題がなくても、外にいるものにまでは

 効果がない。

 寧ろ、ユウトの歌を聴くために入りたいと

 暴れ始める。

 そういう悪霊を外で始末する役目だ。

 ライブが始まってから終わるまで、

 外にいるのが常である北斗は

 同じ会場に居ながらも、

 ユウトのライブを見たことがなかった。


 大勢の観客の黄色い歓声は

 とても迫力があるものだ。

 そして、その中央で歌う我が弟も中々だった。

 そんな時、やはり悪霊たちの反応があった。

 北斗は途中で会場を出て、建物の裏手へと回る。

 今回は相当数が多い。

 流石は国民的スーパーアイドルだ。

 呼び寄せる悪霊の数も桁違いだ。


「これは結構、骨が折れるな。」


 出てくる奴らを片っ端から切り伏せる。

 切っても切ってもきりがない。


 ライブが終わってもまだまだ止まる気配がない。


「まだ出てくるのかお前らは。」


 いい加減にうんざりだ。

 そろそろ玲も外に出るころだろうか。

 早めに切り上げて玲と合流しなくてはならない。

 彼にとっては玲こそが最優先なのだから。


「はあい、北斗。手伝ってくれてありがとう。」

 あとは僕が代わるよ。」


 そこにやっとユウトが現れた。


「嗚呼、ユウトか。助かる。結構多くてな。」


「全く、こうやって悲しむ子がたくさん出るから、

 テレビで生ライブ放送しようって言ったのに。

 分かってないなあ、お偉いさんは。」


 きっと大人の事情に違いない。


「北斗は早く玲ちゃんの所に戻って。

 彼女、すごーく心配してたから。」


「会ったのか?」

「偶然ね。」

「絶対嘘だろ。」


 きっと、わざとだ。


「だって気になるじゃない?新しく来る子。

 大丈夫ちゃんと戻るの見送ったから。」


「そうか。ありがとう。」


「どういたしまして。あ、玲ちゃんに戦いのこと

 言ってないんでしょ。

 どこに行ったか分からないって

 不安そうだったよ。」


「せっかくライブ楽しんでるのに、

 不安にさせたら可哀そうだから。

 きちんとメールも打っておいたし、

 大丈夫だと思たんだが。」


「はあ。そういう問題じゃないと

 思うんだけど。ヒミツの多い男は大変だねぇ。」


「なんの話だ?」


「ベッツニ―。」


「おい!」


「ほらほら。北斗は早く戻って。

 ここは、もう大丈夫だから☆」


 吠える北斗にかまわず、にこやかにユウトが言う。


「嗚呼。じゃあ頼む。」


「オッケー任せて!

 またね北斗。ありがとう。」


「嗚呼、またな。」


 北斗は例の元へと急ぐ。


「さてと。それじゃあ、黒崎ユウトの

 セカンドスペシャルステージを始めよう。」


 そして、ユウトが一曲歌うと悪霊たちは

 すっと溶けていった。

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