表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と小説家  作者: おとなり かな
7/22

6話 彼らの真実

 優しい夢を見た。

 誰かに抱きしめられているような気がした。

 そんな感覚はいつ以来だろうか。

 そうだ。高校に入るとき、

 家族が行ってらっしゃいって抱きしめて

 くれたっけ。

 父も母も祖母も。皆、私を大切にしてくれた。

 でも、この人はその誰でもない。


「あなたは――――――――?」


 誰?と聞く前に目が覚めた。


「ここ……は?」


 玲は、まだ意識がはっきりしないながらも

 目をこする。

 視界に映る天井は自分が泊まった

 部屋のものとは違う気がする。

 ベッドはこんなに広かっただろうか?と思いながら

 少しずつ意識がはっきりしてきた。

 ふと、横に視線をずらすと、

 もう一つのベッドに北斗が眠っていた。


「―――――――?」


 玲、思考停止。


「なんで?」


 素朴な疑問と共に、

 思考がだんだんと追い付いてくる。

 まず、自分の服装を確認する。


 きちんと着ている。

 乱れはない。


 改めて周りを見渡してみる。

 グレーと黒を基調とした、

 シックで高級感と重厚感があふれる部屋。

 間違いなく北斗が一人で泊まるはずだった

 部屋である。

 そのベッドのうちの一つに自分が眠っていた。


 これは。


「なんでーーーー?」


 もう叫ぶしかなかった。


「………お前、朝からげんきだねぇ………。」


 隣のベッドから心底機嫌の悪そうな声が聞こえる。

 勿論、北斗だった。


「北斗さんっ。私はなんでこの部屋にっっ!」


 状況が呑み込めない。説明プリーズ。

 そんな心境で玲は北斗に掴みかかる。


「ちょっと待て、掴むな。」


 玲を引きはがして襟元をなおす。


「でも……。」


 玲はまだ混乱している。


「お前覚えてないの?昨日ここで夕飯食べて。

 ユウトのブロマイドトランプで神経衰弱やって。」


「それは、覚えてますけど……その後は?」


 聞きたいのはそこである。


「その後、お前は疲れて眠ったんだ。

 起こしたけど起きなかったの。」


「それだけ、ですよね?」


「それだけだ。俺はお前を

 ベッドに寝かせただけで、何もしてない。

 証拠だってある。」


「しょうこ?」


「まず、お前が覚えていないこと。

 衝撃的なことがあったら普通は思い出すだろ?

 あとまあ決定的なのは、

 お前に俺が見えていること。」


「え?」


「死神が新しい仲間を迎えに行く時、

 対象の人間に悪事をはたらいたり、

 敵対行為をしたりすると、

 そいつは迎えに行く権限を剥奪されて、消える。

 存在ごとな。」


「存在ごと?」


「いなくなるってこと。

 まあ、人間側から本物の敵意を向けられた時には、

 上に上がる権限が無くなって、

 どっちにしても見えなくなる。」


「成程。つまり、私に死神になる権限があって、

 北斗さんが見えている間は

 特に何も問題はないということですね。」


「そういうこと。

 ほら、ここにも書いてあるだろ?

『対象者への悪事や敵対行為と

 みなされるものがあった際には、

 守護役を解任する』って。」


 渡されたのは守護役規定と書かれた書類だった。


「ほんとだ。

 守護役っていうんですね。北斗さんのお仕事。」


「お前を迎え入れるまではな。

 死神は新しく迎え入れる奴が出てくると

 守護役をつけるんだ。


 守護役は、ひとり仲間を迎え入れたら

 次は違う仕事に就く。

 一度やったら二回目が回ってくる事はない。」


「それって―――。」


「そう。俺が送り出すのはお前だけってこと。」


 だから、大切な仕事なのだろう。

 そして玲はあることに気付く。


「あれ?この契約日。私の生まれた日。」


 契約書の契約日は玲が生まれた誕生日だった。


「そう。守護役は、候補の子が

 生まれた時に決まる。」


「じゃあ、もしかしてずっと一緒に?」


「ご名答。まあ、実際は命日の七日前になるまで、

 見守るだけで何もできない。

 勿論あいつらがいても何もしちゃいけない。

 そういうものも乗り越えられないと、

 こっちに来れないからな。」


「ある程度、自分でなんとか

 しなきゃいけないってことですか?」


「そう。見てるだけで何もできないってのは

 中々歯がゆいものだ。

 せっかく直接守れるようになったわけだし、

 ここまで来たら、ちゃんと送ってやるよ。

 俺じゃ不満かもだけどな。」


「そんなことないです。

 守ってくれるのが北斗さんで良かったです。」


 やっと、北斗が自分のことを

 何でも知ってることに納得がいった。

 そして自分を大切に思ってくれる者が

 ずっと近くにいたことに安心した。

 そして、こんなに大事にしてくれる人に

 送り出してもらえることが嬉しかった。


「よし。じゃあ、ライブ行くんだろ?

 準備しないとな。」


「はい!」


 玲は準備の為に部屋へと戻る。笑顔満開だ。

 彼女を見送って北斗はバスルームへ。


 彼は玲に一つだけ嘘をついた。

 彼女に何もしてない訳じゃない。

 玲が疲れて眠ったのではなく、

『北斗が眠らせた』が正しいのだ。


 時は昨日の夜に遡る。



○昨夜 最上階スイートルームにて○


「部屋まで送るから……。」


 遊び終わって玲を送ろうとしたとき

 北斗は何かに気が付いた。


「嗚呼……ちょっとお前、先にここで眠っとけ。」


「ほくとさん?」


 北斗は玲を引き寄せ、軽く暗示をかける。

 淡い紫の光に包まれて、

 玲はゆっくりと眠りに落ちた。

 北斗はそのまま彼女をそっとベッドに横たえてから

 部屋を出る。


 式神が悪霊たちを探知したようだ。

 場所は四階。玲の泊まっているフロア。

 幸い玲の部屋ではないが、危険はすべて排除する。


 奴らが出たと知れば、

 玲がまた不安を抱くかもしれない。

 彼女が眠っている間に始末した方が良い。


 北斗はエレベーターで四階へ降りる。

 探知された場所にはやはり数匹集まっていた。


「そんなに多くはないな。

 さて、さっさと片付けるか。」


 北斗は素早く刀を抜くと鮮やかに切り伏せる。

 このくらいであれば大した問題ではない。

 彼らは塵となって消えていった。


 その後、北斗は部屋に戻って

 ベッドの上の玲を起こす。


「おーい。起きろ。部屋に帰るぞ。」


「ユウトが目の前に………。」


 寝言である。


 その後も何とか粘るが、

 彼女が起きる気配は全くない。

 部屋のキーは持ってきているだろうから、

 部屋まで運ぶことも考えたが、

 いくら昔から守護してるとはいえ、

 勝手に人の泊まる部屋に入るのは憚られた。

 玲からしたら、今日が初対面なのだから。


 考えに考えた末に困り果てた結果、

 このまま寝かせておくしか方法はなかった。

 仕方がないのでもう一つのベッドで

 寝ることにしよう。


「おやすみ。玲。」


 こうして夜は更けていったのだった。


 勿論、このホテルに奴らがいたことは

 玲には内緒だ。

 気配は感じたと言っていたが、

 今はユウトのライブを楽しみにしている最中だ。

 わざわざ戦ってきたことを話す必要もないだろう。


 簡単に準備を済ませて玲の部屋に向かう。

 到着すると玲もちょうど部屋から

 出てくるところだった。


「さて、出発前に一つやることがある。」


「どうかしたんですか?」


「連絡先を交換しておこう。

 会場広いし、迷子になったら困るだろ?」


「そういえばまだ交換してませんでした。」


 ずっと近くにいて離れて行動する事がなかった為に

 忘れていた。

 少しだけ北斗のことを知れた気がして、

 玲はひそかに喜ぶのだった。


「よし、行くか。」


「はい!」



○ライブ会場前○


 二人はライブ会場へと向かう。

 宿泊先のほぼ隣なので、そこまで移動距離はない。


「そういえば、ライブの間は北斗さんは

 どこに居るんですか?」


「俺か?会場に入るよ。」


「でも、チケットないと入れないですよ?

 透明になって壁をすり抜けるとか?」


 死神になら出来そうなものだ。


「姿は消せてもすり抜けるのは無理だな。」


「じゃあ、どうやって?」


 ライブの警備は厳重だ。

 チケットなしでどうやって入るのだろう。


「そりゃあ、勿論。これを使って入るのさ。」


 北斗が封筒を差し出した。

 昨日ホテルで受け取った封筒だ。

 中身はユウトのライブチケットだった。

 来場者の名前が印字された正真正銘本物だ。


 今回のライブでは転売防止のため、

 身分証の提出も求められており、

 チケットに印刷された名前と照合するのだ。


「それ、どこで?」


「どこでって、ちゃんと買ったんだよ。」


 北斗の名前が刻印されたチケット。

 ということは、彼もまたチケット戦争に勝利した者

 ということだ。


 それは、つまり玲からしてみれば、

 彼も自分と同じユウトのファン。

 同志ということである。


 そしてそれを知った彼女のテンションが

 上がらないはずもない。


「なーんだ!北斗さんもユウトのファンなんですね!

 早く言ってくれればよかったのにっ!

 でも、死神もCD買って応募とかできるんですね!

 最初から持ってたなら、私が行くって言ったときに

 普通に言えば良かったじゃないですか。

 なんだかんだ言っても

 ほんとはユウトのこと好きなんですね。

 かわいい人です。」


「大人の事情だ」


「またまた、誤魔化して。

 好きなら隠さなくていいのに。」


「はいはい。そうですねー。」


 北斗は苦虫を噛み潰したような顔をしつつ

 生返事を返す。

 そんな彼の表情に玲は気づいていない。


「まだ照れてるんですか?

 男性ファンも多いから、全然大丈夫ですよ。

 でも北斗さんの本名って

 黒川北斗っていうんですね。」


「嗚呼、こっちにいるときは、そう名乗ってる。」


「なるほど。じゃあ、今日は一緒に

 楽しみましょう!」


 玲は仲間が増えて嬉しそうだ。

 実はこのチケットは特殊な方法で

 入手したものなのだが、

 それをここで話すと面倒なので

 黙っておくことにした。


 二人はチケットを提示して中に入る。

 自分の座席に座ると、

 北斗はその場所を中心に結界を張り

 式神を飛ばす。玲を守るために余念がない。


「北斗さん?北斗さん!」


 集中していたら、玲の呼びかけに気づかなかった。


「どうした?」


「大丈夫ですか?もう始まりますよ?」


「嗚呼、そうみたいだな。」


 この大きな会場に結界を張るには

 少し時間がかかる。

 気づけば開演の時間になっていた。


 歓声が上がり、客席はサイリュームの海に変わる。

 そしてユウトの歌声とバンドが

 体に響いてくる瞬間。

 彼がいることで何万人もの人間の心が一つになる。


 玲はこの瞬間が大好きだった。

 でも、それも今回で終わりだ。


 上に上がってしまってからは、

 もう彼に会うことはできないのだから。

 そう思うと、より一層胸が熱くなる。


 自分がこの世界からいなくなる間際のこの時に、

 彼のライブがあって、そこに参加できたことが

 何より嬉しかった。


 自分の支えになってくれた人が輝いている姿は

 何度見ても美しいと思う。


 玲は、そんな彼の姿を目に焼き付ける。


 何年たっても


 いつまでも


 この日を


 この輝きを


 忘れないように。


 そんな思いが熱い涙に変わって頬を伝う。


 今回の新曲も新たに披露され、

 ライブはそろそろ終盤。

 アンコールでは、恒例の曲で会場中が大合唱。

 熱気冷めやらぬ中で幕を閉じる。


「………終わっちゃったなあ……。」


 終演をおしむように呟く玲。

 もうすぐ席を離れる順番が来る。


「そろそろ………あれ、北斗さん?」


 隣にいたはずの北斗がいない。

 メールを確認すると

『少しはずす。先にホテルで待っていてくれ。』

 と連絡が入っていた。

 受信時間は三十分ほど前だ。


「どこ行っちゃったんだろう……。」


 北斗がいなくなったことに不安が募る。

 そして、いくらライブの最中だったとはいえ、

 彼がいなくなったことに気づかない自分も

 どうなのかと思ってしまう。


 いつまでも会場の中にはいられないため、

 やはり一度ひとりでホテルに戻る他ない。

 流石に終演直後ということもあり、

 なかなかの人ごみだ。

 建物の外に出るだけで

 結構な時間がかかってしまった。


「青木玲さん。」


「はい?」


 ホテルに戻る途中、誰かに呼び止められた。

 振り返るとサングラスをかけた男性が立っていた。


「貴方は―――。」


 サングラスをかけていても見惑うはずがなかった。

 その人は―――。


「こんばんは。黒崎ユウトです。

 ライブ来てくれてありがとうね。」


 つい先ほどまでステージで歌っていた

 国民的スーパーアイドルその人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ