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死神と小説家  作者: おとなり かな
2/22

1話 開かれる道

 その宣告は残酷だった。

 でも。


「私は一週間後に死ぬ運命だということですか?」


 意外と焦っていない自分がいた。

 寧ろそれを知っていたかのような感覚さえあって。


 自分でも怖いくらいに、

 心が凪いでいるのがわかる。

 それは、もう寒気すら覚えるほどに。


「その通り。やっぱり、あまり驚かないんだな。

 もう知ってたか?長くないこと。」


 北斗は気遣うでもなく、憐れむでもなく、

 それでも少し困ったように尋ねた。


「何となくは思ってました。

 私、昔から心臓が強くなくて。

 ここ最近発作の頻度も多くなってきてはいたから、

 もしかしてっ、ては思ってた。


 けど、そっかぁ。あと一週間かぁ………

 思ったより短いかな……。」


 自分の体のことだ。何となく感じるものはあった。

 見て見ぬ振りが出来ないくらい、

 己の体の不調は顕著だった。


「案外あっさり受け入れるんだな。こんな話。

 自分で言っててなんだけど、

 こんな信憑性のかけらもない話。

 疑ったりはしないんだ?」


 確かに信じられないような話だ。

 医者でもない、まして自称死神などと

 名乗る者の話など、鵜呑みにする方が

 おかしいのかもしれない。


「なんでかなあ……。

 言われて、何か、受け入れちゃってて。

 多分、今私が泣いてるってこと自体が

 自分の中の答えな気がするの。


 別に貴方が嘘つきで、

 一週間過ぎても私が元気で居られるのなら、

 それで良いんですけど。


 仮に嘘だったなら、

 見ず知らずの人がそんなことを言ってくる

 理由こそ思いつかないし、

 この話が本当かどうかは一週間たたなきゃ

 証明できない。


 そして一週間後に本当に迎えがくるかもしれない。


 あなたの言葉が嘘かほんとかは知らないけれど、

 その可能性がゼロでないことが感覚的に分かる

 自分が、一番怖い……。」


 言いながら、

 きっと彼の言うことが真実なんだろうと

 納得してしまう自分がいる。


 死神が見えるというこの状況が仮に幻覚だった

 としても、それは幻覚を見るほどの状態に

 陥っているということで。

 そんな自分はもう正常ではないように思う。

 

 それが、ただ悲しい。



 頼りなく笑う玲の目には涙があふれてる。


「あー、まあ、そうだよなあ。

 いきなり聞いたらそうなるよなあ。

 その、……話はこれで終わりでは

 ないんだが………。」


 そんな玲を見て、死神がどうしたものかと

 うなだれる。


「……あの……、どうか、した………んです、か?」


 涙声になりながらも問いかける玲。

 突き付けられた宣告が顔に影を落としている。


「いや………。なんていうか。

 俺は、お前に理不尽に寿命の話だけを

 しにきたんじゃないんだ。」


 歯切れの悪い死神。


「まだ何か、あるんですか?」


 余命宣告なんて、とてつもないものを

 持ってきたのに、まだ他にあるというのか。

 

 玲は先ほどよりかは落ち着いているが、

 その目には不安が滲む。


 死神は少したじろぎながらも、

 咳払いをして切り出した。


「お前のその目。色んなものが見えるだろ?

 普通の人間に見えないものも含めて。」


 そう。玲の目は特別だった。紫色の目。

 彼女には、存在の良し悪しにかかわらず、

 あの世の者たちが見える。

 俗にいう霊感体質という奴だ。


 己の死の話をされた時、

 比較的冷静でいられたのは、

 この力があるが故かもしれない。


「やっぱり神様なんですね。

 そんなことまで知ってるんだから。」


 玲が笑う。いたずらを見破られた子供のようだ。

 

 死神も少し笑ってそっと眼鏡をはずすし、

 玲に目線を合わせる。

 男の紫色の目の光が少し強くなった。


「その目……は……あなたも?」


 玲はその光を見て思わず息を呑む。


 死神の目は、玲の目と同じ色をしていた。

 同じ紫色。

 そして彼女は、その目が自分の目と同じモノだと

 自然に理解できた。


「分かるだろ?お前が持ってるその目は、

 俺たち死神と同じものだ。

 だから俺はお前をスカウトしに来たんだよ。

 人間としての生涯を終えた後、

 一緒に死神やりませんっか?ってさ。」


「………私が?」


 言葉を理解するのに、数分かかった。


「そう、お前が。仕事の内容は実際なってから

 教えるけど、生きた人間に直接手を下したり

 するわけじゃないからそこは安心して良い。

 俺たちの仕事はただ迎えに行くだけだ。」


「迎えに………」


 まだ追いつかない思考の中で

 北斗の言葉を少しずつ理解する。


「そう。輪廻転生ってあるだろ?


 上がって来た人たちが、

 また人として生まれ落ちるための

 サポートをするのが仕事。


 聖職者みたいなもんだよ。」


 北斗はそんな玲に少しづつ、

 ゆっくりと言葉を紡いだ。


「聖職者………」


 玲は呟きながら、北斗を見やる。


「なんだよ、その疑わしい目は。」


「いえ、なんか聖職者って、

 もっとお堅いのかなって思って。」


 玲が少し笑う。


「フランクで悪いか。

 あんまり固いとやりにくいんだよ。

 人が相手だからな。」


「確かに。仏頂面の冷たい人よりは、

 北斗さんの方が良いかもしれない。」


 そういう玲の表情は明るい。


「で、どうする?

 お前、学校卒業してからは一旦療養する予定

 なんだろ?と言っても寿命は七日間な訳だが。

 ただ死ぬよりは死神やった方がいいと思うけど。」


「ただ死ぬよりはって、確かにそうですけど、

 なんで私の卒業後の動き知ってるんですか?」


「そりゃあ知ってるさ。身辺調査したんだから。」


 ペラりと渡された報告書。

 そこには玲の出生から現在、プロフィール、

 さらには好きな異性のタイプから

 スリーサイズに至るまで、

 こと細かく記されていた。


「これ、全部あなたが調べたんですか?」


「勿論。俺の仕事だからな。

 全部調べさせてもらった。」


「………っ、このストーカー!」


 恥ずかしさからか、恐怖からか、怒りからか、

 ともかく叫ばずにはいられなかった。


「死神になるには審査が厳しいんだよ。

 一から百まで調べないと通んないの!」


 死神は最もらしく言い訳を紡ぐ。


「だからって限度というものが………」


 死神の世界にはプライバシーはないのだろうか?


 興奮冷めやらぬ玲である。


「まあ、落ち着け。この調査のおかげで

 お前の第二の人生が開かれるんだから。」


「第二の人生……。」


「そう。こっちに来れば体は健康そのものだからな。

 今までみたいに、いつまで生きるとかって

 恐怖はないし、病院のベッドにいるようなことも

 勿論ない。」


「そうなんですか?」


「そもそも人間の体のままで、

 あっちに行くわけじゃないから。」


「別人になるとか?」


 転生するのだろうか。


「お前の存在自体は変わらない。」


「じゃあ、どういうことです?」


 いまいちピンとこない。

 死神なんてフィクションの世界のもの。

 知識がないのは当然のことだ。


「単純にお前のままで人間から死神に変化する。」


「変化。」


「そう。まず、この目をもって生まれた時点で

 俺たちは最初から死神なんだ。

 そしてこの目は、生まれ持った自分の体の生命力を

 少しずつ取り込んで死神としての力を成長させる。


 寿命が近いってことは

 死神としての成熟が近いということだ。」


「じゃあ私は、人間の寿命が尽きると同時に、

 死神として完成するってことですか?」


「そういうこと。


 だから、寿命の七日前になると

 他の死神が迎えに来るようになっている。


 審査基準に合格した奴だけな。」


「審査基準あるんですか?」


「そんなに難関じゃないが、

 人を殺めたりする経歴があると上には行けない。

 上は清廉潔白だからな。


 と、まあ、こんな風に死神が生まれる。」


「じゃあ、もしかしてあなたも?」


「無論だ。俺も小さい時から体は弱かったし、

 寿命も短くて、死を間近に感じる人間だった。


 この点において、

 死神として上に上がった奴らに例外はない。

 みんなお前と一緒。」


 死神が少し微笑む。

 安心する優しい笑顔だ。


「一緒………。」


 今、目の前にいる男も。


 流れる季節を窓から眺めるだけの日々を

 送ったことがあるというのだろうか。


 自分と同じように。


 それを思うと、とても胸が熱くなった。


「短い人生の中で命を全うした者だからこそ、

 召されてきた魂を正しく送り出そうと尽力できる。

 場所は違えど、皆、誇りをもって生きてるよ。」

 

 その言葉は、玲の心を強く揺さぶった。


「それは、とても、素敵な、こと、ですね。」


 言葉がうまく出てこないほどに。


「それで、どうするかは自由意志だけど、

 お前はどうしたい?」


 美しい紫の目を持つ少女は。


「そんな素敵な世界で私も生きてみたい。」


 その瞳を涙で濡らしながら死神に願った。


「交渉成立だな。改めて宜しく、玲。」


 死神がそっと手を差し出した。


「はい。こちらこそ。」


 少女は涙を拭きながら死神の手を取る。


 桜並木の下で、死神と少女は

 契約の握手を交わした。


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