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死神と小説家  作者: おとなり かな
17/22

16話 儀式、変容、はじまり

○天界にて○


 牛車はゆっくりと止まる。


 回収役の所に行って書類の手続きを済ませて

 祖母の魂を預ける。


「玲さん、お疲れさまです。」


 部署を出たところでありすに声をかけられた。

 彼女も無事に戻ってきたようだ。


「初仕事、お疲れさまでした。」


「ありすさんも。」


「はい。私、任命式の日に、

 玲さんに会えてよかったです。

 自分だけだったら向き合えなかった

 ような気がします。」


「それ、分かります。

 一人だったら書類を見た瞬間に逃げ出して

 いたかもしれない。」


 特に二人で何か話したわけでもなかったけれど。

 手紙を開いた瞬間に、思わず顔を見合わせていた。

 その瞬間、この残酷な事実を受け止めているのが、

 自分ひとりではないということに救われた。


 二人で顔を見合わせて笑う。


 任命式の日に一緒に仕事の内容を知って。

 強すぎるショックに襲われて。

 悲しみに暮れながらも現実に向き合って、

 無事に帰ってくることが出来た。


 つい昨日の事なのにとても懐かしく思う。


「では、私はそろそろ戻るので。」


「あ、回収役でしたよね。」


「はい。これからよろしくお願いします。」


「こちらこそ!では、私も戻ります。

 お疲れさまです。」


 玲は挨拶をして部署を去る。

 出口のところで北斗が待っていた。


「終わったか?」


「はい。滞りなく。」


「それは良かった。じゃあ、もう一個な。」


「まだ、何かあるんですか?」


 祖母の件の手続きは完了だと

 聞いていたのだが。


「お前が死神になる儀式だよ。」






 そして、連れてこられた部屋には棺桶があった。


「ここでお前を今から燃やす。」


 そこは火葬場だ。


「え―――――?」


 時が止まった気がした。


「心配しなくていい。

 お前の体は燃えないから。」


 混乱する玲に北斗が一言付け加える。


「それって、どうゆうことですか?」


 余計ややこしくなった。


「炎の中でもその目がお前を守るから。

 お前は熱くも痛くもない。

 人間を卒業するための節目みたいなものだ。」


「本当に?」

「本当に。」

「本当の本当に?」

「本当のほんとう、―――にっ!」


 言いながら北斗が玲を抱き上げて棺桶に入れる。


「あ、ちょ、ちょっと、無理やり…………。」


「また会えるから。大丈夫だ。俺は嘘をつかない。

 信じて寝とけ。」


 暴れようとする玲を諭して棺桶をそっとしめる。


「そんじゃ、まあ、派手に燃やしますかね。」


 北斗が朗らかに物騒なことを言って指を鳴らすと、

 玲の棺桶に火が放たれる。


 

炎が棺桶を包んで大きく燃える、燃える、燃える。



 暫くすると炎が消え、棺桶は煤で真っ黒になった。


 北斗が棺桶を開くと、安らかに眠った玲がいる。

 彼女の体は無傷で、

 目立って変わったところもない。


 紛れもなく死顔そのもので。


 その姿は非の打ちどころなく

 美しい人形のようだった。


「玲、起きろ。」


 北斗は暫く玲の寝顔を見つめてから、

 優しく声をかける。


「――――。北斗さん………?

 あ、あれ………?生きてる?」


 玲は、ゆっくりと目を開け、

 手を開いたり閉じたりして感触を確かめる。


「な?また会えただろ?」


「――――っ。はいっ。」


 玲は少し泣きながら満面に咲く笑顔で答えた。


「泣くなよ。」


「だって、もしかしたら、

 ほんとは死神になるんじゃなくて

 死んじゃうのかなって……。」


「ここまで来て流石にそれはないだろ。

 俺って信用ねーのな。」


「そ、そういうわけじゃなくて!」


「はいはい。じゃあ、改めて宜しくな。相棒。」


 北斗が右手を差し出した。


「はい!」


 玲がそれに答えると、北斗は彼女を少し強めに

 引っ張って棺桶から救い出した。

 死神と死神になった少女は三度目の握手を交わした。




○大図書館 地下居住区にて○


「ただいま。」


「ただいま戻りました!」


 火葬場を出た二人は再び圭吾たちの部屋を訪れた。


「やあ。無事に終わったみたいだね。」


「はい。何とか。まさか燃やされるとは

 思っていなかったですけど。」


「まあ、あれはびっくりするよね。」


「玲!お疲れ様。また会えて嬉しいよー!」


 駆け寄ってきたルミが

 玲に飛びついて抱きしめる。


 夜でもテンションが高くて元気な彼女は

 未だに高校生そのものだ。


「ただいまです。ルミさん。

 またやってるんですね、オセロ。」


 テーブルの上にはオセロのボード。

 前に訪れた時と同じだ。


「またルミが負けてるのか。」


 そして戦況は黒が圧勝。これも変わらない。


「だって圭吾が手加減してくれないから。」


「ルミが弱すぎなの。」


おまけに二人のやり取りまで全く同じ。


「もうっ――――って玲、また笑ってる!」


 その姿を見てくすくすと笑う玲に

 ルミが甲高い声で抗議する。


「ご、ごめんなさい。やっぱり面白くて。

 あ、そうだ。じゃあ、今度は圭吾さんに

 私たち二人で挑みましょう!」


 ひとしきり笑った後で玲が提案する。


「あっ!それいいね。私も玲と遊びたい!!

 やるわよね、圭吾。」


「なんで僕が……。」


「あぁ、私に負けるの怖いんでしょ?」


 ベタな煽り方である。


「はあ、分かったよ。やるから、

 その煽り方止めて。ベタ過ぎてダサいよ。」


「ダサい言うな!」


 こうして圭吾VSルミ、玲の

 オセロゲームが開幕した。



 暫くして。



「カンパイイタシマシタ。」


 頭を下げる圭吾。

 ボードは白の駒が大半を占めている。


「やったー!初めて勝った!」


「大勝利ですね、ルミさん」


 玲とルミは笑顔でハイタッチだ。


「ルミ。喜んでるけど、

 大半は玲ちゃんのおかげでしょ?」


 今回はほとんど玲が戦況を動かしていた。


「そんなことないですよ。

 ルミさんが応援してくれたから勝てたんです。」


「はあ……君は優しいねえ………。」


 圭吾は軽いため息をつく。


「なーに?圭吾。負けて悔しいの?」


「だから、ベタな煽り方はダサいって。」


「ダサい言うな!」


 本日二度目である。


「しかし、お前ゲームならなんでも好きだよな。

 知ってたけど。」


 言ったのは北斗だ。

 彼も神経衰弱では

(主にメンタル面の原因もあって)玲に敗北していた。


「そうですね。昔から家族でやってたので。

 ゲームやってる間は色々見なくて済みますし、

 逃避行為でしたけどね。

 テレビゲーム系は集中し過ぎちゃうから

 あんまりやりませんが。」


「へーそうなんんだ。ゲーマーってやつ?」


「まあ、そうですね。

 始まると時間があっという間に過ぎちゃいます。」


 玲は言いながら時計を見る。

 二十二時を回るところだった。


「あ、もうこんな時間。

 私、そろそろ戻ります。」


「嗚呼。そうだ、これ。」


 北斗が差し出したのは携帯端末だった。


「これは?」


「天界用の端末。

 今までの奴はもう使えないから。」


「あ、ありがとうございます。」


「俺の連絡先はもう入ってる。」


 不意打ちだった。


「――――っ、あ、えと。」


 嬉しい。嬉しすぎて、

 言葉がうまく出てこない。


「どうした?」


 北斗がからかう様にニコリと笑う。


「う、嬉しいですっ。」


 玲は少し、赤くなりなって

 言葉に詰まりながらも、素直に伝える。


 北斗の方から歩み寄って

 もらえたような気がして、嬉しかった。


「それは良かった。明日から宜しく。」


「はい。相棒の北斗さん。」


「お、おう。」


 北斗が目を丸くする。


(こいつから相棒って言われるのは初めてだな。)


 北斗もまた、素直に嬉しかった。


 一人で部屋に戻った玲は入浴を済ませて

 パジャマでベッドに転がる。


 死神の仕事のためずっとドレスを着ていたので、

 ラフな格好をするのは久しぶりだ。

 使い慣れたベッドは、ほっとする。


「そういえば。」


 玲は祖母からの手紙の存在を思い出して

 プレゼントの箱を開ける。

 


大好きな玲ちゃんへ


 この手紙を読んでいるということは、

 私はもうこの世にはいないのでしょうね。

 そしてあなたが無事に死神様になって

 私を天へと連れて行ってくれたことでしょう。

 本当にありがとう。


 最期に大切なあなたが送ってくれるなんて、

 これ以上幸せなことはないわ。


 優しいあなたのことだから、きっと任命式の時、

 初仕事の書類を見てとても混乱したかもしれない。

 それでも、きっと受け入れてくれたと思うわ。


 だってあなたはとても強い子なんだもの。


 それから、初仕事が終わった後の火葬には

 びっくりするかもしれないわ。


 魂を清めて人間だった自分に

 区切りをつけるためのものよ。

 もしかしたら棺桶を閉じられた瞬間に

 泣いてしまったりするかしら。


 でも、大丈夫だったでしょ?


 ああ、そうだ。

 そちらでの新しいお友達は出来たかしら。

 玲ちゃんはゲームがとても上手だから

 一緒に遊んだりしたらきっとすぐ仲良く

 なれると思うわ。

 でも、たまには手加減もしてあげてね。


 貴方、おじいちゃんがとてもゲームに

 強かったからって一緒にメキメキ強く

 なってしまうんだもの。

 あの人が生前驚いていたわね。


 でも、息抜き程度にするのが良いかも。

 やりすぎちゃだめよ?

 ゲームも良いけど、現実の方も大切にね。


 そういえば、玲ちゃんは生前に恋に落ちた経験は

 あったのかしら。

 こういう話がもうできないのが寂しいわ。


 いくつになっても恋の話はするものよ。


 そうだ。玲ちゃんの話を聞けない代わりに、

 少しだけ私の恋の話をしようかしら。


 私は勿論そうだけど、あの人

 ――おじいちゃんも同じ死神だったの。

 私たちは天界に来てから出会ったのよ。


 それから二人で人間が生きるよりも

 はるかに長い時を生きた。


 死神ってね、とても長い時を生きられるの。

 百二十年の縛りが解けたら、人間界で死神として

 働くこともできるようになるわ。


 でも、死神の仕事としてじゃなくて、

 人間として暮らすこともできるのよ。

 二十代中ごろの状態で降りてきて、

 そこから普通に年を取るわ。


 私たちは三百年位で人間として生きることに

 決めたの。


 そして、あなたのお母さん玲奈が生まれた。

 玲奈は普通の人間。


 死神の目は自分の二世代あと、

 孫に引き継がれるようになっているのよ。


 だからね、玲ちゃん。

 もしもあなたが素敵な人と素敵な恋に落ちたなら。


 その子供と、そして同じ死神として生まれる孫を

 大切に守ってあげてね。


 あなたのこれからの日々が

 たくさんの幸せと共にあることを願っているわ。


               おばあちゃんより 





「全部、お見通しなんだなあ。」


 手紙を読み終えてそう呟いた。

 まさか祖父まで死神だったことには驚きだ。

 自分もこの人のように素敵な家族を

 持てるだろうか。


「ありがとう。おばあちゃん」


 そう言って手紙を箱に戻す。

 手紙と指輪を少し眺めてそっと箱を閉じる。

 それからゆっくりと眠りについた。



 少女はついに運命の日を迎え、死神となった。

 さあ、明日からは死神としての日々が待っている。

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