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死神と小説家  作者: おとなり かな
15/22

14話 家族

日が昇って。


 玲はゆっくりと体を起こす。

 時計を見ると、もうすぐお昼だった。


 昨日あれだけ泣き明かしたのに疲れは全く

 感じない。寧ろ好調なくらいだった。

 まるで、お前は今日、ゆっくりしている暇はない

 だろうと突き動かされている気さえして、

 全てを知っている己の体に悪態をつきたくなる。


「行くしか、ないよね。」


 上る太陽に両手を合わせて祈りながら、

 そう呟いた。


 着替えてドアを開けると北斗が待っていた。


「あ、北斗さん。おはようございます。」


「嗚呼、おそよう。食べ物買ってあるから。

 もう行けるか?」


 実家には午後から行くことになっている。

 自宅近くに直接降りるが、馬車での移動時間も

 考慮すると、そろそろ出てもいいころだった


「あ、ありがとうございます。すみません。

 ゆっくりしちゃったみたいで。」


「問題ない。

 みんなこの日は、そういうものだ。」


 地下鉄に乗るため地上には上がらず、

 地下の玄関に向かうと、

 ルミと圭吾が待っていた。


「おはよう、メンタル的には大丈夫では

 ないかもしれないけど、

 でも、大丈夫よ。きっと。」


「気を付けてね。」


「ルミさん、圭吾さんも。

 ありがとうございます。」


 先輩たちの優しさが嬉しい。

 沈みそうな心が奮い立った。


 二人に見送られて、

 北斗と玲は馬車に乗り込んだ。



○自宅近くにて○


 地下鉄に乗った玲は、直接自宅近くに

 降り立った。すぐ隣に北斗もいるが、

 彼は姿が見えないようにしている。

 家の前に立って呼び鈴を鳴らす。


「はーい。あら、玲。おかえりなさい。」


 母が出迎えてくれた。


「ありがとう。

 ちょっとおしゃれしたくて。」


「とても似合ってるわ。素敵ね。

 彼氏でもできた?」


「か、かかかか彼氏なんて………。」


 和やかな会話が続く。


「お父さん。玲が帰って来たわよぉ。」


 母が呼ぶと、リビングから父が顔を出す。


「おお、おかえり。久しぶりだね。

 元気そうでよかった。」


「うん。ただいま。

 急に引っ越すのやめてごめんね。」


「気にしなくていい。お前が元気で、

 楽しく生きているのが一番なんだから。」


「ありがとう。お父さん。」


 リビングには祖母もいる。


「あら、玲ちゃん。元気そうね。」


「うん。元気だよ。」


 玲と同じであのモノたちが見える人。

 小さい時から玲を守り、慰め、励ましてくれた

 大事な大事な人。


「うん、うん。それは良かった。

 玲ちゃんが元気ならそれでいいんだよ。」


「うん。ありがとう。」


 この人が居たから

 生きて来られたようなものだった。


「今日はね、皆にお土産があるの。」


「あら、そうなの?」


「お母さんには、これ。ペンダント。

 つけてあげるね。」


 玲は、母の後ろに回って

 ペンダントの金具をつける。

 ハート形にカットされた石がキラリと光る。


「あら、珍しい石で出来てるのね。」


「そう。ちょっと特別なもの。

 お父さんにはネクタイピンにしたの。

 お仕事の時に使って。」


「おお、これは良いものだね。

 大事にするよ。ありがとう。」


「最後に、おばあちゃんにはこれを。」


「あら、ブレスレッドねえ。ありがとう。

 キラキラして素敵。玲の服とお揃いなのかしら?」


「そう。皆、同じ素材で出来てる。

 お揃いなのを見せたくて

 今日はこれを着てきたの。」


「今日は気合入ってると思ったら、

 そういうことだったのね。

 なーんだ。やっぱり彼氏じゃなかったのね。」


「だから、違うってば………。」


「玲奈、大丈夫よ。

 玲ちゃんは素敵な殿方連れて来るから。

 ねぇ、玲ちゃん?」


 穏やかに祖母が言う。


「え?ええええ???」


 はてなマークが止まらない。


「玲に、彼氏………。」


 すかさず父が反応した。


「俺の目が黒いうちは玲は嫁にやらない。」


 頑固おやじの目が鋭い。

 突然のキャラチェンジである。


「玲、変な男に近寄っちゃだめだよ。」


「変な男って………。

 向こうにはそんな人はいないよ。」


 一瞬北斗の顔が浮かんだのは秘密だ。


「ほら見て、これ。

 これから私が住むところ。きれいでしょ?」


 玲は、天界で撮った写真を差し出す。

 丘の上で撮った夕方の写真だ。


「本当だ。きれいね。」


「うん。良かったら飾っておいて。」


「うん。大切にするよ。」


 この世界では絶対に見られない景色だ。


「そういえば、シロマルは?」


 家で飼ってる犬のシロマルだ。


「勿論元気よ。あ、ねぇ、玲。

 シロマルとお散歩に行ってきてくれないかしら?

 買い足しておきたいものとかも結構あって、

 買い物と一緒に頼みたいんだけど。」


「うん。良いよ。」


「ありがとう。買い物リストメールしておくから。」


「分かった。じゃあ、行ってくるね。」


 シロマルとの散歩も久しぶりだ。


「おーい。シロマルやー。久しぶりだねぇ。

 おお、よしよし。一緒にお買い物行こうかー。」


 シロマルも変わらず元気だ。そしてかわいい。

 もふもふがとても気持ち良いのである。


「さーて。お買い物行くよー。」


 元気はつらつのシロマルと共に出発だ。

 近くのスーパーまで歩いてゆく。

 たまに玲の隣に向かって吠えている。

 もしかしたら北斗の姿が見えているの

 かもしれない。


「ちょっと、シロマル君。

 きみ元気すぎやしないかね?」


 玲と久しぶりに散歩が出来るとあって

 テンションが高いシロマル。

 玲が引きずられてゆく。

 もはや、どっちの散歩か分からなくなっていた。


 しばらく、シロマルに引きずられて

 スーパーに到着する。

 ペットは中に入れないのでシロマルは待機組だ。


「シロマル―、おすわり。」


 座るシロマル。


「待て。」


 少し寂しそうにしながらも

 シロマルは動かない。彼は優秀なのだ。


「よーし。良い子だねー。

 戻ってくるまでここで待っててねー。」


 玲はスーパーの中へ。

 買い物リストのメールを参考に店内を回っていく。

 レジの会計の時、

 危うくブレスレッドを差し出しそうになった。


「あ………。」


 危ない危ない。ここは天界ではないのだ。

 危うく不思議な子認定されるところだった。


 会計を終えて品物を袋に詰めてスーパーを出ると

 シロマルが子供たちにナデナデされている。

 彼は人気者なのだ。


「おお、シロマルー

 みんなにかわいがってもらって

 良かったねー。」


 玲も嬉しくなる。帰るときには子供たちが

 『バイバイ、シロマル―。』

 と言って見送ってくれた。

 手を振る子供たちが可愛い。


 帰り道もまたシロマルに

 引っ張られながら進む。


 通る道ぜんぶが懐かしい。

 通り道に小学校がある。玲が通った学校だ。

 十七時のを知らせる音楽が鳴っている。

 夕方の校庭には誰もいなかった。

 そういえば小学生の頃は帰宅時間が早かった。


 満開を過ぎた桜の花は少しずつ散り始めて

 所々に緑が見える。

 季節の移ろいを、時の流れを感じた。

 懐かしく周りを見渡しながら家路につく。


「ただいまー。」


「おかえり。玲。買い物ありがとうね。

 ご飯できるから、座って待てて。」


「何か手伝おうか?」


「いいの、いいの。今日は座ってて。」


「………?ありがとう。」


 いつもなら、よく手伝っているのだが、

 今日は邪魔しない方が良いのだろうか?

 もしかしたら服装のせいかもしれない。

 丈の長いスカートでは台所で邪魔になる

 こともあるだろう。


「お待たせ。」


 暫くして料理が運ばれて来る。

 メニューはオムライスだ。

 いつもよりも豪華な気がした。


「玲が久ぶりに帰って来たから

 気合入っちゃった。

 さあ、食べましょう。」


 嬉しそうに母が言う。


「ありがとう。頂きます。」


 四人そろって手を合わせる。

 久しぶりの母の味だった。

 天界に行ったら、

 これをもう食べることは出来ない。


 そう思うと胸が苦しくて泣きそうになる。

 食べ物がうまく喉を通らない。

 叶わないと分かっていても、

 この時間がいつまでも続けばいいと

 思わずにはいられない。


 それでも時が止まることはないのだ。

 人は進み続けなくてはいけない。


「ご馳走様でした。」


 噛み締めて、いつまでも忘れないように、

 よく味わって食べ終えた。


 また四人で手を合わせる。

 母が食器を運んでくれる。


「今日はスペシャルデザートよ☆」


 戻ってきた母はホールケーキを持ってきた。

 シンプルなイチゴとホイップクリームの

 ホールケーキ。

 真ん中にはHappyBirthdayの文字。


「少し早いけど、ハッピーバースデイ、玲。

 生まれてきてくれてありがとう。

 よくここまで育ってくれたわ。

 お母さん嬉しい。」


 今日は四月七日。玲の誕生日は二日後だが、

 当日には祝えないことを知って、

 はやめに用意してくれたのだろう。


「ほんとに、立派になったな。玲。」


「玲ちゃん、お誕生日おめでとう。」


 みんなの言葉が嬉しい。本当に嬉しい。

 こんなにあたたかい家族のもとに

 生まれて来れたことが何よりも幸せだった。


「――――――っ。あ、りが、とうっ―――。」


 涙が止まらなかった。


「もう、ほら泣かないの。泣き虫さんね。

 さあ、ケーキ食べましょう。」


「うんっ。」


「これは、父さんと母さんからのプレゼントだ。

 開けてごらん。」


 プレゼントのリボンを優しく解いて中を開く。

 きれいな銀の髪飾りだった。

 細い銀のラインで鳥をかたどった

 大きめのピンだった。


 いつもしている編み込みをとめるのに丁度いい。

 両親から人として最後にもらうプレゼント。


「きれい。すごくきれい。

 ありがとう。大事にするから。」


「新しい場所に行っても元気で過ごすのよ。」


「うん。」


 自分はとても幸せ者だと思う。


「さて、じゃあお母さんは洗い物してくるわ。」


「あ、私もやるよ。」


「座ってていいのに。」


「やりたいの。一緒にやろう?」


―――だって、これが最後なんだもん。

 少しでも一緒にいたいよ。


 それを伝えることは―――できない。


「じゃあ、そうしようか。」


「うん。」


 母と並んで食器を片付ける。

 これも久しぶりの感覚だった。


「あら、その指どうしたの?」


 母が人差し指を見て尋ねる。


「ちょっと切っちゃって。」


「おっちょこちょいね。

 気を付けるのよ。」


「はーい。」


 任命式の時に切ったものだ。

 絆創膏を貼っている。消えない傷。

 死神の証。


「ねぇ、玲。」


 母がゆっくりと話し出す。


「おばあちゃんね、

 もうあまり長くないみたいなの。

 結構前からベッドにいる時間が

 長くなっててね。」


「………そっか。」


「長生きだし、仕方ないことでは

 あるんだけどね。

 でも、今日は調子がいいみたいで。

 朝から元気だったわ。

 これもきっと玲のおかげね。」


「そうだと、いいな。」


「玲もこれから帰ってこれなくなるっていうし、

 今日は出来るだけ一緒に過ごすと良いわ。

 ちっちゃいころから、おばあちゃんの事

 大好きだったものね。」


「そうだね。そうするよ。」


 大好きだ。昔も。今も。そして、これからも。


「玲、先にお風呂に入っていらっしゃい。」


「うん。分かった。」


 食器をそっと置いて、

 玲はバスルームへ向かう。


「玲ちゃん。」


 入ろうとして祖母に呼び止められる。

 一瞬ドキリとした。


「どうしたの?」


「お風呂あがったら、おばあちゃんのお部屋に

 いらっしゃい。素敵なものがあるの。」


 彼女はいたずらっ子のように笑う。


「うん。あとで行くね。」


「待ってるわ。」

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