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死神と小説家  作者: おとなり かな
14/22

13話 知りたくなかった、分かってしまった。

○タワー前にて○


「さて、ここでは、死神の任命式がある。

 守護役がついて来られるのはタワーの外までだ。

 中には一緒に入れない。

 俺はここで待ってるから、しっかり行ってこい。」


「はい!」


 玲は一人タワーへと入る。

 一階はエレベーターホールだった。

 任命式は最上階にて行うと表示がされている。


「あなたも任命式ですか?」


 後ろから声を掛けられる。

 振り向くとふわふわロングの少女が立っていた。

 黒いドレスが白い肌と銀髪に良く似合っていた。


「はい。そうです。」


「そう。じゃあ一緒に行きましょう。

 わたくしは西宮ありす。

 あなたのお名前は?」


「青木玲です。」


「よろしくね、玲さん。」


「はい。喜んで!」


 ありすの立ち振る舞いは完全にお嬢様の

 それであった。

 隣にいるだけで緊張してしまう。


(こんな絵に描いたお嬢様もいるんだな………)


 ありすの顔を横目に見ながらそんなことを思った。


「玲さんはあと何日ですか?」


「今日を入れて三日です。」


「私と一緒ですね。」


 ありすがふんわりと笑顔を浮かべる。

 とても、かわいい。思わず顔が赤くなって

 しまう。


 やがてエレベーターは音もなく最上階へと

 たどり着いた。

 最上階には一人の女性が待っている。

 真っすぐに切りそろえられた前下がりの黒髪ボブ。

 切れ長の目の奥には少し冷たさを感じる。


「よく来ました。試験役のフィオレです。

 二人とも、早速ですが席へ。」


 淡々とした態度だ。用意された席は二人分。

 どうやら自分たちだけのようだ。

 机の上には白い紙と銀色の蝋で封のされた

 金色の封筒、そしてペーパーナイフ。


「まずは貴方たちが就く職を聞きましょう。

 希望するものをそれぞれ教えて?」


「回収役を希望します。」


 ありすが答える。


「導き手を希望します。」


 玲が続く。


「認めます。では任命に移ります。

 まず、その手紙はナイフでは開けられません。

 自分の血を使って開けるものです。」


「自分の血ですか?」


 玲が尋ねる。


「そう。用意してあるペーパーナイフで

 軽く指先を切って蝋の上に乗せると開きます。

 そのナイフで切った傷は血は止まりまりますが、

 傷跡は残ります。それが死神の証です。

 そして、その封筒に入った書類が貴方達の

 初仕事です。では、どうぞ。」


「はい。」

「はい。」


 二人はそっと指に傷をつける。

 少しずつ血が流れ出てきた。

 そのまま手紙の蝋に指をのせると

 銀色の蝋が血で赤く染まって砕けた。


 中身をそっと取り出す。

 傷の入った指からはまだ血が流れて、

 机に置かれた白い紙にシミを作り

 文字が浮かぶ。


「これは―――。」

「うそ………。」


 一方、封書の中を開いた二人は、

 書かれた内容に言葉を失い、

 互いに顔を見合わせる。


 鼓動が早くなる。息も少し浅くなった。


 嘘だと思いたかった。

 でも、その内容に嘘偽りがないことは

 本能的に分かっていた。

 悲しい程に分かってしまった。


 そして、ここに書いてあることは

 絶対に覆ることはないとも残酷なまでに

 知っている。


 嗚呼、そうだ。私たちは、この事実を受け止めて、

 受け止め続けて、生きていかなくてはならない。

 私達はそういう者だ。


 分かっていた。分かっていたはずだった。

 覚悟していたはずだった。

 それでも目の前にある覆らない現実は

 重く鉄のように体に落ちる。


 机に置かれた紙には次々と赤い文字が浮かぶ。

 それぞれの血が少しずつ形を変えて

 契約書が作られる。


「お疲れ様。二人ともサインが出ているわね。

 これで任命式は終わりよ。」


 フィオレの声が広い部屋に静かに響く。


「どうしてサインが、私は――――。」


「この契約書は、その手紙を見て、それでもなお

 死神になることを選んだものにしか作れない。」


 サインなんかしていないと言いたかった。

 言いたかったのに。


「つまり、これは貴方達が覚悟を決めたから

 作られたもの。

 事実から逃げずに向き合うと決めた証。」


 もう戻れないことを知る。

 目の前の契約書がその象徴だった。


「だから、大丈夫。ちゃんとできるわ。」


 フィオレが優しく微笑む。

 その表情からは冷たさは感じなかった。

 彼女は二人にそっと寄り添ってエレベーターまで

 連れて行ってくれた。


「宜しくね。」


 優しく、そしてどこか悲しげにそう言って

 フィオレは二人を送り出した。


 彼女はもう何度もこうやって新しい者たちを

 見送っているのだ。

 この事実を苦しみながらも乗り越えようとする姿を

 いつも見ている。


 自分は何も知らずにここに来た者たちに

 酷く残酷な事実を伝えなくてはならない。


 それは。


―――何度見ても心苦しいものだわ。

 そんな彼女の心の内は誰にも届くことはない。



 エレベーターの扉は無慈悲に閉じて

 少女たちを階下へ連れてゆく。



 下へ降りるエレベータの中で

 先ほどのフィオレの言葉が頭に響く。


――だから大丈夫。ちゃんとできるわ。と。

――宜しくね。と。


 彼女のくれたその励ましが、優しさが、

 少しだけ心を軽くしてくれた。


 地上について建物を出る。

 北斗が入り口近くで待っていた。

 それと見覚えのない女性もいる。


「大丈夫か?」


 北斗が気遣いながら声をかける。

 勿論、中であったことを知っているのだろう。


「な、なんとか。」


 精一杯答える玲の顔には、

 戸惑いと疲れと憂いが映る。

 気丈に振舞っていても、

 その胸中の葛藤は隠せるものではなかった。


「お疲れ様。ありす。」


「シホさん、ありがとう。」


 ありすの守護役、シホだ。

 グレーの長い髪を後ろでポニーテールに

 まとめている。

 クールな印象の中に意志の強さと

 優しさを感じた。


「二人とも書いたのか?契約書。」


「はい………でも書いたっていうよりも……。」


 北斗の問いに玲が答える。


「勝手に書かれた感じがしちゃいます。」


 ありすが困ったように続けた。


 二人は己の血が勝手に文字に変わるのを

 見ていただけだ。

 決して自分でサインしたわけではなかった。

 だから、自分で書いてもいない直筆のサインが

 恨めしい。

 筆跡がまごうことなく自分のものなのが、

 どうしようもなく苦しかった。


「さて、今日はもう疲れただろ。

 戻ってゆっくりすると良い。」


 外はもう日が沈みかけている。


「嗚呼でも、もし荷物を書庫の方に移すなら

 手伝うけど、どうする?明日の朝でもいいぜ。」


「今日のうちに運んでおきたいです。」


 別な部屋でもいいから、

 今日は少しでも北斗の近くにいたかった。


 ありす達と分かれ、一般居住区へ向かう。

 そして荷物ごとまた図書館の居住区に戻ってきた。


 お風呂に入って、大人しくベッドに潜る。

 今日はもう、何かをする気力などない。


 ベッドの中で初仕事の手紙の封書を眺める。

 疲れてクタクタなのに全く眠れない。

 喉元に苦しみと悲しみと、

 やるせなさがせりあがってきて痛かった。

 やがてその痛みは涙に変わる。


 声を殺して泣き震えるしかなかった。


 どれくらいかそうして泣き明かし、

 力なくベッドから出て、

 ふらりと、北斗の部屋の前で立ち止まる。


 ノックしようか迷っていたら、

 勝手に扉が開いた。


「眠れないのか?」


「どうして、私だって、分かったんですか?」


 彼の顔を見たら、また泣きそうになった。


「そりゃあ分かるよ。……神だからな。」


 いつもと違って、気遣うように言う。


「そう、ですか……。」


「まあ、入れ。ココアでいいか?」


「ありがとうございます………。」


 促されて静かにソファに座る。


「熱いから気をつけろ。」


「ありがとうございます。」


 よくさましてから、そっと口に運ぶ。

 泣き疲れた体に甘さが染みていく。


「大丈夫だ。」


 しばらくの沈黙の後で北斗が口を開いた。


「お前なら大丈夫だから。それに俺もいる。

 だから恐れなくていい。

 受け入れて進んでいこう。一緒に。な、相棒。」


「っ。………は、……い……。」


 北斗の言葉がすっと心に溶けて広がる。

 根拠も確信もないけれど、

 彼と一緒なら大丈夫な気がした。


「じゃあ、おやすみ。」


「おやすみなさい。」


 しばらくして、玲がやっと眠り落ちる頃には

 もう夜は明け始めていた。


こうして夜は明けてゆく。

少女の運命の日まであと二日。

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