12話 仲間
翌日。
玲の部屋に荷物が届いた。結構大きな段ボールだ。
差出人を見ると北斗の名前が入っていた。
「なんだろう、これ?」
昨日は荷物を送っておくなんて言われなかった。
疑問に思いながら段ボールを開けてみる。
「これって――――。」
中身はドレスだった。
昨日家族への贈り物を買ったあの店にあった
『星の砂のドレス』だ。一緒に入っていた
メッセージカードには『宜しく。相棒。』
とだけ書いてあった。
突然のことに驚いて、北斗の優しさが嬉しくて、
胸が温かくなった。
早速、袖を通して見れば仕立てはぴったりだ。
流石は生まれた時からの守護役と言うべきか。
おかしなところがないか何度も姿見でチェック
する。
着替えが終わると、ちょうど北斗が迎えに来て
いた。
「北斗さん、あの、これ。ありがとうございます!」
玲は深々と頭を下げる。
「嗚呼、届いたか。」
「はい。―――あ、北斗さんの服。」
「俺も新調したんだ。相棒だからな。
統一感あって良いだろ?」
白を基調とした生地の服。
デザインは以前とあまり変わっていないが、
ジャケットの襟の折り返し部分や袖口、
スラックスの裾の部分には
濃紺の星の砂の生地があしらわれている。
お揃い衣装だ。
「よし、じゃあ行くか。」
「はい!」
そして、お揃いの二人は出発する。
「今日はどこに行くんですか?」
「こっちの世界に召された魂が、
また人の世界に戻ってくるまでを順番に見ていく。
本来であれば、この段階でこの町の全部の職業を
見てから、自分のつく場所を決める。
一応説明しておくと、死神の世界には、
大きく分けて、三つの種類の仕事がある。
一つ目は、人間界のバランスをとるための仕事。
ユウトやナツキさんがそれにあたる。
二つ目が俺たちの生活を営むための仕事。
昨日見た、市場とか天界の環境整備のための
仕事がそれにあたる。
三つ目が亡くなった人の魂を迎え入れて
再び人として送り出す仕事。
俺たちがこれからつく仕事であり、
今から見に行くものだ。
これが終わったらお前の最初の仕事が
発表される。」
「でも、私まだ人間ですよ?」
寿命は今日を含めてあと三日あるはずだ。
「勿論そうだ。でも死神は、こっちに上がることが決まって
実際に見学して、ここのものを口にした時点で
一番最初の仕事ができるようになる。」
「そうなんですか?」
「まず、余命七日の宣告を受けても、
それを受け入れられずに拒んでいたら、
死神として生きることはできない。
次に、この世界に来て、実際に見て触れて
受け入れられなかったら、
この世界のものを食べた時点で、
強制的に現世に引き戻されて失格になる。
最終的にここで生きていく覚悟が
出来たものだけが、
この世界のものを食べてここで生きていけるんだ。
そのタイミングで初仕事を行う。
それが出来たら立派な死神ってことだ。」
「なるほど。昨日のご飯って
ナチュラルに試験になってたんですね。」
「そういうこと。」
「それで、初仕事は何をするんですか?」
「それは、守護役からは伝えられない。
今日の見学が終わってから、担当してるものが
伝える。」
「………分かりました。」
少し北斗の雰囲気が固くなった。
不安を覚えたが、教えられないものは仕方がない。
進んでいくと大きな教会のような建物に着いた。
北斗の後に続いて中に入る。
まず最初は大量の書類を仕分けている者たちが
いた。
「まずここが回収役の者たちがいるところだ。
これから死期を迎える者たちの資料がまとめられて
いる。」
整理された書類をもって回収に向かう者たちもいた。
「ザ・書類仕事って感じですね。」
現代で言うところの市役所に近い感じだった。
「で、次が召されてきた人たちが最初に向かう場所、
慰安室だ。ここでまず現世の疲れを癒す。
ここにいるのが看護役の者たちだ。」
「わあ、魂って人の姿してるんですか?」
慰安室は温泉のようになっていた。
そして恐らく亡くなった時の年齢のままで
入浴している。普通に温泉に入ってるようにしか見えない。
「嗚呼、基本的にこっちでは魂だけの人も、
人の形をとっている。」
「へえ、そうなんですね……」
そこには玲の知らない世界が広がっていた。
「風呂で体を癒したら次は安眠室で眠る。
ここにいるのが守り役だ。」
次の部屋はカプセルホテルのようになっていて、
中で人が眠っていた。
「なんか普通に生活してるみたいですね。」
魂たちが生きている人と同じ姿なので、
現世と同じ世界のような気がしてきた。
「ここで眠ることによって高校生くらいまで
若返る。」
「若返るんですか!?」
世の奥様は是非とも来たがるかもしれない。
天界は何でもアリなんだろうか。
「安眠室で若返ったら、次はその若々しい体で修行に
励む。
ここが修行エリアだ。ここにいる者たちは教え手と
呼ばれる。」
屋外の広く開けたこの場所では、滝行や精神統一、
他にもテニスやバスケをしている者もいる。
学校の部活動に近いかもしれない。
「なるほど、修行の為に若返ったんですね。」
ご老体に修行は確かに無理がある。
屋内では教室で授業もやっていた。
「授業もあるんですか?
現世に行ってからも成長したら、
学校に通うのに。」
「あれは、今までの生き方を改めて振り返って
いるんだ。
その上で、自分が背負った業を理解し、
次の人生に生かす。倫理をただすものだな。」
「いろんなことするんですね。」
「そうだな。晴れて修行が終わると修了して、
現世に帰る。こういう流れだ。」
「何となくわかりました。
でも、導き手の仕事がまだ出てきてないです。」
自分の職場が見当たらない。
「俺たちの職場はここじゃない建物なんだ。
次はそっちに連れて行く。」
「はい。」
連れられるままに北斗の後に続いて暫く歩く。
町からどんどん離れていく。
美しい街並みを振り向きつつ眺めながら、
より澄んだ空気と共に進んだ先は森の中だった。
開拓はされているようで、
整備された道なりに進むと、
大きな時計塔が見えた。
「ここだよ。」
「だいぶ、離れてるんですね………。」
少し上がった息を整えながら玲が言う。
「まあな。中、入るぞ。」
対する北斗は、息一つ乱さず涼しい顔で答えた。
「あ、は、はい。」
玲はまだ整い切らない息のまま、
慌てて北斗の後を追う。
一歩、踏み入れて中に入ると、
そこは別世界だった。
壁一面、三百六十度、床から天井まで本棚に
なっていて、びっしりと本が収められていた。
建物自体は吹き抜けになっており、
部屋の中央には、
中心に大きな柱の通った虹色の光を放つ螺旋階段。
その階段を取り巻くように広いカウンターが
据え付けてある。
虹の階段を中心にしたこの時計塔は、
外の澄んだ空気とはまた違った
神聖さすら感じられた。
勿論、壁以外にも本棚は設置されているが、
不思議と圧迫感は感じない。
恐らく螺旋階段を中心に
ロビーが広く設けられているためだろう。
「ここは?」
「大図書館だ。今までの人類の進化の歴史や、
人間の記憶全てが収められている。」
膨大な人類史の塊だった。
「地球の歴史そのものってことですか………。
これ一体、何階まであるんですか?」
見上げると、遥か上の天井はステンドグラスに
なっているらしいことが微かに分かる。
ガラスを通して彩られた光がここまで
降り注いでいる。
「今は六百六十三階だな。
歴史と共にまた増えていく。」
「途方もないですね………。」
膨大すぎて想像もつかない。
「で、俺たちの職場はこのロビースペース。
どうしても、現世に未練を残してしまった人を
回収役の者たちが連れてくる。
ここで俺たちはその人の話を聞き、
プランを立てて最後の願いを叶える旅をする。
場合によっては人間界に直接迎えに行くことも
ある。」
「直接ってことは、人間界に降りられるんですか?
最初の仕事は人間界ではできないって
言ってませんでしたっけ?」
以前、北斗から聞いた話では、
ユウトやナツキのような人間界での仕事は死後、
百二十年以上たたないとできないと聞いていた。
「人間界に降りると言っても、
この仕事は人間に認識されるものじゃない。
あくまで霊体として魂たちに対して活動するから、
結局、幽霊と一緒だ。
ユウトやナツキは人間に見える形で
人間として仕事してるだろ?あれとはまた別物。」
「あ、なるほど。普通の人には見えない形で
人間界でお仕事するんですね。」
「嗚呼。そうだ。」
「そういえば、ここは、誰もいないんですか?」
他の場所にはたくさん人がいたのに
ここには誰もいない。
「導き手は俺が玲の守護役を引き受けた時点で、
一組しかいなかった。
今日は予定が入っていないから休みだろう。
気になるなら会いに行くか?
ここが二階で一階が住居空間になってる。」
「ここに住んでるんですか?」
「そう。導き手を仕事にするものは、
この塔の一階が居住区域になる。」
「ここが一階じゃないんですか?」
「玄関あるから一階に見えるけど、実は二階だ。
導き手の奴らが使う下の玄関は別にある。
さっき行った教会の職員は町に住んでるけど、
ここからだと結構距離があって大変だから
導き手は皆ここに住んでる。」
「確かに結構、遠かったですね。
でも、そうなると昨日までのあの部屋は?」
あそこは一般の居住区域だった。
「あれは仮の家だからな。
もう一回運ぶことになる。」
「やっぱりそうなんですね。」
「ちなみに、別な居住区域に行きたいときには、
居住区のさらに下にある、
地下鉄を使って移動することもできる。」
「ほえー。色々便利なんですね。」
楽ちんである。
「大体はこんな感じだな。
じゃあ、先輩の所に行ってみるか。」
「はい!」
エレベーターで地下に降りる。
地下に着くと廊下を挟んで扉が二つずつ
向かい合っている。
北斗はそのうちの一つの扉ををノックする。
「圭吾、いるか?」
開いた扉の向こうから優しい笑顔の男が
出迎えてくれた。
「おお、久しぶりだね、北斗。
君が戻ったってことはもしかして――。」
「そう。紹介するよ。俺が守護役を務めてる
青木玲だ。
こっちに来たら導き手になる予定だから、
先輩たちに挨拶をと思ってな。」
「初めまして青木玲です。」
「礼儀正しいお嬢さんだね。残りの寿命は?」
「今日を入れてあと三日。
天界の見学は二日目になります。」
「もうすぐ初仕事ってことだね。さあ、入って。」
「お邪魔します。」
部屋に入るともう一人。
金髪のツインテール少女が寛いでいた。
「お、新しい子?かわいいーー!
私はルミ。宜しく!」
明るい笑顔で迎えてくれる。
白いジャケットに短めのチェックの
プリーツスカート、ゴールドのベルト。
ジャケットの中には赤いカーディガン。
ちょうど高校の制服のような服装だ。
一方の圭吾は金髪で少し癖のあるふわっとした髪。
優しい眼もとの奥には、
少しいたずらっ子な印象が見え隠れしている。
赤いトップスに黒のスラックス。
白くて丈の長い上着は白衣のように見えて、
二人並ぶと、さながら保険医と女子高生に見える。
どちらの服にも共通してゴールドの刺繍が
してあった。
「そういう服もあるんですね。」
街で見かけたのはドレスが多かったこともあり
新鮮に見えた。
「あ、この服?
生前に来てた制服がすごく気に入ってたから、
それをベースにして作ってもらったの。
その学校はいるのに結構頑張ったし。
あんまり年取らないならずっと制服着てても
違和感ないかと思って。どう、似合う?」
「はい。とても!」
素直に良く似合っていると思う。
「良かった。ありがとう。」
その笑顔は嬉しそうで、少し寂しそうだった。
高校時代を懐かしんでいるのかもしれない。
彼女にとっては、この制服が生前の思い出
そのものなのだ。
「改めて紹介する。こっちの温厚そうなのが圭吾。
俺が守護役に付く前は一緒に組んで仕事してた。
で、そっちの金髪JKっぽいのが、ルミ。
俺がここを抜けるタイミングで天界に上がってきて
圭吾と組んでる。
てか、お前らはまたオセロやってんのか。」
テーブルの上にはオセロが広げられている。
戦況は黒が圧勝していた。
「圭吾が全然手加減してくれなくて。」
どうやらルミが白らしい。
「ルミが弱すぎなの。」
「何よ!女の子に少しは勝ちを譲るってことを
しても良いんじゃないの?この馬鹿ケイゴ!」
むきになってヒートアップしている。
「はあ、はいはい。僕の負けだよ。
ルミの勝ちだ。駒の少ない人の勝ち。」
「何よその態度は!」
「じゃあ、どうすればいいの……。」
もはや収集のつけ方がわからない。
「ふふっ。」
「ほら、二人そろって玲に笑われてるぞー。」
テンポの良い二人のやり取りが楽しかった。
「なによもうっ。」
「ごめんなさい。でも、可愛らしくて、つい。
あんまり怒らないでください。」
「ほら、少しは落ち着きなよ。
で、見学は終わったの?」
「嗚呼。ここで最後だよ。
あとは初仕事を受け取りに行くだけだ。
玲、次は中央にあったタワーに向かう。」
「了解です。」
「そっか。じゃあ、また会おう。
二人で待ってるよ。」
「またね、玲。今度は一緒に街で遊びましょ!」
「はい。是非!」
二人は居住区を後にしてタワーに向かう。




