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死神と小説家  作者: おとなり かな
12/22

11話 君と共に

翌日。


ナツキを見送って、玲と北斗は寮に戻ってきた。


「さて、今日はいよいよ引っ越しだな。」


「はい。でも、どうやって運ぶんですか?」


「今から馬車を呼ぶ。

 家具も荷物も全部積んで天界の部屋まで運ぶ。」


「馬車!豪華ですね!」


 まるでお伽噺だ。


「さて、荷物はここにあるので全部か?」


「はい。」


「じゃあ、まとめるから一回部屋出て。」


「どうするんですか?」


「こうするんです。」


 北斗が部屋の入口に立って指をパチンと鳴らした。

 すると部屋全体が透明なアクリルケースに包まれ

 そのまま小さくなる。


 ベッドの四分の一くらいの大きさのアクリルケースに

 家具たちが部屋のレイアウトそのままに収まっていた。


「おお、ミニチュアみたい!」


「よし、これを馬車に積んだら出発だ。」


 北斗はケースを抱えて外に出る。


 玲が後を追うと、

 寮の前には大きな馬車が止まっていた。


「すごーい!ほんものっ!」


「行こうか。」


 先に馬車に乗っていた北斗が中から手を差し伸べた。


「はい!」


 玲がその手を取って馬車に乗り込む。

 そして、二人を乗せた馬車は天へと駆ける。

 晴れた空に虹を架けながら。




○天界にて○


 馬車に乗って着いた先の町並みは、

 全く別なものだった。建物はレンガや石造り。

 地面は土か石畳でできている場所が多い。

 中世のヨーロッパの雰囲気に近いだろうか。

 玲の知っている風景はそこにはない。

 全体的に自然が多く、あっち側よりも明るく感じた。


「ここが天界………。」


 まさしく天国と呼べるような、そんな景色だった。

 馬車が建物の前に止まり、

 その一室に荷物を置いて、また外に出る。


「それじゃあまずは、飯だな。

 こっちのものを少しでも食べて体を慣れさせる

 必要がある。

 取り敢えず、俺の行きつけに連れて行こう。」


「お願いします。」


 周りを見渡しながら北斗の後ろをついていく。

 本当に別世界だ。

 人口は現世よりも少ないように感じる。


 北斗がある店の前で立ち止まる。

 どうやらこの店に入るようだ。


 席に案内されメニューを見る。

 雰囲気がヨーロッパなので

 英語が出てくるかと思ったが

 普通に読むことが出来た。


 よく周りの声を聴くと

 会話の内容も理解できる。

 言語に苦労はしなさそうだ。


「どうかしたのか?」


「いえ、なんか海外みたいな雰囲気なので

 もしかしたら、言葉が通じなかったり

 するのかなって思って。」


「それなら心配ない。

 死神同士なら、どこの国の奴とでも話は通じるし

 文字も読める。

 こっちには国境もないし言語も統一されてる。

 まあ言うなら死神語だな。だから安心して良い。」


「そうなんですね。」


 取り敢えず生活できそうだ。

 注文したミートソースパスタが運ばれて来る。

 食べ物もあまり変わらないようだ。



「あ、お会計。」


 料理を美味しく頂いて、会計時に思い出す。

 財布は部屋に置いて来ているが、

 こちらでは通貨が違うと教えられていた。

 確かポイント制だったはず。


「北斗さん、お会計ってどうすればいいんですか?」


「嗚呼。腕につけてるブレスレットが財布の代わり。

 かざすと会計できるよ。」


 右腕に薄いブルーのブレスレットがはめられている。

 全く気が付かなかった。


「いつのまに………。」


「こっちに来た時に自動でもらうんだよ。

 デザインは他にも色々ある。」


 ブレスレッドをかざすとコマンドが出てきて

 今の残金と支払った後の残金が表示される。

 とても近未来的である。会計を済ませて店を出る。


「さて、今日は、こっちに慣れるための一日だ。

 思う存分観光できるぞ。まずはどうする?」


「じゃあ、まずは。

 家族へのお土産を買いに行きたいです。」


「オーケー。市場はこっちだ。」


 北斗が連れてきてくれた場所には

 小さな可愛らしい店がたくさん並んでいた。

 小物は勿論、衣服やドレスも充実している。

 特にドレスには装飾が細かく丁寧に施されている。

 見ているだけで一日が過ぎてしまいそうだ。


 通りから、店で服の刺繍をしているのが見えた。

 まるでお人形のような少女が、

 お人形の着るような服を作っている。

 あんな一日も素敵だと思う。


「北斗さん。前に、ここでしか買えないものが

 あるって言ってたのはどんなものですか?」


「そうだなぁ。まず服は全部そうだな。

 人間界のものとは繊維が違う。

 太陽、星、月、雲、からできた繊維を染色して使う。

 それぞれ染め方も違って職人が繊維から手作りする。

 あとは、星の砂だな。」


「星の砂?」


「そう。人間界の空に直接つながる場所がある。

 そこで夜に取れる星の光を映した砂があるんだ。

 気になるなら見に行ってみるか?」


「是非!」


 二人は市場を少し離れる。

 少し奥まったところに、小さなお店があった。

 中に入ると天井に夜空が広がっている。

 プラネタリウムのようだった。


「すみません。

 星の砂を使ったものを見せて頂きたいんですが。」


 北斗が代わりに店主に声をかけてくれた。


「いらっしゃいませ。贈り物ですか?」


「はい。家族に贈りたくて。」


「あら、新しい子ね。歓迎するわ。

 好きなだけ見て行ってちょうだい。」


 対応してくれたのは、長い黒髪がよく似合う

 物腰の柔らかい女性だった。

 思わず見とれてしまう美しさでる。


 星の砂でできた品は結構種類があるようだ。

 装飾品を中心に小物は勿論、

 繊維に星の砂を編み込んだ

 バッグやドレスもあった。


 色々見て、猫をかたどった飾りのついたペンダントを

 母に。

 同じデザインのタイピンを父に贈ることに決めた。

 祖母には細身のブレスレッドを選んだ。


 少し値が張ったが、家族に贈る最後のプレゼントだ。

 出し惜しみはしたくない。


 会計を終えて、帰り際に星の砂をちりばめたドレスが

 目に入った。

 ドレスと言っても、ごてごてしていない

 シンプルなものだ。


 トップスの白とスカート部分の

 夜空のような濃紺がとても美しい。

 トップスの部分にも

 わずかにきらめきが乗せらていて光沢がある。


「ちょっと今は無理かな………。」


 気になって値札を見ると、そんな音が口から漏れた。

 とても今の財政状況では手の届かない代物だ。

 また出直してくるとしよう。


「あの、北斗さん。」


「どうした?」


「この町が一望できる場所ってありますか?」


また町を歩きながら訪ねる。


「丘の上からなら、見えるかな。

 少し時間がかかるから

 夕方になると思うが、大丈夫か?」


「はい。問題ないです。」


 自分がこれから生きていく世界を見ておきたい。


 二人は町をさらに離れて丘を目指す。

 午後くらいから目指して、

 着いた頃には夕日で町が染まっていた。

 そよぐ風が心地よい。


 玲はデジカメを取り出して、

 そっとシャッターを切った。


「素敵な世界ですね………。」


「嗚呼、そうだな。」


(私はこれから、ここで生きていくんだ。)


 少女はそう決意を新たにした。


 それから部屋に着いた頃には、

 もうすっかり暗くなってしまった。

 まだ荷物を全く解いてない。

 ベッドや机など大きな家具は出したまま

 移動できたのが幸いだった。


「北斗さんは導き手だったんですよね?」


 段ボールの荷解きをしながら聞いてみる。


「お前、なんでそれを知ってるんだ?」


「ユウトさんに聞いたんですよ。」


「またあいつは余計なことを……。」


「すみません、勝手に探るような事して。」


「別に隠してたわけじゃないから問題ない。」


「北斗さんが私が生まれる前までは

 どんなことしてたのか気になって、

 ちょうどユウトさんと一緒にいたから

 聞いてみたんです。」


「そうかい。まあ、そうだな………

 毎日、旅に出てる感じだ。

 迷ってる奴らは皆、現世に未練を持ってることが多い。

 だから、その人と一緒に現世に降りて、

 一日だけその願いを叶えるために手を貸すんだ。

 勿論プランも綿密に組んで

 時間を無駄にしないように配慮する。


 たまに、亡くなった家族に会いたいとか、

 ご先祖様に会ってみたいとかって

 願いが飛んでくると、少し時間をさかのぼって

 会いに行ったりするときもある。」


「タイムスリップもするんですか?

 歴史変わったりしません?」


 タイムパラドックスという奴だ。


「過去に飛びたいって願ったときは、

 姿が見えないようになってる。

 俺たちが出来るのは、

 その世界をただ見ることだけ。

 過去の世界に干渉することは

 できないようになっている。」


「なるほど。」


「でも、ただ一目見たいって、

 声が届かなくても良いから会いたいって願って

 タイムスリップまでするんだ。

 人間の思いって、真っすぐで、頑固で、健気だって思うよ。

 まあ、なんだかんだ言って、楽しかったな。」


「………人間って凄いんですね。

 北斗さんはまた導き手に戻るんですか?」


「組むやつがいたらな。」


「組むやつ?」


「そう。導き手は二人で一組なんだ。

 結構やること多くて重労働だからな。」


「そうなんですか………。」


 なんだろうか。この感じ。

 今、言わないと、伝えないといけない気がした。


「ねえ、北斗さん。

 ―――私と組んで導き手、やりませんか?」


 言った。言ってしまった。


「俺と一緒に……か?」


「だめ、ですか………?」


 玲が不安そうに見つめる。

 断られるかもしれない―――。

 そんな声が聞こえてきそうだ。


「ほんとにやるのか?」


 北斗はしゃがみ込んで、

 座った玲に真っすぐ問いかける。


「やります。」


 玲は強いまなざしで、はっきりと答えた。


「じゃあ、契約成立だな。」


 北斗が右手を差し出した。


「はい。」


 その手を玲がそっと、とって握手を交わす。

 二人は二度目となる契約成立の握手を交わした。


「さて、じゃあ、荷解きもだいたい終わったし、

 そろそろ寝るか。俺は自分の部屋に戻るから。

 お前も早く寝ろよ。」


「はい。おやすみなさい。」


「おやすみ、玲。」


 玲は部屋の明かりを落として眠りについた。


 そしてまた夜が更ける。

 少女の運命の日まであと四日。

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