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死神と小説家  作者: おとなり かな
1/22

0話 プロローグ

 それは急にやってきた。

 なんとなく感じてはいたけれど。

 それでも、ちょっと早すぎた。





 四月二日。桜舞う木の上に少女が一人。


 一昨日、無事に高校の卒業式を終えた

 青木玲がぼんやりと座っている。


 少し癖のある青髪のボブヘアに、

 三つ編みでカチューシャを作り、

 黒いリボンで止めた少女。


 その手には、今を時めくスーパーアイドル

 黒崎ユウトのライブチケット。

 千倍の競争率の中で勝ち取った

 激レアの一枚である。


「もうすぐ……会えるんだね。」


 チケットを見つめて、笑顔の玲。

 春風で桜がそよぐ。

 その風は彼女の手からチケットを

 そっと掠め取った。


「あっ。ちょ、ちょっと待って……っ。」


 反射的に立ち上がる。

 身を乗り出してギリギリの所でチケットを掴んだ。


「よしっ。」


 そこで彼女は気づいた。自分の足場がないことに。

 そう。彼女がいたのは木の上。

 身を乗り出した拍子に足を踏み外したのだ。


(うそ、落ちるぅうううう)


 玲は思わず目を閉じる。

 だが予想していた衝撃は訪れない。


「全く。貴重な存在なんだから、

 もうちょっと自覚持てよな。」


 恐る恐る目を開くと、

 見知らぬ男に受け止められていた。


(……綺麗な顔………)


 素直にそう思った。

 長い黒髪を低めに後ろで束ね、

 眼鏡をかけた目つきの鋭い青年。


 冷たく几帳面な印象を感じさせるが、

 まごうことなき美青年だった。


「固まってるけど、大丈夫か?

 ほら、おろすぞ。」


 美しさに見惚れていた玲は、

 男の言葉でようやく我に返る。


「あ、ありがとう……ございます……。」


 まだ、整理のつかない思考の中で

 なんとか謝辞を述べる。


 この高さから落ちたら

 怪我を負っていたかもしれない。


「どういたしまして。怪我はないか?」


「はい、大丈夫です。」


 男は冷たく感じる外見に反して、

 柔らかい言葉で玲を気遣った。


(なんか意外……

 もうちょっとキツい感じの人かと思った。)


 人は見かけによらないとはよく言うものだ。


「なんだ?

 俺のことお堅い神経質野郎とでも思ったか?

 俺をそういう連中と一緒にすんなよ。

 そういうのは息が詰まって苦手なんだ。」


 男は、やや不機嫌そうに苦言を呈し、

 うんざりとため息を漏らす。


「え?いま私、口に出して……」


「ない。」


 玲の言葉に付け足すように男が答える。


「じゃあ、なんで分かったんですか?」


 これでは自分がそう思っていましたと

 教えたも同然である。


「なんでってそりゃあ分かるさ。

 一応これでも神様やってるからな。」


「か、かみさま………??」


 一瞬、時間が止まった気がした。


 男はあっけに取られた玲を気にせずさらに続ける。


「そう。神様。って言っても色々あって。

 俺はその中でも死神ってやつだ。

 名前は北斗。宜しく。」


 自称死神に挨拶された。


「ど、どうも……」


 困惑しつつ返答を返した玲に死神は告げる。


「挨拶ついでに教えてやろう。青木玲。

 お前の寿命はあと七日。

 悔いの無いように生きると良い。」


 それは【挨拶ついで】の言葉の通り、

 友達がおはようっていうくらいのノリだった。



「え?」



 桜の木の下で停止する死神と少女。

 その周りでは桜が風に舞う、舞う、舞う。



 それは急にやってきた。

 なんとなく感じてはいたけれど。

 それでも、ちょっと早すぎた。



 これは人が死を受け入れるための物語だ。

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