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雨が降る  作者: すいかずら
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息もできないほどの雨に遭遇したことはありますか。

ごく普通の住宅地を歩いていた。

広くも狭くもない一本道だ。癖で、いつも通り反対車線にある道を歩く。いい加減直しなさいと、よく、母に叱られていた。

…母の顔が思い出せない。

 歩いている人は誰もいない。私しかいない。朝なのか夜なのかわからないが辺りは少し暗い。ひたすら歩く。身体は走れるのにまるで、この先に向かいたくないような気持ちが尾を引いてうまく歩けない。


 この一本道を3分歩き、右に曲がって2分歩けば家がある。大体住宅街へ入る道から約5分で着く。すぐ近くに公園があるから、休日はそこへ遊びに行って友達と砂の城を作っていたりしたっけ。

今、私は十三歳なので流石に砂だらけになって遊べる年頃ではなくなったが。あの頃は何も考えなくて良かった。

 私は6人家族だ。父、母、姉、兄、私、妹がいる。昔は家族皆で一緒に買い物に出かけたり、家ではギャグ大会などをして皆で大笑いしていた。だけど一番上の姉が大学生になると、家族全員で団欒する時間はほとんどなくなった。そりゃ、彼氏ができたら遊べなくなるのも当然だが…何か悲しくなった。

 父も母もその気持ちは同じらしく、少し寂しそうにしていた。気を紛らわすために私と兄が渾身のギャグを言って家族を笑わせていた。あの頃も、楽しかったな。


 今年、兄が大学に合格した。姉は独り立ちをして、隣町の大手企業に勤めた。私はというと、特に何も決められず、先もわからずただ徐々に減っていく家族をぼんやりと眺めていた。

…家族の顔にモヤがかかっている。

みんなの名前、なんだっけ…

 今日も、ただぶらぶらと近所で暇つぶしをしていた。いつからあるのかわからない駄菓子屋さんのおばあちゃんの話し相手になったり、近所の子と裏山まで競争したり、隠れんぼをした。

夕日が陰ってきたので、帰ろうと、標識にのしかかっている大きな松が目印のT字路で解散して家に帰る途中なのだが、もう少しで右に曲がる道が見えるはず…

そういえば、今時間は夕日が山の間から見えるはずなのだが、後ろを振り返っても夕日が見えない。




おかしいな、と少し焦りふと、上を見ると頭上に黒い雲がある。3人分の大きさの、黒い雲だ。いつからあるのか、なぜ頭上にしかないのかはわからない。周りはきれいな夕焼けに染まった空なのに、なぜ私の頭上だけ黒い雲があるのだろう。

 ぽつ、ぽつと雨が落ちてきた。思わず立ち止まり、雲を見た。相変わらず黒い以外は何もない。

 どんどん雨は強くなる。周りは鮮やかな夕焼け。

頭上だけ、雨が降っている。なぜ、と思うまもなく土砂降りの雨が降ってきた。まさか雨が降るなんて、傘なんて持ってない!だって…だって今日は晴天なのに。どんどん雨は強くなる。慌てて家への道のりを駆け出し、右に曲がった。すると、息もできなくなりそうな強さの雨は止み、雲は頭上から消え去った。


なんだったんだろう。全身はびしょびしょだし、お気に入りのカバンなんて水が滴っている。水も滴るいいカバン…なんて、自分でも何言ってるのかよくわからなかった。聞かなかったことにしてほしい。


やっと家に帰れる…と、前を見ると

 先ほど近所の子と別れた大きな松のあるT字路の風景が目の前に広がっていた。


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