扉を開き神(絵師)を求め旅立つ
前回のあらすじ:
作家先生が執筆していると同じマンションに住むJKがやってきてレモンティー出した。
ごくごくごくごく。
投稿小説のレビューをしていると完結した作品を書籍化したいと頼まれる。
「さて、では早速書籍化するか」
「!?」
手早くWEB投稿サイトの作品をテキストに落とし込む。
使うツールは【でんでんコンバーター】である。
テキストを縦書きepub3形式に変換し電子書籍にする事ができる。
仕様上10万文字上限、と説明にはあるが[問題が発生する可能性がある]
だけであってシステム的に受け付けてくれない訳ではない。
「ほい、出来たぞ」
「秒で出来た! 神」
百聞は一見にしかず、出来上がった電子書籍をepubビューアー(KindlePreviewer)に読み込ませる。
モードは……まあありがちなiphoneにしておこう。
全てお膳立てしてやった上で、見せてやる。
宝物を与えられたような満面の笑みで読み始めるが、困り眉になっていく。
さもありなん、だいたいこうなる。
「……!? ……な、なんか思ってたのと違うんだけど」
「まあそうだろうな、WEB小説は横書きだし。
投稿サイトのルビとかも変換しないと正しく表示されなくなる」
「変換のやり方を教えてよ」
「手動だ」
「」
厳密に言えばルビや強調文字で使われる記号をでんでんコンバーター仕様に逐次置換すればいい。
二重山括弧を波括弧にする{波括弧|ナミカッコ}という具合に。
だが投稿サイトによってはルビの配置や決まりごとがことなりうまく行かないときもある。
文字装飾を多用している、長期連載しているでもなければ手動で確認しながら変換したほうが間違いがない。
「ぐぐぐぐ……お、終わったよー」
「よし、じゃ次は表示チェックだな。
epubビュアーと投稿サイトをこう並べて、違和感のある所を修正するんだ」
元々文章を書き慣れしている人はそうでもないが、素人作品では使ってる投稿サイトによって【文章配置表現】が大きくことなる。
大抵は一行三十文字あたりを目安に執筆すると思うが、長文になった場合横書きと縦書きでは見え方が大きくことなり、epubでは表示媒体によって改頁・改行位置がずれ込む。
不可抗力な場合も多いが言い換え等で想定外の改行をしないよう詰めたほうが無難であ
る。
「もう! やめてよ///」「こまったものだ;」
等の日本人独特の記号表現なども縦書きになると残念な事になる。
顔文字等を混ぜていれば「\(^o^)/オテアゲ」目もあてられない。
「腹減ったな……サトリは帰って夕飯食べなくていいのか?」
「ママゲームに浸りたいからって千円もらってる、なんか作ってよ」
佐藤さんの奥さん……家事計画にうちの事情を組み込んでないか?
こんなパターンが続いているから食材を多めに買ってる私も私だが。
男料理でブーイングを食らうものしゃくだ。
鶏肉の炙りチーズがけ、きのこと香草のアヒージョ、パスタあたりでごまかす。
「なにこれ、うちの食事より豪華なんだけど」
「そんな事ないだろ、鶏は焼くだけ、アヒージョとパスタは煮るだけだし」
材料さえ揃えばインスタント食品に毛が生えた程度の調理要素しかない。
アヒージョの具に、きのこはエリンギとマッシュルーム一袋ずつ。
にんにくと大葉を刻んで油漬けシーチキンをひと缶まるごとぶち込む。
あとは塩で適当に味つけてオリーブ油で煮込むだけ。
最近は油漬けシーチキンもスーパーから消えたな……。
ライト系の水漬けツナは旨味もクソもあったもんじゃねえ。
「見てよ! この美しく清書された作品を!」
「まあまあだな、こだわったらきりがないからこんなところだろう」
自分の書いた作品が、買った本みたいになっていく。
この醍醐味は自己制作ならではだろう。
だが実際に販売に乗せるとなると、やっとスタート地点に立てたようなものだ。
これからは執筆創作とは関係ないステップに入っていく。
「表紙はどうする?」
「へ?」
「売り物なら表紙が必要だろ、扉ページは表紙じゃないぞ」
「どうすればいいの?」
「作るか作ってもらうかになるが。
簡単なのでよければ私が作ってやるぞ」
フリーの画像サイトから作品のイメージにあった森の画像を使う。
画像合成サイトで文字合成をして出来上がりっと。
「完成、どうだ?」
「……ダサい」
「だろうな、じゃあどうする?
ダサくない絵を付けたければ絵師に依頼するとかになるが有料になるぞ」
「い、いくらくらい?」
「人による、強気の価格設定の人もいれば修行価格の人もいるが相場は万単位かな」
「そういえばツイッターのフォロアーで絵のうまい人いたなあ。
ただでやってもらえるかも?」
「どんな人かわからないが、その人は駄目だ」
「なんでよ!」
絵師と依頼者の奇妙な関係についてネットに氾濫するイラスト依頼のトラブルの数々を見せ小一時間説明する。
絵師はエスパーでも神様でもない。
Pixivにアップしてる絵などは絵師の得意アングル、好きなタイプのキャラで最高パフォーマンスを叩き出していること、他人のイメージを精細に読み取り期待以上の作品を生み出す事は不可能な事を説明する。
絶対的に存在するその溝を埋めるのが依頼料だ。
[いい仕事]をしてもらうには先立つ物がなければならない。
タダの仕事はイメージと完全に異なるものでも文句は言えない、手直し等以ての外なのだ。
Pixivにいる神絵師達は基本的に趣味人だ。
依頼を受け付ける態勢の人を探すなら専用のサイトで探すべきだろう。
お仕事受付サイトはいくつもある、気に入った絵と費用を参考に候補を選ばせる。
「この人どうかな? 絵うまいしお値段もそれなりに安くない?」
「む、確かに玄人並み……てか漫画家って書いてあるな。
youtube漫画動画とか経験あるのか」
「この人の絵すき! この人に依頼しよ?」
こうして、作品の表紙・挿絵の依頼先が決定した。
好ましい絵の作者であればあるほど、イメージの齟齬を修正してもらう苦しみが大きい。
絵師との交渉バトルが今、始まる。




