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第四話 天国と地獄

 

 この世界――【聖龍界ドラゴニア】は、天龍シェラ=クレアーレと地龍テラ=クレアーレが天地を創造し、その子ら五体の龍・灼炎龍フィア=ボルチア、大海龍マリ=ディナクア、樹葉龍エリ=フォカルブ、煌光龍シン=ティルーシュ、冥闇龍ヴィオ=オスクルが各々火、水、木、光、闇の五属性を司ることで成立したのであった。


 彼――鈴木良正はそんな世界の平和主義国ダイアスに、


「国を窮地から救い、大陸の安寧秩序を守る」


 ため異世界召喚されたのだった。


 ✣


 話題をミスリルの話の長さから戻し、良正の有している力の件だが、彼は『こと』という魔力に相当するものの適性が並の人間と較べ極めて高いらしい。


 言の波とは、ダイアス独自の魔力に代わるエネルギーを担うものであり、武力ではなく言葉によって問題解決をさせるためにと生み出された。


 ヨゼフが世に元来あった魔力を、彼の【特殊能力スキル】によって還元することで生まれ、それをきっかけに国中で運用されるようになったのだった。


 そして、言の波によって生じる魔法的現象を総じて人々は『言霊ことだま』と呼ぶ。


 これらの概要を端的に言うと、より平和で安心できる良い国を目指したヨゼフが必須と考えた、日本で言うところの語彙力が鍵になっている。


 言霊は、安易に戦闘利用させないため、言葉に対する深い思想や知識などがなければ真に効果が発揮されない仕様である。


 つまり、多くの言の波を身に宿していても、語彙がなければ使えないし、逆に語彙があれば、言の波が少なくても上手く立ち回れるという訳だ。


 しかも、語彙を増やし高めていけば、後天的に言の波は増え高めることができるのである。


 器が大きくなれば、必然、入れるものも多くなる。


 しかし、それはあくまで基本的な話、一般論。


 ガロの騒ぎ立てていた【伝説の勇者】となると話はまた変わる。


【伝説の勇者】とは、その名の通り伝説上に登場する人物であり、聖龍界とは異なる世界からやって来た極めて高い言の波の適性を持つ者とされている。


 その特徴について、この国に伝承のある『ドラゴニア創世記』にはこのように記されている。


 ――それは、ニホンなる異界よりこの世に降臨せし者であり、ほとばしる熱情を以て窮地に救いの手を差し伸べる、勇猛果敢な戦士のことである――


 これにより、この国では伝説の勇者は絶対的な存在として人々に崇め奉られ、信仰される対象となっているのだ。


 気になるその力だが、称号によって言の波に大幅な上方修正がかかり、思想や知識の有無に関わらず、放つ言霊はみなチート級の威力を発揮する。


 それでも前提として、語彙力に比例して言の波は増大していく仕様ではあるが。


 故に、素質と語彙を併せ持つ良正が召喚されたのである。


 ✣


 そんな話のあと、これは聞いておかねればなるまい、と良正は例の性質がチラリズムするような質問をする。


「一体、どうして俺が語彙力ある人間だと解ったんですか?」


 ――この俺の文才が認められたかぁ、それは大変困ったなぁ


 そんな自己愛のユニットバスに溺れながら、返答を待つ。


 瞳孔をぐわっと開き、まるで園児のようなくりくりとした瞳で。


 それに対しミスリルは、


「んー、それは……なんででしょう、ねぇ?」


 と、ぽかんとした顔をして聞き返してきた。


 あまりの酷さに、良正はフィクションのようにずこーっと前へ転げる。


 それを見て、すかさず横にいたガロが軽い咳払いとともに割って入り、補足する。


「それは、貴方様が彼方の世界で『その言葉の使い方、違う』と仰っており、他人にわざわざ指摘なさるということは、それだけ語彙力のある御方なのだろう、と。それが我等の見解で御座います」


 と、あっさり答えられてしまった。



 あー、そーゆーことねー


 この文才が認められたわけじゃないのねー


 でも、()()()()とまで言わなくても良くないかい?



 淡白なガロと、その話の内容の極薄さに良正はほんの少しばかり苛立ちを覚えた。


「……ちなみに、どうやって俺の元いた世界のこと見てたんだ?」


「うちの若手が王都街で、外界と聖龍界を行き来できるという商人からタダで貰った謎の水晶がありまして……」


 この質問に関しては、わけがさっぱり解らず、やはり、良正の苛は更なる高みへ。


 しかしながら。


 ――いや、でも待て。これって本当に……俺、【伝説の勇者様】!?


 一度入れられてしまった自己愛のスイッチはそれしきのことでは、伝説の自己愛者の前では覆らなかった。


 結果。


「なっちゃった……のか?」


 ぼそっと独り言みたいな台詞を、しっかり聞こえる声でわざと吐いて他人に構って貰おうと、良正はいささか卑しく面倒な行動に出る。


 が、ミスリルは面倒臭さを感じてか知らぬ間にどこかへ行ってしまったらしく、残ったガロが笑顔で答える。


「ええ、もちろん。仰る通りで御座いますとも。何、どうした。なんと……! では、この御方は――」


「んっふふ〜! 何かあったの〜?」


 テンション急上昇中にある良正は、女子高生みたいな喋り方で声を弾ませながら聞いた。


 ン、ンンン……ゴホン。


 ガロのわざとらしいにも程がある咳払いが広々空間のしんとした部屋に響き渡る。


 ぼふぼふ。


 その背後からどこかへ行っていたミスリルと、黒革のブーツで軽快に靴音を立てる見知らぬ女が、真紅の絨毯の上を歩いて良正の方へ向かってくる。


 女、と言ったが、全身カジュアルコーデで決め込んでいるのを見るに随分と若そうである。



 見た目的に……女子高生か?


 なら俺と三、四つ離れていることになる……のか?



 良正はまた正も負も生まぬどうでもいいことを思案していた。


 二人がその歩を止めると、それに合わせてガロが開口。


「……大変申し上げにくいのですが、残念ながら貴方様は【伝説の勇者】を獲得なされず、此方の方が【伝説の勇者】となられました」


「・・・ヴェェエエ工!? 何ィィイイイ!?」



 ――俺の描いていた未来予想図とはまるで違う異世界生活が、この女との因縁がここから、始まる


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