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第二十三話 再挑戦、否、初挑戦。中

 

 つい先程のフェルナンドの一言で、先日破綻した彼と良正との第三戦、大将戦の話が復活した。

 話はその場ですぐにまとまり、日時は翌日正午、闘技場で行うこととなった。


 良正もフェルナンドも気合十分。身体が試合を待てず疼いている。

 朝一で決まったため、その後はずっと心身ともに明日が待ち遠しく仕方がなかった。


 何かしていないとどうにかなってしまいそう、良正は行動に出ることにした。


「ということで、作戦でも考えながらアスと遊ぶことにしまーすっ!」


「は〜いっ! じゃ〜、わたしはぐっちゃんに考える暇を与えぬよう凄まじい攻撃をしま〜すっ!」


 誰が聞いてるわけでもないのに、二人は見事なまでに無様な宣言。

 良正は、久々に時間をとってアスカと言霊で勝負することにしたのだ。

 彼女の成長を見るとともに、遊戯の中に戦闘における手がかりを見出す、あるいはそれを元に対フェルナンド作戦を練る目的だった。

 その奥では、単に息抜きに遊びたいという考えもあった。まさしく遊戯というように。


「いや待て、その発言はなんで俺が誘った理由わかってのことか? おいアス、聞けよ! おいっ!!」


 良正は左手を空へ放つ。


「よ〜し、それじゃ始めていこ〜! 最初、私がサーブね!」


「わかってたよ」と言わんばかりのすまし顔でその手を避けると、ツッコミと良正を空気のようにスルー。

 何事もなかったかのように、そのままゲームを進めようとするアスカ。


 うん、たとえネタでスルーしていたとしても、この辺は一応教育していかないとダメかもな


 良正はそう思案しながら、球状のものを出しサーブ姿勢に入るアスカを見つめる。


「最初、わたしサーバーね〜! いっくよ〜!! そ〜れっ!!!」


 開始の合図が告げられる。


 刹那、確かにアスカが持っていた球は視界を遮るほどに神々しく皓々《こうこう》とした閃光を帯び、視認を許さぬまま反対のコートへと送られる。


「……んんっ。な、なにが起きたんだ……?」


 良正はまだ眩む視界の中、自分のコートを見やる。


「にっひひ〜! わたしのサーブがぐっちゃんのコートに入って〜、それをぐっちゃんは返せなかった〜。つまり、わたしポイントゲットっ!! 決めてやったぞ〜、サービスエースっ!!!」


「うわぁぁあああッ! 情けねーなー、俺。みれてもねーよ……」


 そこには、ぼやけゆらめく白球の転がる様が目に入った。


 が、その様とアスカの情報だけでは、まだ上手く状況を飲み込めていないが、良正はとりあえず返事をした。


「これで15(フィフティーン)(ラブ)、だね〜っ!」


 アスカは良正向けてピースをつくると、自慢げに言ってくる。

 だが、次に口を開いたかと思えば、


「でも、すこ〜し残念だなぁ〜。ぐっちゃんと()()()()、じゃなくなっちゃった……」


 と俯き拗ねるように潤んだ唇を尖らせる。


 あーあー、何をそんなに引きずっているかと思えば


 そんな親心くすぐる可愛らしい顔で何を抜かす


 こっちが変質者みたいな空気出すな、やめてくれ


 と羞恥に晒されたような感覚がした良正は、汗を額に浮かべながら、


「お前なぁ、なんでそんなバカップルみたいなことを平然と言えるんだよ! って、誰がバカップルじゃぼけぇ! こっちは恥ずかしくて顔から火ぃ出ちまいそうだよ! って、もう湯気は出てるだろうがな! 何がラブラブだ、ラブオールだろ! ふざけんのも大概にしとけーーーーーーーーーーっ!!!」


 本当に怒りはしていないものの怒声で汚らしく紡ぐ。


「だ、だってぇ……リルがぁ……」


 問題児ミスリルが何やらしでかしてくれたようだ。

 良正は、したり顔でにまぁと笑うミスリルの姿が目に浮かんだ。

 腹立たしく思った良正は、


 チッ、あのヤロウ


 アスになにか吹き込むなりでまかせ言うなりしやがったな


 アイツにゃ、あとで母親直伝ウメボシの刑を執行してやらぁ


 ――へへっ、今度は泣き喚く姿が目に浮かぶぜぇ


 と新たにミスリルの断罪をやることリストに追加するのだった。


「んまあ、その辺の話はまた後にしてゲーム続けようぜ、な?」


「うぅ……わかった……」


 まだ軽くアスカがぐずったままだが、負の流れを断ち切り試合再開する良正。


 おおっと忘れちゃならねぇ、と彼はゲーム説明を始めるのだった――他ならぬ誰かに。


 ✣


 えーと、俺とアスがやっているこの遊びは“言霊テニス”というものだ。

 なんでも、俺という便利な玩具オモチャを失ったアスが「何もすることなくて暇過ぎるな〜」と考えたスポーツらしい。


 その名の通り言霊を使うのだが、「これまた難しいけど楽しい」、「ついついハマってしまう」と召喚士たちにより王宮内に広まり人気に。

 そこから流行に敏感な王都街の若者の心に火がつき、流行っているそうだ。


 俺がいない間に凄いことしてくれてんなぁ、まったく……


 ルールは簡単、基本的には普通のテニスと何ら変わらない――言霊を使うこと以外は。

 同時に、言霊を使わなくては話にならないものでもあるのだが。


 最短でそれを伝えるならば、球にコート、そして自分自身に対して言霊を使って楽しむテニスである。

 要は、コート上で言霊使い放題なテニスということであるが、例外もある。


 相手を殺傷させるような行為、執拗なラフプレー等は一切禁止。

 妨害まではOKだが、その域を超越した行為は認められない、あくまで遊戯ゲームなのだから。


 確か、こういうのを日本では「スポーツマンシップ」というはず、それさえ守れればいい。

 つまり、『ルールを守って楽しくデュエル!!!』できれば問題ないわけだ。


 それでは続きをどうぞ。


 ✣


「よ〜しっ! じゃ〜、次いっくよ〜!!」


 調子を取り戻したアスカがサーブに入る。


「ああ。今度こそ止めてみせる!」


 良正も気合十分といった様子、先程とはまた違った顔つき。


「そ〜れっ!!!」


 またもや例の光球。

 しかし、二度も同じ手にかかる良正ではない。


 ――来るッ


「見えた、そこだぁぁあああーーーーーっ!!!」


 何が見えたのか猛々しく吠えると、右に持ったラケットを豪快に振り抜く。


 次の刹那、旋風がアスカを横切ったかと思うと、彼は見事返球成功、レシーバーとして勇者から点を取っていた。


「なっ!!」


 反応は出来たらしいが、彼女はこれを止められなかった。


「これで15《フィフティーン》:15《フィフティーン》、だな!」


 リベンジ成功に浮かれる良正は、ハハハッとラスボス感強めで高笑う。


「むぅ〜っ! ぐっちゃんもなかなかやるね〜、ってこのルールだと言霊並行発動可能なぐっちゃん有利すぎるんじゃ……」


「あ、バレた……」


「だよね〜! じゃあさ〜」


 珍しく察しのいいアスカに良正は開き直って継ぐ。


「でもまあ、このルール作ったのアスだしー、伝説の勇者様だしー、俺が何しようとさすがに負けたりしないよなー」


 棒読み感があったものの彼女はまんまと乗せられる。


「ぐぬぬぅ〜。いいだろ〜、全力でかかってこ〜いっ!!!」


 ――はぁー、アスはそんな顔もかわいいんだよなぁ


 恋心とは違った軽く親バカチックな感想を抱きながら、そんな彼女に返す。


「そーかいそーかい。そう思っとけばいい、勝つのは俺だがな。見せてやるぜ――『サービスブレイク』とやらをなッ!」


 暖かな気候とは似つかぬ、白熱した戦いは一時間足らずで幕を閉じた。


 ✣


「あ〜っ、も〜っ!! ぐっちゃんのいじわる〜、いけず〜、いくじなし〜っ!!!」


 敗戦を喫したアスカはクレーコートに背をつけ、文句タラタラだった。

 服をほのかに茶に染め、悔しがり駄々をこねる姿は用事と大差なかった。


「まぁまぁ。アス、これはあくまで遊戯ゲームだぞー? そこまで気を荒らすものじゃないぞー?」


 良正は、その煽り適正を活かして彼女の屈辱感を高めていく。


「ほらまた〜、そんなことしてるから現世でもろくな友だちいなくて、彼女なんて縁遠だったんだよ〜」


 わんわん泣きじゃくり喚きながらのアスカの突然の言葉に、攻めだったはずの良正は一転、脆い心を貫き穿たれる。


 ――勝ったのに、なんか違う。思ってたんとちゃう


 昼下がり、王宮の庭、王都の中心で二人は各々きらり涙を流すのだった。


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