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前編

宮本武蔵VS沖田総司

フィールド:巌流島の砂浜

武器 沖田:菊一文字則宗  宮本武蔵:櫂

ルール:無用


参考資料:ウイキペディア:多数

 白い砂浜に二人の男が向かい合っていた。一人は浅葱色(あさぎいろ)のだんだら羽織を着た、切れ長の涼しい目をした美男子。


 もう一人は、長い髪を芯の太いちょんまげで束ね、脂ぎった髪をなびかせた。猛禽類のように鋭い目をした男だった。


 美男子の男の名は沖田(おきた)総司(そうじ)

 猛禽の目の男は宮本(みやもと)武蔵(むさし)


「小次郎はどこだ?」


 武蔵の太い声が沖田に問うた。

 沖田は刀の鞘を掴み、武蔵にいった。


「小次郎さんはいないですよ。代わりにあっしがお相手します」


 病床で死したはずの沖田が目覚めたのは、巌流島だった。

 沖田は自分に何が起きたのか、即座に理解したのだ。自分が何をしなければならないのか、目覚めたときから分かっていた。


(宮本武蔵を倒す)


 それが、沖田の使命だった。


「小次郎はおぬしに、(わし)の相手を押し付けたのか? おぬしみたいな、優男に儂の相手が務まると思ってるのか、小次郎は?」


 小次郎はどうなったのか、沖田も知らない。

 しかし小次郎の代わりに沖田がこの場所にいるるのだ。武蔵と戦うために。


「あっしが相手にならないかどうかは、戦ってみないと分からないでしょ」


 武蔵と沖田の身長差には、大人と子供ほどの差があった。

 武術の世界に置いて、身長差は戦闘に大きく響く。当然、身長が高い方が有利。


「ハハハハ! 確かに、戦わないうちから分からんな!」


 武蔵がそういった、刹那。沖田の菊一文字(きくいちもんじ)の波紋が、怪しく光り、武蔵を切りつけた。

 武蔵は済んでのところで、後ろに下がり、(かい)(舟を漕ぐオール)を構えた。


 沖田の持つ菊一文字則宗(のりむね)の起源をたどれば、平安時代にまで遡る。時の権力者、後鳥羽上皇は諸国の名刀工を招いて鍛えさせ、親しく焼刃をしたと伝わる。


 則宗は御番鍛冶を務めた事から、後鳥羽上皇が定めた皇位の紋である16弁の菊紋を銘に入れることを許された。一文字派は銘を「一」とだけ彫り、この刀はそれに加えて菊の紋を彫ったので菊一文字と称するようになった。


 ただしあくまで称したのであって、「菊一文字」と言う銘の刀は存在しない。それに現存する則宗の刀の中に菊の銘を切ったものは確認されていない。


 おそらく後世の人々が御番鍛冶の筆頭を務めていた則宗だから菊文を切ったに違いないと考えた為に則宗の刀が菊一文字と呼ばれるようになったのではないかと思われる。


 則宗以外の刀工でも菊と一の銘を彫る刀工は何人か存在したが、これも銘は菊一文字ではないし、菊一文字と一般的には称しない。


 沖田のその動きだけで、武蔵は悟る。

(こいつは強ぇー)


 武蔵は沖田の強さを実感した。

(口だけのことはある!)


「お前、名は何という」


 沖田は構えを解き、脱力した状態で名乗った。


「沖田、沖田総司。新選組一番組長、沖田総司です!」


 武蔵は不敵に笑った。


「沖田か、記憶の片隅にでもと止めてやろう」


 武蔵は櫂を構え、沖田と間合いを詰める。速い、一歩踏み出す脚力だけで、間合いは詰まった。あまりの速さに沖田は一瞬反応に遅れた。

 

 後ろにのけぞる形で、何とか武蔵の斬撃をかわした。羽織の袖がかすり、吹き飛ぶ。


「儂の一撃をかわせるとは、やるようだな」


 沖田は背後に宙返りし、菊一文字を抜いた。


「光栄です。あなたに、褒めてもらえるとは」


 そう言いながら、菊一文字の突きが武蔵の胸に伸びた。

 武蔵は一歩も動くことなく、櫂で菊一文字の軌道をそらす。そして、軌道をそらすと、同時に櫂を振り下ろした。


 櫂が沖田の頭に振り落ちる。沖田はそれを読んでいたように、体を回転させそれた菊一文字の軌道に体を任せるようにし、武蔵の左横腹を狙う。


(とった!)


 沖田は確信したとき、武蔵の踏み出した右足が沖田を蹴飛ばした。


(なに)


 その速さは人間技ではなかった。どうして、あの体勢から蹴りを出せるのか。沖田後ろにのけぞった。


流石(さすが)武蔵)


 沖田は右手を砂浜に付け、体勢を立て直す。


「猿見てーに、俊敏だな」


 武蔵が面白くてしょうがない、と言いたげにいった。沖田総司、新選組一二を争う、剣の使い手。武蔵の相手に不足はない。


 沖田は菊一文字を下に構えた。夕日の血のように真っ赤な光が菊一文字の刀身に反射した。再び沖田は、正眼の構えをとり剣先を武蔵に向けた。


 沖田は砂浜を蹴った。砂が宙に舞う。神速の沖田の動きは速かった。瞬きするあいだに、武蔵の懐にもぐりこんだ。


(今度こそとった!)


 沖田は武蔵のみぞおちに突きをかます。そのとき、武蔵は砂を蹴り上げた。細かい砂が宙に舞い、風に乗り沖田の顔を襲う。


「きたねーとは言わせないぞ! これは真剣勝負なんだからな」


 動きの鈍った沖田の突きをかわすなど、武蔵には造作もないことだった。沖田は袖で、顔をかばい後ろに飛びのいた。

 目に砂が入り、視界が遮られる。


「ええ、これは真剣勝負。卑怯もへったくれもありませんや」


 沖田は平静を装っていたが、内心冷や汗ものだった。

 殺気や闘志というものが、武蔵からは感じられないのだ。

 闘う者なら殺気や闘志は必ず、身にまとっている。しかし武蔵からは何の闘志も感ぜられない。闘いづらい相手この上ない。


 それはまるで、永倉新八のように沖田には戦いずらかった。


 武蔵にとって、戦いとは命の取り合い。戦国を生きる、武将に卑怯という概念はないのだ。それが強さだけを追い求めた武蔵の流儀。


「ここで殺すには実に惜しいのお!」


 武蔵は踏み出した。ゆっくりと、沖田に歩み寄る。歩く姿に無駄はない。隙はない。構えすらとっていない、無の構え。

 沖田は踏み出した。沖田の得意とする、突きが再び武蔵のみぞおちを狙う。今度は目つぶしなど、喰らわない。


「実に惜しい、このまま修行を積めば、良い剣士になれたものを!」


 そう言って、沖田の繰り出した突きを済んでのところで、後ろに飛びのきかわした。戦国武将の凄さは、間合いを見切る力にある。

 それは実践を積まなければ、体得できないもの。


 武蔵は嫌というほど実践を積んでいた。四十対一でも、武蔵には勝つ自信があった。


 剣の勢いが落ちると、武蔵は無の構え状態の櫂を下から、上に振り上げた。櫂が沖田の横腹を襲う。


(避けられない!)


 刹那、沖田は体を捻り櫂の力に身を任せた。鈍い痛みが横腹を襲い、息が詰まった。


「スゲーな! あの体勢で体を捻ったか!」


 沖田は脇腹を抑えながら、立ち上がった。足がふらつき、おぼつかない。


(大丈夫……骨は無事だ)


 すんでのところで体を捻ったおかげで、肋骨は無事だった。

 骨には別状なくても、しばらくのあいだ動きは制限されるだろう。


「すぐに楽にしてやるぞ!」


 武蔵は沖田に歩み寄る。正眼の構えをとり、櫂を振り上げた。櫂の穂先が沖田の頭を襲う。


(受けたら、負ける)


 沖田は刹那、理解した。力で武蔵に勝てる見込みは皆無。


 沖田は倒れたときにつかみ取った、砂を武蔵の顔目掛けて投げた。そんなことで、怯む武蔵ではないが、一瞬反応が遅れる。

 沖田はその一瞬を見逃さなかった。自慢の俊足を活かして、武蔵から間合いを開けた。


「ハハハハハ! 坊ちゃん剣術と思っておったが、見直したぞ! そうだそれでこそ真剣勝負だ!」


(脇腹の痛みが、だいぶんなくなった)


 沖田は脇腹を支えていた、手を菊一文字の(つか)を握り直した。沖田は震えていた。切っ先(きっさき)が小刻みに揺れている。


 恐怖からくる震えではない、武者震いだ。こんな強い相手と戦える喜びに震えていた。櫂の切っ先が沖田に向けられたと思った刹那、櫂が伸びた。


(なに!)


 間合いは保っていたはずなのに、櫂が届くまで武蔵は迫っていた。


 沖田は菊一文字を斜めに構え、櫂の切っ先にそらせた。巨岩をぶつけられたかのような、重い一撃が沖田を襲った。


 軌道をそらしたが、それは一撃に過ぎなかった。続けざまに、二撃、三撃、四撃、と沖田を襲う。武蔵の力にかかれば、沖田の菊一文字など棒っ切れも同然だった。


(真正面から戦っても勝ち目がない!)


 沖田は櫂の軌道をそらすことだけに、全神経を注いだ。


 ただでさえ六尺(180㎝)はある巨漢の武蔵が八尺(240㎝)ほどに感じられた。大人と赤子のほどの、力量の差がうかがえた。


 しばらくのあいだ、沖田は武蔵の斬撃を受けるのに、必死だった。池田屋事件のおり、一刻(二時間)にも及ぶ、闘争を繰り広げた沖田ですら限界に近づいていた。

 

 武蔵が横に構えた櫂を振りかぶったわずかな隙を、沖田は見逃さなかった。その刹那、沖田は出せる限りの、力を振り絞って後ろに飛びのいた。


 上がった息を整える。沖田が今までに戦ったこともない、強敵であった。


「本当に惜しいのお! お前はまだ強くなる」


 武蔵は再び櫂を沖田に放った。残像を残すほどの突き。沖田は横に飛びのき、かわした。武蔵は勝利を確信していた。


 しかしそのおごりが、わずかな隙を生む。窮鼠猫を嚙む(きゅうそねこをかむ)。呼吸は整っていた。武蔵が櫂を振り上げると、同時に沖田は踏み込んだ。


 武蔵は驚く。武蔵のような剣豪でもおごりはあった。その、おごりがわずかな隙を生んだのだ。


(必殺奥義! 三段突き)

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