第2話 ホントに同居すんの?
数十分ほど歩くと、少しずつ光が漏れて来ることがわかった。
「森を抜けました!」
森を出た瞬間、そこは壮大な草原が広がっていた。爽やかな風が吹き、その先には大きくも小さくもない町が見えた。
「あれが私の住んでいる町です。行きますよー!」
町の入口まで来ると、どのような所かがより明確になった。
レンガや木材でも造られた家が多く、コンクリートが一切ない。
石畳の道はゴミひとつ落ちておらず、治安が良いということが分かった。
沢山の人で溢れかえっている市場を通りかかると、また杉野には見慣れない光景が広がっていた。
その市場には人ではないものがいた。
紫の身体を持つ者。耳が長い者。獣耳と尻尾を生やした者まで。
多種多様な生き物が楽しそうに買い物をしている。
「この町、色んな種族がいるんだな、、」
「はい、そうですねー。最近は特に増えました。やっぱり、2年前の全種族世界戦争の後くらいからですかねぇ」
「全種族世界戦争?」
「この世界はほんの2年前くらいまで戦争をしてたんですよー。今はどの種族も共存していますが、その戦争で世界の人口は半分になったと言われているんです」
この平和そうな世界にそのような事があったとは驚きである。でも俺は戦争があった事も忘れているのか。
そんなことを話していると、シルフィはふと立ち止まりこっちに振り返る。
「着きました!ここが私の家ですよ!」
紹介された建物は豆腐ハウスだった。二階建ての家は、1人で住むには少し広いくらいだろう。
彼女に案内されて中に入ると、それなりなダイニングとキッチンが目に入る。いきなり生活感あるな。
杉野は靴を脱いで入ろうとした。無意識に。
「杉野さん?何で靴を脱ごうとしてるんですか?」
シルフィはそう言いながら、土足のままスタスタと家の中へ入っていく。
あれ、玄関で靴を脱ぐのって常識じゃ無かったっけ?
よく考えたら、この家には玄関っぽい仕切りがない。
違和感を覚えながらもシルフィに導かれ、ダイニングの椅子に腰掛ける。
「はい、どうぞ。レモネードで良かったですか?」
そう言って目の前に出されたお茶は鮮やかな黄色をしていた。
クイッと飲むと甘酸っぱいレモンの香りが口にひろがる。どこか馴染みのある味だった。
「ありがとな。上手い、よ、、、ハ?」
そう言って見上げると、目の前には小さな妖精なんて居なくて、年頃の若い女性がドーナツを持って立っていた。
「お、おま、、え?シルフィだよな??」
「あっはい!妖精は人間に化けれるんですよー♪」
どうですかーと言いながらくるくる回る女性を見ながら、可愛いと思う杉野であった。
シルフィがキッチンにいる間に、杉野は今までの中で何か思い出せることが無いか頭の中を探っていた。
しかし、やけに初めてだと思えることが多い。妖精なんて見たことがなかったし、この町にも覚えはない。強いて言うならこのお茶にしか懐かしい感じがしない。
「杉野さん。頭を抱え込んでどうしたんですか?」
シルフィがキッチンから戻ってくると、キョトンと俺の顔を覗き込んでくる。
やめろ。そんな可愛い顔で見てくるな。
「シルフィ、俺はひとつ思ったんだが」
「はい」
「俺はこの世界の人間じゃないのかもしれない」
「へぇー、、、」
「・・・・・・いやそれだけ!?」
あまりの反応の薄さに椅子からが転げ落ちそうになると、シルフィがまた口を開いた。
「いやぁ、この世の中何があるかも分かりませんしね。杉野さんが別の世界から来ていても何もおかしくありません」
「魔術や妖術だってありますし」。そう言いながらシルフィはテーブルにあったアイシングのかかったドーナツに手を伸ばす。
魔術とかあんのかこの世界。マジで?
あまりにも綺麗に流されて行った話題に泣きつつ杉野は自分の部屋へ案内される。
「丁度空き部屋があったんですよ。少し埃っぽいですが使ってください!」
ありがとう、と言って部屋を見渡すとシングルベットにタンス、と必要最低限の物はあるようだった。少し狭いが、変に広々しているよりいいだろう。
杉野はら本当に自分はここに住むのかと実感する。
「因みにほんとに同居するんだよな?」
「はい!」
杉野はその笑みに何も返すことが出来なかった。




