8話 盗賊討伐隊出立
「…よぉし。」
レイジからの即席稽古を終えたタクヤは、バレルの家にいた。
フローテクスへ迷い込んだ際に着ていた制服は、稽古を始める前に着替えて預けてあった。稽古用の軽装だけを借りていたのだが、討伐に向かうため、最低限の装備を加えて借り受けるべく再び訪れたのだ。
「こんな簡単な装備ですみませんねぇ。鎧でもあればよかったのでしょうが…。」
装備を身につけたタクヤに、バレルは申し訳なさそうに口を開く。
「そんな!ここまで尽くしてもらえるだけでも十分ありがたいです。」
タクヤは慌てて首を振り続ける。
「それに、鎧なんか来たら重くて仕方ないですよ…。」
そう言って苦笑いするタクヤの顔に、バレルもまた微笑みを返す。
「この世界に来たばかりで、我々のわがままに付き合っていただき本当に申し訳ないです。タクヤさん…どうかご無事で…。」
準備の整ったタクヤに、バレルは最後に剣を渡してから深々とお辞儀をする。それに答えるようにタクヤもまた一礼をする。
「こちらこそ、短い間ですがお世話になりました。いってきます!」
右も左もわからないタクヤに進むべき道を教えてくれたバレルに対して、タクヤは深い感謝を込めて元気に挨拶をし家を出る。
「中々似合ってるねタクヤ。」
バレルの家の外では、同じく準備を済ませたレイジが待っていた。タクヤの着ているものと似た雰囲気の軽装。この世界での基本スタイルなのだろうか。
レイジは赤いはちまきのようなものを額に巻いていた。学ランを来た応援団がしているのくらいしか見たことがないが、悪くはない。
「そうかな?そっちこそ、その額のやつ…カッコいいじゃん。」
「あ、これ?まぁちょっとした気合を入れるためだったりするんだけど…改めて言われるとなんか恥ずかしいね。」
そう言って、少し顔を赤くするレイジ。そういえば最初に村で会った時も巻いていた気がする。戦いの際には巻くようにしているのだろう。何も恥ずかしがることはないと思うのだが…。
「やっと来た…待ちくたびれちゃった!」
村の入り口に差し掛かったところで、一人の少女が二人を待ち受ける。薄い緑色をした長い髪をサイドにひとまとめにしたその少女は、片手に槍を持ち仁王立ちをした状態で声を上げる。レイジは大して気にする様子もなく、後ろを歩くタクヤに振り返る。
「紹介するよタクヤ。彼女がバレル村長の娘の"ロール"。」
討伐作戦の話が出た時に名前が出ていた、討伐隊のもう一人のメンバーである。タクヤは口を半開きにしてゆるく頷く。
「ちょっとレイジ!」
待ちくたびれたと言う不満を聞き流すように紹介を始めるレイジに、ロールは頬を膨らませ不機嫌そうに声を上げる。それに対し、レイジは苦笑してロールに向き直る。
「待たせてごめんロール。僕らにも準備があったんだ。」
「ま、まあ私もちょっと村の入り口の警戒が長くなっただけだから…別にそこまで怒ってないけど!」
謝罪するレイジに対して、少し頬を赤くしながら顔を背けるロール。
「心強い味方も同行することになったから。それもあって少し遅くなったんだ。」
そう付け加えるレイジの言葉に、ロールはレイジの方へ顔を戻し、すぐにタクヤの方を見る。
「同行って…え、二人で行くって話だったじゃない!」
「戦力は多いに越したことはないだろう?それに彼は宝玉使いだ。」
ロールが声を上げた理由には二人は気付く由もなく、レイジはタクヤが宝玉使いであることを告げる。
「彼が…?」
「初めまして、タクヤです。」
訝しげに眉をひそめるロールに、タクヤは静かに自己紹介する。ロールはそれに対して、咳払いをして答える。
「ロールです。あなたが宝玉使い…あまり強そうには見えませんが?」
「まぁ…俺も訳も分からず選ばれただけなので…。」
ロールの容赦ない物言いに、タクヤは申し訳なさそうに首を垂れる。その様子にレイジが真剣な表情でロールに声を上げる。
「ロール、彼は異邦人だ。この世界のことは何も知らない。でも宝玉に選ばれた。それにはきっと意味があるはずなんだ。」
それに、初対面でその言い方は失礼だよ。そう加えるレイジ。その言葉にロールは少し間を置いて、申し訳なさそうな顔でタクヤを見る。
「すみません不躾でした。失言をお許しください。」
「いや、俺が弱いのは事実だし!それに、これから一緒に戦う仲間なんで、よそよそしいのもやめましょうロールさん!」
ロールの謝罪に慌てて声を上げるタクヤ。それに対し、ロールは再び眉をひそめる。
「仲間…ですか?」
「ロール!」
仲間というフレーズに疑問符を浮かべるロール。どうやらまったく信用されていないらしい。その様子にレイジが声を荒げる。
「わ、わかったわよ…。ええと、タクヤ…だっけ。さん付けはしないわよ、私にもしなくていいから。これからよろしく。」
レイジの怒鳴り声に、ロールは仕方なさそうにタクヤに挨拶をする。つっけんどんに言い捨てたロールはそのまま村の外へと歩きだす。
「タクヤごめん。ロールを嫌いにならないでほしい。」
そんな尊大な態度のロールを見て、レイジは申し訳なさそうにタクヤに小声で謝罪する。
「気にしてない…って言うと嘘になるけど…。これから挽回できるよう頑張ります…!」
弱い自覚はあるため、タクヤは苦笑しながらレイジに返事をした。
「なにタラタラしてんの。早く行くわよ!!」
二人が付いてきていないことに気付いたロールが遠くから大声を上げる。その様子に二人は苦笑いを浮かべ、小走りでロールの後を追いかけて行った。




