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~宝玉物語~ストリーム  作者: 三矢ターニャ
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5話 孤独な少年の旅立ち


 トラトス島、森に囲まれた自然豊かな村で少年は生まれ育った。両親は少年が生まれて程なくして他界。少年の育ての親は、村長もやっている祖父であった。

 この村では掟により、15歳になるまでは森の外に出ることが許されなかった。少年も間もなく15の誕生日を迎えようとしていたが、血気盛んで好奇心旺盛な少年は1日でも早く森の外へと出てみたかった。決してこの村が嫌いなわけではなかったが、それなりに大きな森も既に慣れ親しみすぎて新鮮味がなく、退屈すぎる日々に少年は嫌気がさしていた。

「じいちゃん、頼むよぉ森の外行かせてくれよぉ!」

 少年は、その日もしつこいくらいに祖父に対し、森の外への外出を懇願していた。祖父は困ったような表情で少年を見る。

「トーマ、わがままを言うな。あとひと月もすれば誕生日だろう。それまで我慢しなさい。」

 祖父の言葉に、トーマと呼ばれた少年は不満そうな顔を見せる。祖父は気にせず続ける。

「あと、いい加減イタズラばかりするのもやめなさい。もう立派な男なのだからシャキッとしなさい!」

 叱責にも近い祖父の口調に、トーマはムッとなり声を上げる。

「なんだよ、森の外には行かせてくれないくせに、都合のいい時だけ一人前扱いすんなよジジイ!」

 その言葉に祖父はどこか悲しそうな表情を見せる。それを見たトーマは自身の発言にいたたまれなくなり家を飛び出した。そんなトーマの出ていった後の方向を祖父はなおも悲しそうに見つめていた。


 家を飛び出したトーマは、森の奥地を目指していた。植物に覆われた森の中を軽い足取りでトーマは進んでいく。10歳を迎えたころから毎日のように探検をした森の中。トーマにとっては何てことのない道のりだった。

 森の大体の場所を踏破したのは半年ほど前だった。それより前に踏破したつもりでいたのだが、ある時、見知らぬ開けた場所に出た。そこは太陽の光が強く差し込む泉のような場所だった。澄み切った泉の水は見ているだけでも心が洗われるようだった。

 しかしトーマの心を強く動かしたのは、そこから見る綺麗な空だった。まるで泉をそのまま映したように澄み渡った空。いやむしろその空を映したからこそ泉も美しく感じるのかもしれない。

 トーマはその空を初めて見たその時、外の世界への強い憧れを抱いた。村の中は大きな木に囲まれる形で、大きく開けた空を見ることなどなかった。だから、外の世界ではどれほどの美しく広大な空を見ることが出来るのだろう。そういった思いが強くなり、同時に自分の知る世界の狭さに嫌気もさした。

「やっぱりここは落ち着くな…。」

 初めてその場所へ訪れた時のことを思い出しながら、トーマは泉の前にたどり着いていた。トーマはここに来た時の定位置である切り株に腰かける。

「掟が大事ってわかってるけど…もう少し認めてくれたってさ…。でも…。」

 カッとなったとはいえ、大事な家族にジジイと言ってしまったことに強い後悔があった。

「戻ったらちゃんと謝らなきゃ…。」

 そう決意しながら、トーマは空から射しこむ日の光に目を細めた。


「んぅ…ぅあ寝ちゃってた…?」

 トーマは温かい日の光で少しの間、居眠りをしていたようだった。太陽の位置はあまり変わっていないように見えた。寝てたのはほんの小一時間くらいだろうか。

「そろそろ戻ろう。ちゃんとじいちゃんに謝らなきゃな。」

 トーマは立ち上がり、大きく伸びをしてから村への帰路につくべく歩き出した。


 村へと戻ったトーマは、信じられない光景を目の当たりにしていた。

「え、何だよこれ…。」

 トーマの目の前には、外で倒れ伏す村の住民たちと、漂う血の匂いだった。

「みんな…?」

 トーマは一番近くで倒れている住民に静かに近づく。近づいて気付くその無残な姿。背中には大きな切り傷があり、周囲の大量の血はこの住民のものだと見て取れた。間違いなくその住人は命を落としている。

「そんな…何でこんな…。」

 知っている人間の突然の無残な死。周囲を見渡し、ほかの倒れる住民の様子を伺う。おそらくみな同じように…。トーマは混乱しながらも急いで自宅へと走る。

「じいちゃん…じいちゃん!」

 家に駆けこむトーマ。村に何が起きたのかまったくわからない状態。すぐにでも祖父の無事をその目で確かめたかった。だが残酷にもトーマの目には、家の中で倒れる祖父の姿が映っていた。

「じいちゃん、なんで…こんな!」

 倒れる祖父のそばに駆け寄り、トーマは大声で祖父を呼ぶ。その声に祖父のまぶたがわずかに動く。

「じいちゃん!?よかった生きてる…!」

「トーマ…か?」

「じいちゃんなんでこんなことに…!」

 続くトーマの声に、祖父は薄くまぶたを開きトーマを弱弱しく見つめる。

「盗…賊が…襲ってきた…。村の秘宝も…奴らに…。」

 村の秘宝。その存在は一応ではあるがトーマも認知していた。それが盗賊に奪われたというのだ。

「村のみんなも…じいちゃんも…盗賊が…。」

「情け…ない話じゃ。手も足も…出なかった。女子供も…容赦なく…。」

 力なく喋る祖父の顔色は少しずつ悪くなっているように感じた。

「じいちゃん、もういいよ喋らないで!」

 祖父の様子に、慌ててトーマは口を開くも、祖父は続ける。

「トーマ…お前の…誕生日を、祝うことも出来そうにない…すまないな…。」

「何言ってんだよじいちゃん。そんな…大丈夫だよ。すぐよくなるよこんな怪我…!」

 自分の死を悟ったような祖父の言葉に、トーマは励ますように声を上げるが、トーマ自身もとっくに気付いていた。祖父の身体からも大量の血が流れていることに。体のあちこちに切り傷があり、盗賊から何度も傷つけられたことがわかる。トーマの瞳からは涙が溢れ出していた。自分でも諦めを感じている心を元気づけるように、力強く祖父の手を握る。

「トーマ…お前が…無事で…よかっ…た…。」

 祖父はそんなトーマの手を握り返すことなく、トーマの無事を心から安心したように笑顔を見せ、そのまま動かなくなった。

「じいちゃん…じいちゃん!死ぬなよ。俺、まだ…!」

 じいちゃんに謝ってない。そんな言葉を口にすることなく、トーマは声にならない叫びをあげた。

 その叫びは、生ある者のいなくなった小さな村に空しく響き渡るだけだった。


 住民のいなくなった静かな村で、トーマは一人、住民たちの墓を作っていた。1人1人丁寧に住民たちの眠る穴を掘り、そこに住民たちを静かに埋めていく。トーマはそこまで腕力のあるほうではないが、死んだ人たちはとても軽く、運ぶのにそこまでの苦労はなかった。住民の墓を作る度、大きな悲しみがトーマの胸を襲ったが、涙は流れなかった。祖父の死を目の当たりにし、涙は枯れ果てていた。

 丸一日ほど、時間をかけて住民の墓を完成させていく。最後の墓は、自分を育ててくれた祖父のものと決めていた。祖父の亡骸をゆっくりと埋め、最後の墓を完成させる。

「じいちゃん。悪いけど、掟破るよ。俺、森の外に出る。」

 祖父の墓の前に胡坐をかくように座り込み、トーマは優しく墓に語り掛ける。

「必ず、村の秘宝を取り戻すから。待っててじいちゃん…!」

 そう言って、トーマは立ち上がりゆっくりと歩き出した。


 その瞳に強い決意を宿して。

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