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~宝玉物語~ストリーム  作者: 三矢ターニャ
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3話 異世界転移


「一体どこなんだよここは……。」

 拓也の目の前に広がる光景は、見たこともないものだった。

 見覚えのない景色。日本の景色とは思えない光景。まさか外国ではないとは思うが。気づけば知らない場所…誘拐か。疑問は尽きない。

「アニメとかである異世界だったりして。なんて。」

 混乱はすでに鳴りを潜め、好奇心からくるワクワクを拓也は感じていた。そんな拓也はじっくりと丘から見える景色を見渡す。

「とりあえず、何か変わったものは…っと?」

 周囲を見渡す拓也の耳に、かすかに声のようなものが聞こえる。遠くで騒いでいるような声。どうやら真下の方から聞こえるようだが…。遠くばかり眺めていて、丘の下を見ることをしていなかったが、見てみると建物がいくらかある集落のようなものがそこにあった。声はそこから聞こえているようだ。

「お祭りでもしてるのかな…。行ってみよう。」

 見知らぬ土地で、思いのほか人の気配を見つけたのは幸運だと思えた。拓也は周囲を見渡し、下に降りられそうな道を探す。するとそれはすぐに見つかった。

「ここからならすぐに降りられそうだな。」

 拓也は下へと降りられる少し急な階段のようなものを見つけ、それを慎重に降りて行った。


「え…?」

 丘を降り、集落へとたどり着いた拓也には信じられない光景が広がっていた。

 拓也の目に映ったのは、悲鳴を上げ逃げ惑う住人とおぼしき人たちの姿だった。

「な…え…?」

 人の悲鳴すらまともに聞いたことのない拓也にとって、阿鼻叫喚なその光景は信じがたいものだった。先ほどまであったワクワク感はすっかり消え去り、拓也の心は再び混乱に包まれていた。

「この村に宝玉があるのはわかってんだ。大人しく差し出せ!」

 聞こえた声に目を向けると、少し離れたところに住民と思われる女性をナイフのようなもので脅す、薄汚い服装をした中年の男だった。拓也でも一目見てわかる、盗賊だ。この集落は盗賊に襲われているのだ。

「し、知りません…!」

「しらばっくれるんじゃねえ……ぐぁ!」

 今にも女性にナイフで切りかかろうとしていた盗賊が、急に血を流しながら吹き飛ぶ。

「ひっ!」

「早く逃げてください!」

 そこには、アニメの主人公などが使いそうな長剣を持った、自分より少し大人びて見える金髪の少年が立っていた。その長剣には血のようなものがついていた。盗賊を切ったのはその少年だとすぐにわかる。

 その少年は、女性に逃げるように叫び、そのまま別のところへと駆けて行ってしまった。盗賊は一人ではないだろう。あの少年は一人で戦っているのだろうか。そんな疑問が拓也の頭をかすめる。気づけば、拓也の心を支配していた混乱は、いつしか興奮へと変わっていた。目の前で起きた、現実とはかけ離れた光景。まるで物語の中に入り込んだかのような出来事。盗賊とはいえ、目の前で血を流し人が倒れたことも拓也はまったく気にしていなかった。

 ふと、足元に先ほどの少年が使っていたのと同じような長剣が落ちていることに気付く。

「よーしっ俺も!」

 拓也はその長剣を拾い、まるで自分がアニメの主人公にでもなったかのように舞い上がり、剣を構える。

「うお、思ったより重い。でもまあ普通に振れるな。」

 拓也は剣をバットのように数回素振りをしてから、そのまま集落を歩きだす。

 ふと聞こえてきた子供の泣き声を目指すように歩く拓也。子供の姿が目に入った瞬間、別の方向から不意に声が聞こえる。

「見覚えのない…いや、変わった風貌の奴がいるな?」

 その声の主は、まだ若い大人の男だった。先ほどの盗賊とは明らかに違う服装をしていた。きわめて目につくのは、右手で担ぐように肩に乗せた大きな剣だった。自分が持っている長剣とは一回りも二回りも大きい剣。絶対に自分では持てないのだけは自身がもてた。もう一つ明らかなのは、その男が自分に向ける視線は、決して友好的ではない。というものだった。そんな男に、拓也は物怖じせずに声を上げる。

「あんたも盗賊の仲間か?」

「…そんなところだ。まあ奴らに雇われてる傭兵ってやつだな。」

 拓也の言葉に眉を上げながら答え、その男はその大剣を両手で構える。

「俺を止めてみるか小僧?」

 男の不適な笑みに、拓也もまた剣を構える。剣道部で学んだ基本の構えだ。

「おりゃー!」

 拓也は先手必勝とばかりに、男に切りかかる。

「素人か…。」

 男は一言だけそう呟くと、切りかかる拓也の剣をいとも簡単に大剣で受け流す。

 驚く拓也の隙を容赦なくつくように、男は拓也の腹部に勢いよく蹴りを放った。

「かはっ!」

 強力な蹴りによって、拓也は先ほどからずっと泣き続ける子供の傍らまで大きく吹き飛ばされる。

「けほっけほっ。何だよこれ…。」

 腹を襲う痛みに悶えながら、拓也はそばで泣く子供の方を見る。

 そこには、血を流して倒れている住民の男性だった。父親だろうか、意識もないように見える。その男性を子供は泣きながら揺すっていた。反応はない。

 "死"という言葉が拓也の脳裏をかすめる。拓也の浮足立った心は正気を取り戻し、それと共に大きな恐怖が襲い掛かった。体がぶるぶると震えだし、手に持った剣も自然と地面に零れ落ちる。

「覚悟もない奴が…。」

 傭兵の男が、恐怖におびえる拓也のもとにゆっくりと近づく。

「軽い気持ちで武器を構えるな!」

 男は拓也の甘さを叱責するかのように声を上げる。

「お、俺は…。」

 どこかゲーム感覚でいた自分の愚かさ。男の言葉が拓也の心に深く突き刺さる。

 退屈な人生であると、何もしてこなかった自分の人生。もっと聡と剣道を続けていれば、この男を退けられたのだろうか。自分は何て空っぽなのだろう。小さな子供を泣かせるような悪い奴らに手も足も出ないなんて…。自分の人生もここで終わりなのか。こんな場所で一人…。何もしてこなかった自分の人生を悔やみながら…。

「嫌だ…。」

「?」

 男は、拓也の纏う空気が突然変わったことを敏感に感じ取る。

「嫌…だ…!」

 このまま死んでやるものか。自分の次は泣いてる子供の番だろう。あいつに一矢報いてやる。ほんの1秒だけでも、時間稼ぎをする。きっとさっきの少年が来てくれる。

 拓也は、落とした剣を持ち直し立ち上がる。その姿を見て男は剣を構えることなく、呆れるように口を開く。

「聞いてなかったのか?」

「…覚悟なら…今出来たさ。この子だけは…死んでも殺させない!」

 そんな拓也の言葉に呼応するかのように、拓也のポケットが光りだす。

「うわ、なんだこれ!」

「この光は…まさか…。」

 拓也はポケットをまさぐり、その光のもとを取り出す。それは、この知らない場所に来る前に公園で拾った青い玉だった。

「これってあの時の…なんでこんなに光ってんの?」

 先ほどまでの覚悟と気合が吹き飛ぶほどの驚きが拓也を襲う。

 拓也から溢れ出す光をみた男は、驚愕の表情を浮かべすぐ、にっと口角をあげた。その表情に拓也は気付くことはない。男はすぐまじめな表情に戻り、すぅっと息を大きく吸い込んだ。

「まずいぞ!宝玉使いだ!全員撤退しろぉ!!」

 男は、集落全体に響き渡るほどの大きな声を上げながら、その場を離れていく。拓也は、その突然の絶叫に思わず耳を塞ぐ。

「な、なんて!?」

 男の発言を皮切りに、周辺から盗賊の声と思われるものが次々に上がる。

「嘘だろ!?」

「聞いてないぞ!?」

「宝玉使いはマズイぞ!」

 そんな声が自然となくなった頃には、集落は静けさを取り戻していた。

「助かったのか…?」

 危機が去ったのを感じた拓也は、安堵してへたり込む。するとどこかから声が聞こえる。

「みんなこっちです、急いで!」

 そんな声と共に、数人の大人たちがこちらに駆け寄ってくる。先頭を走る声の主は先ほど見た金髪の少年だった。

 先んじて駆け寄ってきた少年は、いまだ泣き続ける子供のそばで倒れる男性のところへ行き、その様子を伺い始める。

「…!まだ息はあります。はやく手当を!」

 続けて駆け付けた大人たちが、その言葉を聞き、急ぎその場で男性の手当を始める。

「よかった…生きてるんだ。」

 その様子を見て、加えて安堵する拓也の存在に、金髪の少年が気付く。

「ええと…あなたは?」

 そう声をかけてくる少年。少し警戒しているのが拓也にもわかった。さて、何からどう説明するべきか。そう悩む拓也に、次は初老の男性が近づいてくる。

「まさか、あなたは宝玉使いでは?」

「!この人が?」

 そんな初老の男性の言葉に、金髪の少年が驚いて声を上げる。


「しかも異邦人の…。」

 そう続ける初老の男性。拓也は「これは話が通じそうだ」とさらに安堵した。

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