1話 不思議な夢
……けた…タク………もう………フローテクスに…。―――
「…またこの夢…。」
夢から目を覚ました少年は一人そう呟く。
時計を見ると、普段目を覚ます時間よりも少し早い時間。二度寝するのもありかとも思ったものの、何故か妙に目が冴えていたため断念。たまにはゆっくり朝食を食べながら両親と談笑するのもいいだろう。そう思いながら体を起こす。
「夢の声…前より鮮明になっているような…?」
最近続けざまに見る不思議な夢を思い返しながら2階にある自室を出て、1階にあるリビングへ向かうため階段をゆっくりと降りる。
「おお、どうした拓也。珍しく早起きじゃないか。」
拓也と呼ばれた少年は、その言葉にすぐには答えずに、新聞を読みながら語りかけてきた父親の向かいの椅子に腰かける。
「ホントね、ちょうどご飯の用意もできたところなの。いつもはすぐに起きてくれないでご飯も冷めちゃうから…。」
少し呆れ気味にキッチンから朝食を運びながら母親も父に続く形で口にする。
どうでもいいが、今日の朝食はご飯に味噌汁、焼鮭に納豆と普通ここに極まれりといった定食メニュー。しかし普段は登校ギリギリに起床し、冷めたメニューを一気に口にかきこむだけなので、できたてというだけでもかなり変わってくるだろう。特に鮭は当然焼き立てが一番うまい。
「いただきます」
新聞を丁寧に片した父、料理を運び終えた母と三人でしっかりと声を合わせ食事を始める。朝食でしっかりと揃ったのは久しぶりではないだろうか…いつも足並みを揃えないのは自分なのだが。
そう思いながら、拓也は先ほどの父親の言葉に答えるように口を開く。
「最近続けて変な夢を見るんだよね。真っ暗で何も見えないんだけど、うっすら声だけが聞こえてきて…何を言っているのかはよく聞こえないんだけど、今日のは少し声が鮮明で…。」
何て言ってたっけかな。こめかみに人差し指を当てながら夢の内容を振り返る拓也。父親は朝食を食べる手を止めることはないが、しっかりと目線は拓也を向いていた。
取るに足らない話でもしっかりと息子の話に耳を傾けてくれる父が、拓也は実は大好きである。絶対に口には出さないが。
「…そうだ思い出した!確か…ふろおてくす?だったかなそんな単語。なんだそりゃって感じだけど。」
自分でも何を言っているのかと自虐的に笑いながら言い終えた瞬間、拓也は強い寒気に襲われた。
まるで大きな冷凍庫を開け放った時の感覚を連想させる寒気。一瞬ではあったが、驚いた拓也は両親の顔を交互に確認する。これと言って両親の表情に変化はない。
(なんだよ今の…俺だけか?)
突然襲い掛かったその感覚におぞましさを感じている拓也に父親が言葉を返す。
「…まあなんだ…疲れているんだろ。そんな夢を見ることもあるさ。」
「つ、疲れてるって…俺、帰宅部だよ?普段家でダラダラしてるだけだし。」
そんなやり取りをする拓也と父とのやり取りに母親が口を開く。
「やることないなら家で勉強もしっかりやりなさい。それに拓也ったら、ご飯まったく進んでないじゃない。せっかく早く起きたのに…遅刻するわよ?」
呆れた声の母親の言葉に、慌てて拓也は食事を進める。気づけばご飯は冷めていた。そんなに時間が過ぎていたのだろうか…。
「ごちそうさまでした!」
いつものように手早く朝食を済ませた拓也は、またいつも通り登校の準備をして小走りで玄関へと向かった。
靴を履き終え、家を出ようとしたところでふと玄関に来ていた父親から声を掛けられる。見送りなんてされたこともないのだが…。
「拓也…気を付けていってこいよ?」
「い、いってきます…。」
どこかいつもの表情に不安が少し混じった表情で告げる父に、拓也は恥ずかしそうに顔を赤らめ家を出た。
(病んでるのかと心配でもされたかな…夢の話なんかするもんじゃないな。)
拓也が急ぎ足で出て行った後もしばらく玄関を見つめている父の後ろ姿を、母もまた不安そうに見つめていたことを、拓也も父も知る由はなかった。




