プロローグ 予言と5人の救世主
とある王国の城下町、その中央に在する噴水広場にひとつの人だかりが出来ていた。
集まった人たちの視線の先は噴水の前に佇む見知らぬ風貌の一人の女性にあった。
灰色の薄汚れたローブを身に纏いフードを目深に被るその女性は、集まった人たちなど意に介さぬかのように無表情で淡々と言葉を口に出す。
「そう遠くない未来、世界に深き混沌が訪れます。しかし五つの光と共に混沌を打ち破る救世主が現れ世界を光で照らすでしょう。」
"予言者"
いわゆるそう呼ばれる存在はいつの時代も必ずどこかに現れる。
そんな戯言に耳を真剣に貸す者などいないだろう。
何か面白いことが起きるのかと興味本位で集まった人々は、それを予言と判断した途端、呆れの表情を浮かべ次々にその場を去っていった。
無意味に近いことをしているのだと、女性の変わらぬ表情はそれを自覚しているが故のものなのかもしれない。
まるで最初から何もなかったかのように、すっかり広場からは人がいなくなっていた。
"いつものこと"
そう女性が小さく溜息を吐くも、ふとどこからか視線を感じる。
その方向へと目を向けると少し離れた位置にまだ年端もいかない少年が立っていた。
少年は、どこか上気したような表情で興味深くこちらをじっと見つめている。
ずっとそこにいたのか、と小さな疑問を抱きながら少年へ目を向けていると当然のように少年と目が合う。
少年は女性と目が合っていることに気付くと、ぱあっと顔を輝かせ小走りで近づいてきた。
女性のすぐ近くへと走ってきた少年。
そのまぶしいまでの輝いた表情を見せる少年の頬には不思議な入れ墨があった。
船の錨だろうか…。
そう感じる女性の思案気な表情には目もくれず、少年は意気揚々と女性へ話しかける。
「ねえねえお姉さん!救世主って世界を救う英雄のことでしょ?その人たちっていつ来るの?僕も会えるかな!?」
創作に実話。
その真実はともかくとしても英雄譚を記した書物は多く存在する。
当然その英雄譚に胸を躍らせる子供も多く世の中にいる。
目の前の少年もその例に漏れない一人であった。
だがその少年の期待や希望に満ち溢れた表情に女性は強く心を打たれ小さく笑顔を漏らす。
その柔らかな笑顔は若い少女のそれであった。
落ち着いた女性の雰囲気を醸し出していた女性。
フードを被り、顔もよく見えない状態ではその女性の年齢までは予想するのは難しく、それなりに年を重ねていると大抵の人はそう思っていた。
しかしその素顔は十代半ばの少女のものだった。
見たものの多くを魅了するであろうその少女の微笑み。
唯一その表情を見ることのできた少年は、ただ目を輝かせ女性の返事を待っていた。
「英雄さんたちがいつ来るのかは私にもわからないの。でも…もしかしたらその英雄の一人は将来の君かもしれないね!」
少年に夢を与えるよう、笑顔のまま女性は優しくそう告げた。




