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驚きと慄き

作者: 鵜川 龍史

 朝、教室に入ると、みんなが妙によそよそしいことに気がついた。僕はあまり社交的な方じゃないけど、おはようぐらいは口にする。なのに今日は、みんな視線をそらして、僕の存在に気がついていないみたいだ。後ろの席の田辺に声を掛けても、なんだか上の空の返事で、すぐにトイレだとかなんだとか言って、席を離れてしまった。

 僕はすぐに三田のことを考えた。小学校で仲の良かった彼が、高校のこの同じクラスにいることを知った時、僕は今の田辺のような反応を返さなかっただろうか。

 三田は、僕と名前が似ていて、席が前後だった。最初に仲が良くなったきっかけはそれだけだった。そのうち、他に友人のいなかった三田は、僕を親友だと考えるようになった。複雑な気分だったが、お互いに同じゲームが好きだったことや、両親が共働きだったこともあって、一緒にいる時間が長くなり、関係を深めていった。

 そんな友人関係は長くは続かない。生活のサイクルが変われば、すぐに疎遠になっていく。中学三年間を吹奏楽に捧げた僕は、三田との接点を失っていった。

 だから、彼が高校の同じクラスにいたのに気がついた時には息を呑んだし、不意の言葉には何も言い返せなかった。彼の皮肉めいた表情に、僕の知らない三年間の落とした影が見えたからかもしれない。

 三田の視線を背中に受けながら数日、やがて彼は学校に来なくなった。

 僕はその時、どう思ったのだったか。ほっとしなかったと言えば嘘になる。その後ろめたさから、クラスでも少し引いた立ち位置を取るようになってしまった。

 次は僕の番だと思った。三田に手を差し伸べなかった僕の番だと。

 始業五分前、突然級長が黒板の前に立った。全員がなぜか着席している。

「えー、なんだ。……前置きはいいや。とにかく、誕生日、おめでとう!」

 クラス中がおめでとうを復唱している。言っていないのは僕だけだ。

「お前だよ!」

 後ろから田辺が背中をたたく。

 僕は驚きと戸惑いのまま、みんなに促されて立ち上がり、祝福の声を受けた。

 これは呪いだ。

「おめでとう、三田君」

 僕は三田じゃない。


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