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大正おぼろ譚  作者: 縞白
4/9

幕間





 橋の向こうに古馴染みの顔を見かけた。

 やあ、と手をあげると、おう、と手を振り返してこちらへ渡ってくる。


 どこかへ行くのかい、と訊ねると、ちょっとお前さんのところにな、と言われたので、それならちょうど良かった、と頷いた。

 私はつい先日、家を移ったばかりだったのである。

 なんだ、とうとう実家を追い出されたのか、と絡んでくるのに、そんなことを言うとここで放り出すぞと返せば、いや悪かった、今日はちゃんと手土産があるんだ、と慌てるので機嫌を直す。


 実家から出たのは、追い出されたからではない。

 相変わらずの無職で、体調もいっこうに戻らないが、多少は動ける日もあるので空き家の管理を頼まれたのである。


 そこは長年一人暮らしをしていた親戚が亡くなり、住む人のいなくなってしまった家で、なんだかよく分からないがらくたの山積みになった部屋が、幾つもあった。

 それで、住むついでにこれらを片付けてくれというので、近所の実家から毎日のように手料理を持ってきてくれる母と相談をしながら、もろもろの道具を仕分けているのだ。


 虫に食われた掛け軸が無造作に積まれているのをかき分けてみると、奥から精巧(せいこう)なからくり人形が出てきたり。

 花瓶のようななりをした奇妙な形の置物をどけると、下敷きになっていた極彩色の小さな織物があらわれたり。

 その探索は、存外に面白い。


 そんな話をしながら歩いていると、隣で聞いていた彼が、ずいぶんと夢中になっているな、と(あき)れ顔をした。

 この前すすめた書き物はどうした、ぼくは今日、それを読むつもりで来たのだぞ、という。


 なんだ、覚えていたのか、と私は返した。

 あまりに再訪が遅いので、言ったきり忘れてしまったのかと思った、と。


 今ここで呆れていいのは、私の方ではないだろうか。

 彼も、それで珍しく手土産など下げて来たのだろう、うむん、と分かりやすく言葉に詰まるので、その手の包みを笑って取りあげた。


 せっかく土産付きで来てくれた古馴染みと、こんなことで(いさか)うものか。

 ちょうど、家に着いたところである。


 片付けの途中で散らかっているが、まあ、上がってくれ。

 自分の書いたものを目の前で読まれるなんぞ、初めてのことでどうも緊張していかん。

 まずは酒でも入れようじゃないか。





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