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大正おぼろ譚  作者: 縞白
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序幕





 文机の前に座っている。

 先日ふらりと訪れた、古馴染みにそそのかされたせいである。


 具合を悪くして仕事を辞めた私に、彼は病人の手遊(てすさ)びには文筆が良いとすすめたのだ。

 昨今(さっこん)流行りの猫先生にあやかって、何がしか書いてみてはどうだ、と気軽く言う。


 すべての病人がそうもたやすく文筆家になれるのならば苦労は無い、と言いたいところであるが、働けず死ねもせず持て余す時間に負け、結局のところ私は文机の前に座った。

 猫を飼っているわけでもなく、とくべつ書くことなど無い、無いが暇なのである。


 好きに書け、次に遊びに来た時に読んでやるから、お前の読者はもう一人いるのだぞ、と彼は笑った。

 それで私は、書くことを思いついた。


 会えば親しく言葉を交わす古馴染みではあるものの、名も住家(すみか)生業(なりわい)も知らぬ彼は、昔から風体が変わらないように思われる。

 そして、そんな彼のように不思議な出来事と出くわしたことが、私にはこれまで何度かあったのだ。


 筆をとり、記憶の片隅で眠っていたそれらを幾つか引っ張りだして、(ほこり)をはらう。


 本当のところ君が何であるのか、知ったとしてもおそらく私は驚きはしない、と。

 それを問いただす気はなかったが、いつか彼に伝えられたらいいと、思っていた。


 だからそういう意味では、これは手紙なのかもしれない。

 すでに確約された唯一の読者へ、私が伝えたい言葉を(つづ)るものだ。



 はたして彼はこの手紙を、受け取ってくれるだろうか。






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