至って真面目です
「正義さん?」
「あー、なんでもない。
さっさと買って帰ろうか。急がないと、鉄弥君と智佳も明日学校だしな」
「え、あ、はい」
こちらをジーッと見てくる飛ぶ兎っぽい何かをスルーして俺達はコンビニへと入っていく。
賢悟も、関わると面倒になると察したのか、何も言わずに着いてきた。
「プロフェッサー、仕事してたんだ」
「え?何の話?」
そんな会話が後ろから聞こえたが…知らん!
店内を練り歩き、新商品のお菓子や飲み物を見つけては入れて、少しだけ時間を掛けて買い物をする。
「おつかれさまでーす。
珍しいっすねぇ、こんな時間に」
「ちょっと家族ぐるみの付き合いで、飯を食べててね。
食後のデザートを買いに来たんだよ」
「あー、良いっすねぇ。
という事は…そちらのお客さんは娘さんの彼氏で?」
「さぁ…どうなんだろうなぁ」
「え、いや違うッスよ!大丈夫ですから!魔法少女だけは勘弁してください」
「なんすか魔法少女って」
「昔、娘がしたコスプレの話しさ」
いつもの店員が笑いながらレジを通して商品を袋に詰めていく。
…この子は、いつも見る気がするな。学生さんなのに、よく働くな。
「コーヒーでも飲むか?」
「お、いいんですか?」
「たまにはな」
「ありがとうございますっ!遠慮なくいただきます!」
店員さんは、レジの横に置いてあるクーラーから缶コーヒーを一本取ってレジを通した。
ブラック派なのか。
俺も、ブラック派だな。微糖はなんか普通より甘く感じて飲みきれないんだよな。
「それじゃ、合わせて3,860円です」
「五千円からで頼む」
「お預かりします」
慣れた手際で会計を済ませる店員さんは、改めてお礼を言ってくる。
それに適当に返し、外の様子を伺いつつ店を出た。
よし、居ない。
「しかし、さっきのは何だ?」
「分からんが…鉄弥君が見えてなかったという事は、そういう事何じゃなかろうか」
鉄弥君にも見えていたら、それなりの反応をしたと思う。
しなかったと言うことは、見えて無かったんだろう。俺と賢悟だけが見えて鉄弥君には見えなかった。
歳とか色々違いはあると思うが…やっぱり、魔法少女関連だよな。
「さっきの?」
「飛んでる兎だ」
「は?跳ねてる兎じゃなくて?」
「飛んでる兎だ」
鉄弥君は賢悟の説明では理解できてない様子。まぁ、うん。俺も鉄弥君側だったらそうだわ。
しかし…あの兎、どこからかテロップ出して話してたな。
もしかして意思の疎通が可能な兎だったんだろうか。…そもそも、あれは兎なのか?
「ぶぅ!」
もしかして、敵だったのかもしれないな。
あまりに敵意が無さ過ぎて気づかなかった。そんな事があるんだろうか。
「ぶぅ!」
何やかんやで賢悟が魔法少女になったことで、仲間が増えた事で気が緩んでたのかもしれないな。今後は気をつけておこう。
「ぶぅ!!ぶぅ!!」
……スルーだ。
俺には聞こえていない。ついさっき聞いたような鳴き声なんて聞こえない。
「正義」
「どうした賢悟。
結菜と智佳が待ってるんだ。早く帰ろう。なぁ、鉄弥君」
「えっと…正義さん、もう家の前です」
「……」
横を見れば、間違いなく俺の家があった。
そして、家の側に立っている電柱の影から靡き見える白衣の端と、白い毛玉。その横では、俺の家の塀に寄りかかって携帯を弄っている若者系シャレオツファッション女子。
'オイ、コラ。聞こえてんだろ!'
はて、何か視界に文字が入った気もするが。…まてよ?家の場所がバレてしまってる訳だが、このままスルーして帰って、もしこの変人共が智佳や結菜と接触したら……それはいけないな。
「賢悟と鉄弥君は、荷物もって中に戻っててくれ。
それで、何か用ですか?」
関わりたくないけど、ここでとりあえず話を聞いた方が目的が大体予想できてる分、まだ安全だ。
話を聞くのは俺一人でいい。賢悟には後で教えればいいし、何より外でゴチャゴチャしてて万が一にでも結菜が話を聞いてしまった場合の方がマズイ。
賢悟…頼むぞ。
俺のアイコンタクトを受け取った賢悟は、一度だけ頷きいい笑顔でサムズアップをして鉄弥君と家の中へと入っていった。
…本当に分かってるのか賢悟。
「ぶぅ!!」
'おせーよ'
こんの毛玉…もふぷよの癖に、なんで若干高圧的なんだよ。
「あー、どーも。
こんな遅くにすみませんね。自分、こういう者でして」
白い兎と睨み合っていると、多分電柱に隠れていたつもりの男が名刺を渡してくる。
「ご丁寧にどうも」
「これはこれは…えっと、
稀月 正義さんって言うんですね」
条件反射で、俺も財布の中に入れていた予備名刺を差し出してしまう…。
何してんだ俺。
まぁ、名刺渡したのはお互い様だから、ある程度の情報交換って事で……
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魔法少女研究・支援代表
所属:本部
沢村 朋弥
電話番号
***-****-****
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………ふざけてんのかこれ。