跳ぶではなく、飛んでます。
「しかし、良かったのか泊まって」
「平気だよ。
客間も空いてるし、結菜も話し足りなさそうだったからな。
俺は明日も仕事だから、適当なタイミングで寝るけど」
「そうか。
千代も楽しそうだった」
「お互い、嫁に甘いな」
「惚れた弱みというやつだろな」
「弱みじゃねぇよ。結菜に惚れた所も含めて、強みで誇りだわ」
「正義…お前、たまにくっさいセリフをサラっと言うよな」
「ほっとけ」
食事を終えた俺と賢悟は、結菜が居る所では話せない話しをするために、記憶が曖昧な千代さんが思い出さない様に、とりあえず鉄弥君も連れて三人で買い物と称して出てきた。
智佳も着いて来ようとしたけど千代さんと結菜に捕まり、家に置いてきたが…まぁ、智佳がバラしたりはしないだろう。
「お、そうだ鉄」
「んだよ」
「智佳ちゃんとの距離を詰めるチャンスだぞ!ぐっと押して、ガン!といけ!」
「はあ!?俺がんなことするわけないだろ!」
ハハハ。まったく、賢悟はいきなりなんて事を言い出すのやら。
まるで智佳に夜這いでもかけろと言っているようじゃないか。
やれやれ…ダメだぞー賢悟。ダメだぞー鉄弥君。もし、俺の目が黒い内に智佳に夜這いでもかけようものなら………。
「貴様も魔法少女にしてやろう」
「ない!ないですから!ちーちゃんに手なんて出しませんから!」
「それは、智佳に魅力が無い。そういうことか?」
返事次第では、ゆるさんぞ。
「いや、そうじゃなくて!ちーちゃんは魅力的だけどですね!」
「ほぉ…やはり魔法少女がお望みか。待ってなさい鉄弥君。
次の敵倒したらスキルできっと相手を魔法少女にするスキルがあるはずだから…無かったとしても、必ず魔法少女にしてみせるよ」
「ああああ!親バカめんどくせぇ!」
「まぁ、鉄も正義も落ち着け」
「親父が振った話題だろうが!」
そうだそうだ!言ってやれ鉄弥君!うちの可愛い愛娘に手を出せなんて誘導する変態魔法少女に容赦なんていらないぞ!
とまぁ、まったく関係の無い話しをしていると、目的地であるコンビニに着いてしまった。
やれやれ…智佳の話題を出されると熱くなっていけないな。
大体賢悟が悪い。
「しかし、正義は智佳ちゃんにも甘いな。
その内、娘にも尻に敷かれそうだな」
「バカ言え。もう敷かれてる」
「確かに!ハハハハハハ!!!」
バカ笑いする賢悟と、お疲れ気味な鉄弥君と共にコンビニへ入ろうとすると、コンビニ前に設置されているベンチに座る白衣の男が目に止まった。
少し窶れ気味で、顔を伏せ頭を抱えている白衣の男。
その男がブツブツと呟く独り言が聞こえてくる。
俺は何故か足を止めて、その独り言に耳を傾けてしまった…。
「あぁ…軽い。来た時には重かったはずなのに、今ではすっかり身軽になってしまった。
一体何処で間違えたんだろうか…。
あの時に退いとけば、プラスで終われたものの追っかけてしまったからなぁ。いやでもあれは追っかけるでしょ。普通に考えて追っかけるね。
天井三回は無いわ…単発は無いわ…。
はぁ…そもそも、魔法少女を追っかけて遠路はるばる日本に来たっていうのに、シグちゃんがショッピングとか言ってどっかに行っちゃうのがいけない。
そんなの、久々に来た日本で一人置かれたらスロット行っちゃうって…行くよね?行くわ―。
結局シグちゃんは、ガチャガチャでキーホルダー持って帰ってきただけだったしさ。
それもだし、反応があった場所に魔法少女が居ないのが悪い。そうだ!魔法少女が悪い!居れば、シグちゃんがショッピング行くことも無かった!用事が終われば、即帰宅もあったね!スロットなんて行かなかったわ!旅費まで使わなかったわ!
つまり、居なかった魔法少女が悪い!QED.QED...」
丁度隣に灰皿が置いてあったから、タバコを吸いながら話しを聞いていたが…。
危ない人だわ。
夜中のコンビニ前で、白衣着て魔法少女の追っかけしてるとか宣言するなんて危ない人だ。
俺に合わせて聞いていた賢悟も鉄弥君も若干顔が引き攣っている。
そりゃそうだ。俺も若干引き攣ってると思う。
まぁ、なんで気になったのかは分からなかったが、この白衣の男がスロットで全額スッたと言うことと、魔法少女目当てと言うことは分かった。
しかし…まさかとは思うが、魔法少女って俺達の事じゃないよな?どっかのアイドルかなんかだよな?
「なぁ…正義…」
「どうした?」
まさかと思っていると、隣に居た賢悟がコンビニの入り口の方へと顔を向け、声まで引き攣らせた様に俺を呼ぶ。
俺も、それに返事しながら賢悟の視線を追うと…思考が一瞬停止した。
パーカー付きジャージに、なんか若者のオシャレ感のある紐が垂れている短めの髪の女の子が立っている。
だが、それよりも俺の思考を止めたのは、隣でパタパタとちっさい羽をすごく動かして浮遊している…まるまるぽてっとした兎。そう白い兎。
その兎は、俺と賢悟が見ている事に気付くと…
「ぶぅぶぅ!」
なんか鳴いて、何処からかテロップを取り出して俺と賢悟に見せつけてきた。
'え、もしかして見えてる感じ?'
テロップには、そう書かれていた。
知らんがな。
「最近の兎は、飛ぶのか?」
賢悟は小声で俺に聞く。
「知らんがな…」