悲しいけど、これって現実なのよ。
「まぁ、というわけだ」
「いや、というわけだ。で納得できるわけねぇだろ!」
「なんだ、まだ信じてないのか」
「信じちゃいるさ!もう…信じてるよ。
変な怪物は見たし、ぶっ壊れた家が直ったのも見た。
俺の親父と幼馴染の親父が、女装趣味の変態だったって事は…夢じゃなかった。
悲しいけど…夢じゃ無かった……」
「鉄弥君。俺は変態じゃない。
それだけは分かって欲しい」
俺への説明も兼ねて賢悟が鉄弥君へと一通りの流れを説明した。
鉄弥君の話しも聞いて、いくつか気になった事はあった。
まず、群れできた敵のことだ。
ボス的立ち位置だったあの巨大タクシーは、誰かと協力して鉄弥君を回収した。それもピンポイントで鉄弥君を。
拐いやすい子なら他にも居ただろう。なんなら、わざわざ学校から拐う必要すら無かったはずだ。
なのにわざわざ鉄弥君を狙った。
次に、賢悟の変身できた理由だ。
俺のように落ちていたわけではない。何者かが賢悟に向けて携帯を渡していった。
戦闘中に被害がいかない様に賢悟の方を見ていたが、そんな奴が現れた様子は無かった。正直、変身した俺なら近づかれれば気付く可能性の方が高いはず。それでも気づかなかった。
「しかし、家が直って良かったな!!」
「あぁ、敵が多かったからな。あの不思議空間の中なら、ポイントさえあればある程度のモノは修復できる。
人の命とかは、試した事がないから分からないが…賢悟の家ぐらいになると、中の家具とかの復元にポイントをかなり割くだろうから足りないと思っていたんだけどな」
「…ちなみに、ちーちゃんのお父さんはいつからへんた…その魔法少女?をやってるんですか?」
「変身歴八年だ」
「うわぁ…ちーちゃんは、その事は」
「先日バレた」
「うわぁ…」
俺に向いているはずの目線の先には、きっと智佳が居るんだろうな。
でも鉄弥君。その相手に同情する様な目をするのはどうだろう。智佳は受け入れてくれたぞ。
……マジで、智佳っていい子。これで、グレられたら…パパ、もう魔法少女止めてる。
「その、どうして魔法少女なんですか?魔法使いとかじゃ」
「さぁ?その辺は俺も分かっていないんだ。
変身してみれば分かるが、頭に'今、お前は魔法少女なんだぞー'って認識させられるから…魔法少女なんだろう。
おっさんが少女って意味が全くわからないが、そうなんだろう」
「そっすか…」
納得いかないだろう?鉄弥君。大丈夫だ、俺も納得なんてしていない。
あぁ、そうだ。このスキルを使ってみるか。
「賢悟、今から俺のポイントを少し送るから耐性に振っとけ」
「耐久じゃなくてか?」
「耐性だ。
俺が戦ってきた敵で、毒やら何やら使ってきた奴がいた事がある。
その時に必要になるのが耐性。
麻痺やら気絶やら催眠やらに対して、抵抗する不思議パワーだ。
後、変身した時に毎回あの服装になってしまう運命に対しての絶望感が減る」
「それは大事だ」
雑魚からちょっと強い奴、負けそうになった奴などと数えれば…ある程度数え切れる程度に倒した八年で、レベル的なモノは凄まじい程に上がっている。
平均がどうなのか分からないが、ここニ、三年は問題なく…むしろオーバーキル気味に俺のステータスがインフレしている気すらする。
魔力とかに振ってもいいが、今更振ったところでそれを使うスキルがスリープと肉体強化ぐらいしか無いし、何か覚えようにも、今から戦闘スタイルを変えて下手もしたくない。
せっかく覚えたスキルを使える機会でもあるし、俺は賢悟へと余っていたポイントを適当に渡す事にした。
スキル欄から'分与'を選択する。
すると、そこには賢悟の名前があった。それを選択すれば、渡す分のポイントを設定する画面に…。
数値を入力しながら考える。
やはり出来すぎている。
新スキルのタイミングから、鉄弥君拉致に賢悟の変身…作為的だとすら思う。
元々他に変身できる奴が世界の何処かに居るのか…それとも、賢悟が変身する事が事前に決まっててスキルが発現したのか…。
「どうした?」
「いや、なんでもない。
ポイント渡したから、振っとけ」
「お、本当に届いてんな!」
携帯を操作している賢悟から、隣で頭を抱えて唸っている鉄弥君へと視線を移す。
今回、鉄弥君の誘拐は俺をココに呼んで賢悟の変身に立ち合わせる為か…それとも、別々の何かが偶々重なったか…。
ああああ!考えても分からん!
漠然としすぎてる。
証拠も足りないし、全てが繋がってるんじゃないか?と思考が無理矢理繋げようとしてしまう。
「正義はこれからどうする?」
「仕事に戻るよ。
部下に投げて来たから、このまま任せちゃ定時に帰せないからな」
「そうか!なら、今晩久々に家で飯なんてどうだ?
色々と話したいこともある」
「なら、家の方に来てくれ。
お前の家は、誰が聞いてるか分からん。結菜には連絡入れとくから、8時…ぐらいかな?それぐらいに来てくれれば」
「おう!ならそうしよう!
鉄も準備しとけよ!久々に智佳ちゃんに会うんだからオシャレでもしとけ!ハハハハハハ」
「ちーちゃんと同じ学校なんだから、いつも顔ぐらいは会わせてるっての」
「まぁ、俺は戻るわ」
「おう!後で!」「あ、お疲れ様です」
賢悟の家を後に、車に乗って会社へと戻る。
家を出る最中に賢悟の部下がチラホラと帰ってきている様子も確認できた。
はぁ、とりあえず賢悟達の事は後で考えるとして…今は仕事を終わらせる事に集中すっかな。