筋肉質な魔法少女…?
息を整え、状況整理。
敵の数は不明だ。背後に飛ばした敵は'浄化'を掛けていないから、すぐに起き上がってくるだろう。
そして、鉄弥君が乗っていそうな敵もいない。
更には初めての集団相手か…。
連戦は何度かあったが、初めては幾つになってもそれなりの不安があるもんだな。
「だがまぁ、雑魚が群れてるならボーナスステージだ」
無数の二足歩行のバイクや車は、俺の言葉が理解できたのか触手を振り回しながら突っ込んてきた。
昔なら辛かっただろう。だが、8年間戦っていた俺には奴等の動きは遅すぎる。
変身前なら絶対に認識も反応もできない速度でも変身してしまうと、常人離れした動きも反応もできる。
ステータスの割り振り以外にもレベルの様な仕様があるのか、基礎ステータスの数値も上がり、それに比例してどんどんおじさん離れしていった。
振り分けられるポイントは限界まで筋力と敏捷に、基本耐性に振っている。
少しは他のにも振っていたりはするが。
まぁ、そこから言えるのは…
「群れでも雑魚だな」
俺を囲み、一斉に仕掛けてきた攻撃にも隙間はある。
その隙間を俺が抜けなれないなら、その隙間に身体を滑り込ませ無理矢理受け流す様に隙間をこじ開け避けていく。
当然、デスクワーク派な俺が武術を習っていた事も無く、変身してるからこそできる事だ。
怖くないのか?と聞かれれば、慣れてしまった。恥ずかしながら、昔はチビッた事もある。
もちろん、その事は誰にも内緒だ。言えるわけがないだろう。
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俺は、正義の言葉に従って距離を取り、庭の草木の間に身を隠し様子を見ていた。
光が包んだ正義は、正義が着るには何というか…犯罪になりそうな服に着替え終えたと思うと、化物共の攻撃を躱し、片っ端から叩き潰している。
その動きは、普段の正義からは想像できない動きだ。
昔から、ゲームやら本やらが好きだった正義ができる動きじゃない。
何が起きている。
その言葉だけが思考を埋めていく。
正義もそうだが、正義が戦っている相手も常識とはズレている。
車体から足を生やし、蠢く鞭の様な何かを振り回し、その威力と言ったら俺の家を全壊するには十分な程に。
夢を見ているんではないか?
そう思っても仕方ないだろう。それほどに見ている光景は現実から離れている。
正義は速度を上げ続け、今では目が追いつかない速度で戦っている。
敵も正義の動きに着いて行けていないのか、気付いた様子なく叩き潰され次々と敵は叩き潰され光となって消えていく。
「あれは、本当に正義なのか…?」
フリフリと着ている服を靡かせ、嬉しくもないチラリズムを披露しながら戦っているアイツは、本当に正義なのか?
核心は、不思議と光が反射して見えてはいないが、いつか見えてしまいそうで徐々に吐き気すら感じてきた。
「彼も伊達に8年間もアレと戦っては居ません」
「だ「振り向かないでくださいね」
突然、後ろから聞こえた声に振り向こうとしたが、その言葉を聞いて何故か身体が動かなくなりやがった。
「続きですが、本当に彼は8年間戦ってくれました。
でもまだ彼は辞められない。
そこで、褒美と言うわけではないですが、コレを置いて去る事にします。
後は、貴方次第です。彼を見て、どう言う選択をするかは…」
その言葉を言い終えると、金縛りの様になっていた俺の身体の自由は戻った。同時に、空気が軽くなった気がした。
気が付かねぇ内に、後ろに立たれた何かに重圧でも感じていたのか?
そのプレッシャーからの解放を感じ、体勢を変えようとした時に足に何かあった。
「…これは、正義の?いや違う」
当たったモノを手に取り確認すると、正義が見せてきた携帯の色違いだったようだ。
画面には、'0'を書かれた幾つかの項目。そして、名前を入力する欄がある。
それが何を意味するか、直感で分かった。
名前を入力すると、俺も正義の様に戦う事になると…。
先程の後ろの何かが言った言葉が脳内で響く。
選択。
携帯から視線を正義に戻せば、知らん男が着ていたらドン引きする…いや、知っているヤツでもドン引きする服装で次々と来る敵を消し去っている姿が映る。
良いだろう。やってやろうじゃねぇか。
もっと早く言ってくれりゃ別の方法で力になれたかもしんねぇのによ。
でも安心ていいぞ兄弟。
兄弟が死ぬ時は、共に散ってやろう。
『承認シマシタ』
その声は、持っていた携帯から聞こえ、何事かと画面を見れば、名前を入力する欄には俺の名前が書き込まれ、変更できない様になっていた。
そして、それを確認すると頭の中に情報が流れ込んでくる。
変身の仕方。ステータスの振り方。今、正義が戦っているのが俺の敵でもあると言う事。
その他にも細々とした情報が流れては記憶されていく感覚。
気持ちが良いもじゃねぇ。
だが、力と闘争心が湧き上がる感覚は悪くねぇ。
その高揚感に身を任せ、言う必要のない覚えた言葉を口にする。
「ぷりてぃめたもる!!!」
「んなっ!?」
俺の叫んだ言葉に驚き、こっちを見てきた正義に渾身のサムズアップを返し、俺は光に包まれる。
温かいと感じる光に包まれ、手先足先から力が漲っていくのが分かる。
まさか、この歳になってこんな事になるとは思わなかった。
服装が変わっていく部分を見ながら俺の顔は引き攣り、さっきの奴が言っていた本当の意味を理解してしまった。
上質な生地と分かる程に良い手触りの赤い手袋。俺の鍛え上げた筋肉を包む薄く赤いストッキング。
今まで感じたことの無い部分的な肌寒さを感じさせるのは、フワリと俺の腰回りに纏わりつく紅蓮の様に赤いフリルスカート。
そして、上半身にはヒートテックの様に身体に張り付き、その上から部分的にフワフワしている服。
これは辛い。
正義を見て、選択するのは戦うか戦わないかじゃない。この姿になるかならないかだったのか…。
唖然と若干の後悔をしている俺の脳内に一つの単語が浮かんだ。
なるほど…変身した姿はそう言うのか…。
御神 賢悟 38歳。
御神組の頭をしている。
嫁に子が一人。
正義は俺の親友、兄弟だ。
そして今日、俺は魔法少女の力を手に入れた。
一応、終わり方は決めてはいます。
もしかしたら、書いていって変わるかもしれないですが…。
そして、仲間の魔…?予定はもう一人だけ考えています。