一話 都久鎖学園
私が通うことになった小中高エスカレーター式の学園、都久鎖学園トクサガクエンは、亜灯アトウと言う地域にある。
そこに行く交通手段はバスのみで、亜灯に来る資格のあるものしか乗れない……と、厨二的な設定があるのだ。
設定というかそもそも、視えないのだけど。
亜灯行きバスは、魔の物と呼ばれる人外を視る目がなければ視えない。
先日引っ越し準備を終えた私は、そんなバスに乗って都久鎖学園へと向かっている。
荷物はある程度の着替えのみ。
そう、学園には寮もあるのだ。通学という手もありはするのだが、私は朝に弱いので寮一択だった。
家からのバスの出発時刻四時ですよ。無理、無理。
バスの外を眺めてみるも、常に樹、樹、樹……。
早々に眺めるのをやめて、スマホを操作してみるも圏外。森ですもんね。
学園では使えるのだろうか、と一抹の不安を感じながらバスに揺られるのでした。
◆◆◆
バスに揺られ一時間。都久鎖学園の門の前に立っている。
「でけぇ……」
「噂で聞いてたけど門すら規格外だな……」
同じく学園前で降りた黒髪眼鏡男子も感嘆の声をあげた。彼の言葉も良くわかる。
門は軽く数十メートルの高さがあり、塀はここからでは端が確認できない。
しばらく二人揃って呆然としていると、門が開き明らかに高級車が出迎えてくれた。
車から狐耳と尻尾をつけた書生服姿の男子学生が出てくる。あまりのミスマッチさに言葉を失う。
「都久鎖学園にようこそ、雪山夜澄さん、都深行ミヤコミユキくん。俺は、高等部生徒会長・狐宮零コミヤレイだ。
視ての通り妖狐だよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「どうも……」
しっかり受け答えする都君に対して、面倒くささを隠しもせず挨拶する私。
うん、都君は人間出来てる。
「立ち話もなんだし、高等部までの車内で寮と学園の簡単な説明をするよ。乗ってくれ」
私の挨拶に気を悪くしない生徒会長もかなり出来てる人(?)だな……。
言われた通り、手荷物を持って高級車へと乗り込む。中は広く向き合って座れるソファばかりか、机まで完備してあった。
「学園は広いからねぇ。移動は基本的に車なんだよ」
「常にこれです?」
「いや、これは初めて学園に来た時だけのサービス」
「「デスヨネー」」
流石に常にこれで移動という甘い現実は無い。都君とハモってしまった。
生徒会長曰く、基本的な行動範囲にはバスが出るらしい。
ただ、寮から学園までの移動距離は徒歩五分のとても近いので、朝寝を決め込む事ができるぞ。
「寮の門限は19時で、消灯時間は特に決まってないよ。食堂は男女兼用だけど二十四時間営業で、大浴場は21時にしまっちゃうけど部屋の浴室はいつでも使えるよ~」
「すごい、至れり尽くせりですね。俺たち金払ってないんだと思うとなんか申し訳ない」
「はは~、人間で視えるのって最近じゃあ貴重だからね。こちらから来て欲しいくらいだから、お金くらいなんのそのなんだよ」
世知辛い話である。しかし、私たち視える人にとっては無料で好待遇なので嬉しいばかりなのだが。
「それで、制服なんだけど、これが女子の制服ね」
そう言って手渡されたのはまさかの袴。臙脂色エンジイロが基調で紅葉があしらわれている。
「随分、古風ですね……。まぁブレザー似合わないので嬉しいですけど」
「初等部がブレザーだね。中等部はセーラー服だよ。ちなみに男子は、僕みたいな書生風か学ラン――帽子とマント有――を選べるよ」
「……書生服で」
都君は数秒迷って書生服を選んだ。多分、帽子とマントがなければ学ランを選んでたんだろうな。
ああいうのってなんていうんだっけ。……バンカラスタイル?
「丁度着いたみたいだね」
都君も制服を受け取った時、車が止まった。どうやら寮についたらしい。
車を降りると目の前にどこぞの豪邸ですか、と言いたくなるような建物が目に入った。
「こちらが寮で~す。西側が女子寮入口、東側が男子寮入口だよ。ここからは寮長が案内してくれるから。じゃあね~」
生徒会長はそれだけ言うと車に乗り込んで颯爽と去ってしまった。
嵐のような人だ。
「それじゃ、ここでお別れですかねぇ」
「そうだな。ああ、ちゃんと挨拶してなかった。さっき聞いたと思うけど改めて、都深行だ」
「そうでしたね。私は雪山夜澄です。よろしく」
会釈だけしてそれぞれ寮へと歩いて行った。