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チグハグなお出掛け

 人混みができていた。

 とりあえず、ショッピングモールへと足を運んだ訳なのだが、如何せん日曜日だからか数多くの家族連れやカップルで溢れていた。もし、逸れたら合流するのにも時間が掛かりそうだ。

「こりゃまたえらい人だかりだな」

「当たり前だよ。たまの休日くらいは友達とか家族と一緒に外に出掛けて、羽を伸ばしたり、遊んだりするのが休日らしい休日だからね。それに、買い物は何だかんだで時間掛かるし」

 なるほど、海は買い物は好きらしい。しかし、休日にも関わらずに人に揉まれながら休日を過ごすというのは逆に体を休められず、疲れが残ると思う。

「休日くらい家でゆっくりしたい。こんなに人が居る所にいると疲れる」

「そんな事を言ってるから、彼女もできないんだよ」

「そうかもな」

 俺は休日は外に出掛ける事が少ないので、出会いというのが他の高校生よりも少ないという考えが確かにできる。けれど、生憎今はゲームをやりたくて仕方が無いので彼女が居ようが居まいがどちらでも良いと言えばどちらでも良い。むしろ、その所為でゲームで遊べる時間が軽減されるのであれば居ないが良いだろう。

「何だか私にとって悪い方向に転がっちゃった気がする。お兄ちゃん、せめて私の体にいる間は休日くらいは外に出掛けてよね」

「それは重々承知してる。けど、お前休日になったらどこ行ってんだよ」

「買い物と後は運動」

「毎週毎週何を買う必要があるんだか。下着か?」

 途端に頭を叩かれた。思わず、叩かれた方を見ると、またもや海の顔が赤くなっている。今日一日でどれだけ顔を赤らめたら気が済むのだろうと考えていると顔がこちらに近づいて来ていた。自分の体ではある物の男の顔が近づいて来ると思わず気色が悪く感じてしまうのは自分が男だからなのだろう。

「外でそういうの言うのは止めてくれない。忘れてるかもしれないけど、今お兄ちゃんは私の体にいるんだからね。もし、私が下着だのなんだのを男の人に言ってたら完全に痴女っぽいから」

 他の人には聞こえない様に小声だった。確かに外で海の体で下ネタを言うのは羞恥心が無いと言えるかもしれない。しかし、海の行動が逆に女の子っぽい行動をしてる様に思ってしまう。口にはしないが。

「悪い、気をつける。せめて、人が少ないところで言うよ」

「できれば一切口に出して欲しくはないんだけどね……。買い物って言っても必ずしも何か買うわけじゃないよ。買い物だって言ってもウィンドウショッピングだけの時もあるし、それで欲しい物を見つけたりとかもするしね」

「それだったら、ネット使って調べたら一瞬じゃん。わざわざ見に来る理由が分かんない」

「分かってないなー。ネットの情報はあくまで情報しかないんだよ、お兄ちゃん。実物をちゃんと見て『欲しい!』って思えるか否かが重要だからね!」

 重要らしい。いまいち、ゲームソフトや本等しか買わない自分にとっては良く分からない行動だ。買い物は目当ての物を見つけたらそれを即座に購入して買い物終了で良いと思う。

「面倒臭いって顔してるね」

「当てもなく、そういう事するのって時間の無駄な気がして仕方ないからな」

「それじゃ、今してるのは?」

「そう言われて見れば、今目的も何も無いまま適当にうろついてたな」

「そういうこと。それに、実際に店に見に来ると全く興味の無かった物も興味出たりするしね。目当ての物だけ買って終わっちゃうと案外他の物って目に入らないから勿体無いんだよ」

 外に出るのにもそれなりに理由があったらしい。確かに、買い物をしても買った物以外はどんな物があったのか覚えていない。ここは一つ参考にさせて貰おう。

 すぐさま実践する様に店を見回してみた。すると、もうすぐ夏が来る為か半そでの商品が並び始めていた。

 白いチェックのワンピースやフリルの付いた薄手のシャツがすぐに目に入った。確かに、こういう服は可愛いかもしれない。着てみたら案外似合う事だろう、素材が悪くないのだから。

 男物と考えると服の種類が断然違う。

 服がこんなにも種類があるのであれば、見ているだけで楽しいだろう。

「海の言いたい事なんとなく分かったよ」

「そう?だったら良かった」

 人混みが多くて歩くのには難儀する物のウィンドウショッピングの楽しさに気付き始めたところで、見覚えのある奴が目に映った。そいつの周りを見回しても見知った奴もいなければ、誰かに話しかける素振りも見せない所を見ると一人で来ているのだろう。

「海ちょっと、こっち来てくれ。知り合いがいた」

「え?ええ!?」

 有無を言わさず手を握った。学校が始まる前だからこそ、説明しとけば都合が良いだろう。

「あの、すみません!もしかして君村さんじゃないですか?」

 出来るだけ初めて会った様な口振りで話し掛けた。その声に反応したのか目的の人物がこちらに顔を向けると、ハテナマークを浮かべた様な顔をして見ている。まだ距離があるので後ろの俺の体が人混みで見えていないのか、はたまた俺に注目し過ぎて後ろが見えていないのかどちらかは分からないが、駆け寄っている最中は顔がその顔が変わる事は無かった。

「ええと、君は誰?」

「あっ、私は大地の妹の海です!前に兄の携帯の写真に写ってたのと同じ人だったのでもしかしたらーと思って思い切って話し掛けちゃいました!」

 少し照れた様に見せる為に舌を出してみた。それが功を制したのか君村の顔が見るからに緩んでいた。その後、僅かに視線が上を向いた所を確認した事で俺の体も確認できたのだろう。作戦成功だ。

 顔を海の方へ向けて見ると、呆然とした俺の顔をしている。おそらく、思考回路が容量を超えたのだろう。「私はそんなんじゃない!」とかそんな気持ちが一緒に襲ってきて整理できなくて頭真っ白になったといった感じの状態なのだろう。

 ある程度には記憶に残しておいて貰わなければならないが、かえってこれは好都合の状況と言える。なので、後は好きにさせて貰うとしよう。

「そっか。海ちゃんは大地とは似つかないくらい可愛いね。僕は君村陽太って言うんだ。宜しくね海ちゃん」

「えへへ、宜しくお願いしますね!君村さん!」

 だいぶ年下の様に振舞いすぎたかもしれないが、概ね好感触なので良しとしよう。もし、入れ替わりが元に戻った時に実際の海と出会って態度の違いに愕然とする君村を見るのも少し楽しみだし構わない。我ながら非道だと苦笑して話を続ける。

「今日はどうしたんですか?」

「ああ、ちょっと欲しい本があってね。後はせっかく来たんだし、見て回ろうと思ってね」

「それじゃ、私と一緒ですね!」

「おや、そうなのかい?そういえば、海ちゃんと大地ずっと手を繋いでいるけどそんなに仲が良いのかい?僕の姉なんてまるで僕を下僕扱いだから酷いもんなんだよね……」

 思えば確かにずっと手を繋ぎっぱなしだったのを忘れていた。

 慌てて、手を離した。海が小声で呪詛の様な物をを呟いていたのが聞こえたけれど今は無視をする。というより、俺は普段はそんな姿にはならないのでほとんどお互い様だと思う。先にその状況を招いたのは自分である事は目を瞑る。

「いや、違うんですよ!この馬鹿兄貴ってば方向音痴だし、すぐ離れちゃうからそうならない様に手を繋いでたんです!ねぇ、お兄ちゃん!」

「え!?あ!うん」

「大地が焦っているというか、大声出すのって珍しいな」

「そうなんですよ、最近おかしくなっちゃいまして……。最近出たゲームをやっていた辺りから人が変わったみたいに大声出すし困ってるんですよ。うるさいし」

 少し言い過ぎたかと思い、顔を見てみると明らかに落ち込んでいた。このまま座り込んでいじけてもおかしくないかもしれない。実質、海は未だにそういう所があるのがとても面倒くさい。

「だから、ちょっと学校でもいつもと違った事をするのか心配で心配で仕方なくて……」

 話している時にあえて何度も海の目を見たので何が言いたいのかが伝わったのだろう。おそらく、今は怒りを身に秘めている事だろう。扱い易い。

「そんな、心配しなくても良いんだよ!」

「ほら、やっぱりすぐに大声を出す。カルシウム足りてないんじゃないの?お兄ちゃん?」

「ああ、うん。確かにいつもと違うな。よし、分かった!学校の大地の事は僕もちゃんと見ておこう」

「ありがとう!君村さん!」

 ここで、名前を呼ぶのは少しあざといのでやめておいた。これで、当分は安心かなと安堵の息を漏らした所で妙案を思いついた。

「それじゃ、私は母と合流して先に帰っとくからね!お兄ちゃんはせっかくだし君村さんと遊びに行ってきなよ!」

「えっ!?」

 海が驚いた様な声を出していた。まさか、置いて行かれるとは思っていなかったのだろう。しかし、考えて欲しい。高校生の兄の友達と兄妹が一緒にいる状況というのは変だろう。それに、おそらく君村と一緒に居た方が色々うまくやってくれるだろう。よくボーリングだのカラオケだの言ってるという話は耳にしているので間違いない。

「ちょっ!お兄……」

「それじゃ、後は宜しくお願いしますね!」

 海の声を遮って、俺はその場から離れた。

 さて、後は帰ってゲームをする事にしよう。

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