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学校の後のお楽しみ

 怒声が鳴り響いた。

「なんで、お兄ちゃん起こしてくれなかったの!私電車に乗ったまま寝ちゃってて終点まで行きかけたんだからね!というかそもそもお兄ちゃんが徹夜した所為でまだ凄く眠いんだからね!もうお兄ちゃんは徹夜禁止だよ!禁止!全くなんで徹夜もしてない私がこんな目に遭わなきゃいけないの!行った事もない駅に着いちゃった上に頭も全然動かなくてパニクっちゃったんだからね!って言うか聞いてるのお兄ちゃん!」

 取り付く島も無いとは言ったものだ。

 家の扉を開けてすぐに俺の体が見えたので大方の予想がついていた。家に入った途端に捕まってしまったので仕方が無く諦めた。その上、怒りが収まる気配を一向に見えなかった。

「全く、お兄ちゃんはこれだから……」

「お前入れ替わってるの忘れてない?」

「忘れてないよ!!」

 あまりに当たり前の事を言い過ぎて余計に火に油を注いでしまったらしい。海は今にも地団太を踏みそうなまでに全身をプルプルと震わせていた。

「それじゃ、入れ替わってる事母さん達にバレても良いの?まだ家にいるんじゃないの?」

 途端に炎が鎮火したかの様に押し黙った。おそらく、図星なのだろう。みるみる内に顔面が蒼白に変わっていった。そして、糸が切れたかの様に崩れ落ちた。

 慌てて体を受け止めてやると、スゥーと寝息を立てていた。おそらく、家に帰ってから寝ずに待ち続けていたのだろう。

 受け止めていた状態からおんぶの形に変えると岩を背負っている様に感じられた。まさか、自分の体がこんなにも重いとは思わなかったのでショックを受けた。部屋までおぶって行こうと考えていたけれど、階段に登っている最中に落としそうだったので、進路変更してリビングへと連れて行った。

「お母さん、お兄ちゃんいきなり玄関で寝ちゃったからリビングで寝かしといても良い?」

「良いよ。それにしてもさっきのお兄ちゃん凄い剣幕だったね。どうしたの?」

「ああ、徹夜してたみたいだから気が立ってたんだと思うよ」

「それじゃ、後で叱っとかないとだね」

 母さんはあまり気にしてないように服を抱えて居なくなった。きっと今からにもゴウンゴウンと暴れ出す洗濯機の音が家の中を響かせる事だろう。

 目が覚ます気配の無い海には適当にタオルを見繕って掛けた。そして、ほとんど見ることの無い自分の寝顔に自然と目に入った。

「こうやって自分の寝顔見ることってそうそうないよな」

 穏やかな寝息を立てて幸せそうに顔を綻ばせていた。そして、良いことを考えたと口に出してからすぐにペン立てを探した。すると、案の定ペン立てにはお目当ての物が入っていた。

 鼻歌を歌いながらそれを手に取った。

「さてと、何て書こうかなー」

 まずは眠っている海の前髪を上げた。頭では思案しながらもペンを持った手は戸惑う事なくおでこに向かい着地した。その途端に、流れるようにペンは動き始めていた。

 書き終わると後は妙に盛り上がった達成感と自分に対しての嘲りが後に残った。書き終わった時点で興味は尽きていた。しかし、存外眠っている人への悪戯書きは楽しい事が分かった。

 落書き中に起きるのではないかというギリギリのスリル感が高揚感を高めてくれる。その上、隙だらけのその姿になにかせずには居られないという好奇心は何よりも勝るらしい。ましてや、自分の体だと言うのが罪悪感を和らげた。

 なるほどと思いながら、油性と書かれた黒のペンを元の場所に戻した。何をされたか分かっていない海は落書きをしている時には顔を歪ませていたにも関わらず、それが終わるとまた幸せそうな顔に戻っていた。暢気な事だ。

 そして、制服を着替えていない事に気が付いたので海の事は置いておいて、そのまま鞄を持って海の部屋に戻った。出来る事ならば、本来の自分の部屋に直行したい所なのだが、女用のましては海サイズの服等は持っていない。なので、海のタンスから適当な服を取り出して着替えを済ませた。

 着替えが終えると足早に本来の自分の部屋へと向かった。

「続き、続きと!」

 部屋に入ってすぐ辺りを見回した。しかし、肝心のゲーム機が一向に見付からなかった。

「そういえば、昨日ゲームをやってた時って結構限界来てたんだっけ。となると、無意識で適当に置いたって事もあるって事だよな……」

 ただでさえ無意識に何かをした時の事は記憶に残りにくいのにその上で眠気で意識が朦朧としていた時ともなれば皆目の検討を付けようにも無い。

 必死になって、昨日の事を思い出す。何か一つでも思い出す事ができればあるいは芋蔓式で記憶が蘇る事もあるかもしれない。けれど、何も思い出せない。

「絶対に部屋にはあると思うんだけどな」

 おそらくベッド付近にあると踏んでそこを重点に探した。そこで壁とベッドが隣接した所が僅かばかり隙間ができているのに気が付いた。もしやとベッドから降りて、ベッドを手前に引っ張って壁との隙間を広げた。そして、案の上床に転がっているゲーム機を発見した。

 思わず安堵の息を吐いてゲーム機の電源を入れた。すると、充電ランプが光る場所が点滅していた。まさかと慌てて充電器を接続しながらゲームを続けると体が崩れ落ちた。

「昨日やった分のデータ全て消えてんじゃん……」

 海の言う通りだった。

 ゲームはねむた眼でする物ではない。セーブという一番重要な工程すらも意識から欠落してしまうのだから。

 何度同じ思いしたか分からない程の絶望を感じつつも、また昨日始めた所と同じ地点からゲームを始めた。

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