女子会話
何をしよう。
授業が終わり、ホームルームも終わった。土曜日の授業という事で午前中までの授業だった。もしも、午後まで授業がある様であれば自分の財布を忘れていたので昼ごはんを食べる事ができずに空腹に耐える事になっただろう。
ほっとため息を吐いた。
クラスの皆はホームルームが終わると同時に大半が教室から出て行ったので、まだ玄関口に溜まっている事だろう。あえて、そんな人混みに巻き込まれるつもりも無い。
うんと伸びをしていると宵歌が自分の席へとやってきた。
「海ちゃん今日は暇?」
「うん、特に予定がないけどなんで?」
「これから皆で服でも見に行こうかって」
宵歌が指差した方のクラスメート達がこちらに向かって手を振っていた。
「ごめんね、行きたいのはやまやまなんだけどね。今日財布忘れちゃったから行くに行けないから今日は遠慮しとく」
「はーい、分かった」
宵歌はクラスメート達の元へと戻っていった。
そろそろ玄関口が開いている頃だろう。今日持ってきた教科書を全て鞄に入れて立ち上がった。
「それじゃ、一緒に帰ろうか」
そして、何食わぬ顔をした宵歌がこちらに戻って来ていた。
「あれ?今日は買い物して帰るんじゃないの?」
「あれは誘われたから海ちゃんにも聞いてみただけだよ。それに、私も今月ピンチだからやめとく事にしたの。さあ、行こう」
宵歌は俺の手首を掴んだかと思えば、そのまま引っ張られた。こんなにも宵歌は強引だったのかと心の中で頷きながら為すがままに流される事にした。
「そうだ、海ちゃん。オルティアリアはどこまで行ったの?私はアミルスの村まで行ったんだけどそこで詰まってて……」
「ああ、あそこかー。あそこの村の村長探すところで止まってるんじゃない?」
「そうなの!」
思わず反応してしまった。
オルティアリアは俺が買って嵌っていたゲームだった。その所為で寝不足だったと言っても過言ではない。アミルスの村は中盤に差し掛かる前の村でそこから先に進めるために村長を探す必要がある。しかしながら、情報が少ないのでどこに村長がいるのか分からずに村の中を一時間はさ迷い歩き続けた。
「あそこの村はまず、全員の村人に話しかけてから村人の話をヒントにして順番に話していかない先に進めない様になってるんだよ」
「そうだったんだ」
途端に俺の手首を離して、メモ帳を取り出してそこに何かを書き込んでいた。大方、今の話をメモしているのだろう。
「攻略サイトとかならもう載ってると思うよ」
「ネットの攻略情報は当てにしたくないし、余計な事を知りたくないので見ません」
それはタブーだと顔に書いてあった。確かにネットを使ってしまうとネタばれする事が多いのは確かだ。
「ああ、早く帰って続きがやりたくなってきた!」
もう待ち切れないとうずうずし出していた。
「私も早くやりたいな。今良い所だし」
「そうだ!まだどこまでやったか聞いてない!」
「言ってもいいの?ネタばれしちゃうけど。それじゃ……」
「ああ!ああ!待って!やっぱり聞きたくない!言わないで下さい!」
耳を両手で騒いでいた。本当に楽しんでやり込んでいるらしい。そんな姿を見るとついつい意地悪したくなってしまう。
「実はリクトが……」
「わー!わー!」
そんな反応が新鮮で笑みが零れてしまう。
「本当昔から底意地の悪い所は変わらないですよね」
呆れて宵歌はため息を吐いていた。しかし、仕方がないと思う。昔会った時から表情がコロコロと変わる奴だったのだが、今でも変わっておらず見ているこちらがとても楽しくなるのだ。だから、ついついからかってしまう。
「ごめんごめん」
「まったくもー」
玄関口まで辿り着いてもゲームの話が終わる事は無かった。靴を交換している時でさえも会話は続いていた。
「やっぱりアレスが仲間の中でも最強ですよ!アレスは敵の攻撃を受けきってくれるし、アレス一人で攻撃してたら敵を倒してくれるから、タンクとして最強クラスだよ!」
「いやいや、待ってよ。確かにアレスが硬いの認めるけどさ。敵を倒すのが一番良いのはシュラカだよ!シュラカさんは攻撃もできるし、サポートもできるしパーティの要でしょ!」
「私はシュラカ使えないと思って、即行でパーティから外しました」
「なんだと!」
ゲーマーというのはなんとも厄介なものでそれぞれのプレイスタイルがある様で自分と合わない時には食って掛かる物だった。しかし、そんな剣呑な雰囲気ばかりでもない。
「メリナちゃんがいたからドグラ村を乗り越えられたと思う」
「それは間違いない」
二人で思わず大きく首を大きく振る事もあった。
そんな他愛のない話を宵歌と別れるまでの間延々と続けていた。




