明くる朝
目が覚めた。
部屋には日が差し込んでいるし、鳥もチュンチュンと鳴いていた。
寝起きは最高だった。うぅんと大きく伸びをすると頭が覚醒し始める。そして、部屋を一回見回した。すると、そこには巷で有名な美少女の描かれたアニメのポスターが飾られていた。これだけ、貼っていたら自分の部屋だと思うのだが、俺の部屋にはポスターが貼っていない。
はてと、首を傾げた後に自分の身体に目を向けてみると、自分の胸元に緩やかな起伏があるのが目に映った。
「ふむ」
一先ず、胸元を触った。すると、確かにそこには女性の膨らみが感じられた。そして、今自分がどこにいるかを把握質した。思わず腕組みをして唸っていると、扉の音が開いた様な音がしたかと廊下の方でドタドタと大きな音が立っていた。そして、自分がいる部屋の扉が耳を劈く様な轟音でを立てて扉が開いた。
「お兄ちゃん!私達入れ替わってる!」
余程慌てているのか海の息がとても荒かった。おそらく、頭の中では「どうしよう!」という言葉が終わりの無い無限ループを続けている事だろう。
だからあえて短く「知ってる」と答えた。そうすると、俺の簡単な返事に頭が冷えたのか海は一度深呼吸を始めた。
「ねぇ、なんで私達入れ替わってるんだろう」
「昨日、頭ごっちんこしたからじゃないかなー」
昨日の記憶は晩御飯を食べた辺りから曖昧だった。そして、頭をぶつけ辺りからはもう完全に記憶がないので、原因はおそらくそこが原因だと思われる。
「それじゃ、もう一回頭突きをすれば入れ替わるかもしれないって事だよね!?」
まだ、頭は混乱しているようだった。少し落ち着こうとしても混乱というのはなかなか解けないものらしい。色んなアールピージー系統のゲームでも混乱の状態異常はやっかいなものだ。自分を攻撃しようとさえもする。それを目の辺りにしているようだった。
「いや、一先ず落ち着こう。な」
しかし、海は先手必勝とは言わんばかりに頭を振り被りそして、有無を言わさずその頭を振り下ろした。
なんとも大きなスイングだった為、衝撃もまたさる事ながら被弾部分には思わず蹲る程の激痛が走った。
その場には、海と自分の頭痛と呻き声が残っていた。
「ひたい……」
「それはこっちの台詞だよ。入れ替わりも元に戻らないしさ」
踏んだり蹴ったりだった。そして、何よりも海の方が痛そうにしている。まぁ、自業自得なのでそこの部分に掛ける言葉は持ち合わせてはいない。しかし、痛過ぎたのか目元には涙を蓄えていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない……」
蓄えていた涙はやがて重さに耐えられなくなったのか目元から流れ落ちていた。自分の身体が流している涙を見るという状況はなんとも奇妙に映った。
「さて、それじゃ今後どうするかとかも決めないとな」
「今後?」
「そ。今から後の事まで。すぐに戻れそうには無さそうだからな。それに、何か友達と約束してるんならそれに合わせないといけないだろう。後は友達の事とか教えてくれると助かるかな」
「そういえば、私もお兄ちゃんの友達の事とか全然知らないや」
「そういうこと」
海もある程度に理解してくれた様だ。
「それじゃ、私からね。今すぐにやらなきゃいけない事とかは特に無いし、友達との約束は特に何もしてないから心配しないで」
「分かった」
「宵歌ちゃんはお兄ちゃん分かるっけ」
「ああ、宵歌は分かる。というか、宵歌とまだ一緒だったのか」
「クラスも一緒だよ」
「それじゃ、後はいいや。宵歌がいるんだったらなんとかなるだろうしな」
最近宵歌に会う事はなかったけれど、あの性格だったら多分問題無いだろう。海も最初こそ驚きはしたものの概ね反応は良好だった。宵歌だったらもし俺がボロを出してもフォローもしてくれそうなので問題ない。
「それじゃ、お兄ちゃんはどんな感じなの」
「俺もお前と同じで特になんも無いから気にしなくても良いよ。そして、困ったら同じクラスの君村って奴に話し掛ければ良いよ。気の良い奴だし、多少変でも普通に接してくれるから。あいつなりの接し方にはなるけどな」
「その人の特徴ってあるの?」
「ああ、ちょっと太目の黒縁めがねしてる。後はなんか終止元気そうな感じ」
そこまで言った時点で海はなんとか察してくれたようだった。誰かさんが頭の中で出てきたのだろう。そのまま想像して貰ったら問題ない。
「他の人は?」
「後は周りと適当に話したら良いよ。特定の誰かと仲良くみたいなのはない」
もちろん嘘だ。他にも仲が良い友達はいるけれど、さりとてそれを気にする様な事はない。喧嘩したら面倒臭い事にはなるけれど、それ以外だったら挨拶すれば会話の輪に入っても問題ない。こんな起こってしまった現象に物事を強制される必要も無いので後はまかせる事にした。
「うん、分かった」
「それにしても、今日が休みで助かった。また昼頃くらいに学校の場所教えてくれよ」
「えっ、今日私学校あるよ?」
「へ?」
そういえば、海って土曜日の朝良くバタバタしていたのを思い出した。あれは土曜日に授業がある学校だったのかと今まで疑問に思っていた事が氷解した。
「海の学校は登校時間どのくらいだっけ?」
「まだ、余裕はあるけどそろそろ準備しないとまずいかもしれない」
「この際、今日はブッチしっちゃうっていうのは」
「認めない。皆勤賞掛かってるんだから」
海の朝は毎日ドタバタしているからてっきり遅刻でもしているのかと思っていたのだけど、案外そんな事はなかったらしい。こういう所は案外生真面目だ。
「それじゃ、そろそろ準備を始めようかな」
それではと、海の通っている高校の制服へと着替え始めた。その際に、隣で海が騒いでいるのは言うまでもなかった。だって、ブラジャーとかつけた事は一度も無いので仕方が無いというものだろう。